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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第十章 愛する者のために

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感謝するアラストラ

「よお、どうした?」

「今日は休みだからな。ちょっと街をぶらついていたら、オーディスワイアの名前を掲示板で見つけてな。それで気になって来たという訳さ」

「掲示板に? なんでだ?」

「なんだ、本人が聞かされていないのか? 掲示板に神殿からの正式な通達として、オーディスワイアを『象徴武具職人』に任命したと紙が貼られていたぞ」

「象徴武具……ああ、そんな事を聞かされていたかもしれない。すっかり忘れていた」

「おいおい、錬金鍛冶師としてこれ以上ない、誉れ高い仕事じゃないか」

「そうなのか? まあ世間的にそうだとしても、俺は錬金鍛冶師の一番の仕事は優れた武具を作り出して、冒険者の支援サポートをする事だと考えているからな」

 するとアラストラは呆れ半分、感心半分といった表情をする。


「これほどの武器を作れるのも、その一意専心のこころざしがあってのものかもしれないな」

 彼はそう言って魔法の剣を返してきた。

 俺はそれをケベルに渡し、刃を研いでから「武装測定器」に掛けるよう指示を出す。



「ま、それともう一つ、礼を言っておきたくてな。それで来た」

「礼?」

「コルゼアが世話になったようだ。あんたのお陰で殻を破れたらしく、以前とは打って変わって活躍しているよ」

「……誰だ? コルゼアって」

 俺が真顔で尋ねると、いよいよアラストラは盛大な溜め息をいてみせた。


「先日、ここにうちの旅団の男が来たはずだが。若手を数名引き連れて」

「ああ、あの男か。足を使って回避するより、無理に相手の攻撃を弾いて防御を崩させようとしていた、あの」

 そう言ってやると、アラストラは気まずそうな顔をした。

「まあ、その──なんだ。うちの旅団では、正面からの打ち合いを制した者が勝つ、という教え方が通例でな……」

「その考え方は直した方がいいな。せっかくの才能を腐らせているぞ。コルゼアのような機敏に動いてさらに気配を消したりできる奴には、変則的な戦い方をやらせた方が絶対にいい」

「そうだな。まったくそのとおりだ。俺達のような腕力と剣気主体の戦闘形態(スタイル)を、あまりに押しつけ過ぎていたと反省しているところだよ。

 何しろオーディスワイアから教わったという戦い方で、今までまったく勝てなかった上級冒険者に苦戦させるばかりか、中には勝利してしまった相手も居たくらいだ。これからもっと伸びるだろうと、古参の連中も驚いていたよ」


「攻撃を弾くだけが相手の体勢を崩させる動きじゃないと、なんで今まで誰も言い出さなかったんだ?」

「まあ、うちの旅団じゃ戦闘訓練なんて飾りも同然で、最近やっと、外部の冒険者と合同訓練をするようになったくらいだからな。

 レクトくらいの若い奴は対人戦闘にも力を入れているが、古参は『そんな事をしている暇があったら、冒険に出て学べ』という考えだった訳だ」


 まあ、各旅団に根差した「風土」があるのは理解している。

 剣技に特化し、魔法を全く使わないような旅団もあるらしい。

 恐らくだが、そうした旅団の剣技を笑っていたのが「蒼髪の天女旅団」の連中だったのではないだろうか。

 彼らが自分達の豪快な剣気の技を誇るのは理解できるが、旅団の団員全てにそれを押しつけるのは違うだろう。


「一番の理由は、斥候せっこうや単独行動での戦闘形態よりも、集団戦での戦い方を重んじていた所為せいだろうな」と、アラストラはつぶやいた。


 盾役が敵の攻撃を受け止め、弾いて体勢を崩させ、その隙を狙って攻撃役が追撃する。それが集団戦の定説セオリーだった訳だ。

 それは多くの旅団で行われるものだが、うちの旅団では最後は個の力を頼みにする状況もあると考え、個人対個人による戦闘に力を入れている。


「だからって極端すぎだろ……」

「本当にな」

 その言葉は他人事ひとごとのような物言いだが、本当に恥ずかしいと思っているようで、ともかくコルゼアの件は世話になったと、また頭を下げるのだった。



「ところでさっきの剣は、誰か決まった持ち主が居るのか?」

「いや、たまたま造っただけだが」

「た、たまたま⁉」

「どうした」

「いや──、うちの旅団の鍛冶師にも魔法の武器を造らせているんだが、ほとんど成功していなくてな。管理局の方で魔法の武具に関する講習をやっているので、それにも参加させたんだが……」

「上手くならん、と」

「特に、対立属性の成功率はゼロだ。どうすればいい?」

「それは────」


 それは知性と感覚の問題だと俺は考えていた。

 ただ物体を打って加工するだけでなく、そこには霊的な、精霊などの魔法の力に関わる神秘の力が加わっている。魔法の武具作製の作業には知性から得られた感性や、理性の結び付きも関係している。そのように思うのだ。

 魔力の流れを通じてそこに精霊の力を送り込むのは、それを造る鍛冶師の技量だけでなく、霊的な(精神的な)在り様も関わっているのではないかと。


 だからこそ対立属性を組み込む難易度は、その鍛冶師の取り組む作業の、神秘的な部分に関する知性が問題になる。


 対立する力に均衡バランスを与えられるのは、その原理に対する不断の取り組みをしている一人一人の人間。技術屋としての鍛冶師ではなく、き出しの、裸の、ありのままの人間としての生き様が、その結果に寄与するのではないかと。


 それを言葉で説明するのは難しかった。

「その人の魂の在り様によって結果が変わる」とでも言えばいいのだろうか? そんな事を言われたら、多くの職人は困ってしまうだろう。

 日常生活から改めろ、とでも言われているように感じてしまうかもしれない。

 しかし精神の成長、または魂の形状とでもいうものが影響して結果に変化を導くのは、俺の感覚からすると「疑いようがない」ものなのだ。


「どうしたもんかね……」

 俺はそんな風にアラストラに答えるしかなかったのである。

錬金鍛冶の魂とか思考とか、やや難しい問題ですが、精霊の対立構造は「争う」類のものではなく、必然的に(構造的に)反発するものなので、その全体構造に対する理解が必要なのです。

人は私情(感情)で対立しますが、精霊とか世界の法則とかにはそういった独特の抵抗は存在しません。

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