会食と乱入者
新年の特別投稿です。
またしばらく休むかも……
「まあまあレーチェ。話は聞いているよ」と父親のアグレイドが娘を宥める。
「団長を信頼しているからこそ、無理難題とも思われる『生命の天輪護符』を造るなどという難しい依頼をしたのだろう?
リーティスも二人の仲睦まじいやりとりを見て、二人は近々婚約するだろうと言っていた」
「リ~ティスぅ~~‼」
物騒な声色で妹の名を呼ぶレーチェ。その形相は照れながら怒っている般若の様だった。
「落ち着けよ」
俺は立ち上がっているレーチェの腕を掴み、椅子に座らせた。
「俺としてもレーチェとは仲良く、できればずっと共に居たいと思っています。何しろ団長と副団長ですから。──まあ個人的な部分でも、もっと親密な関係になれればなぁ、とも思っていますが」
俺の言葉にレーチェの両親はにっこりと笑い、リーティスは「意外だ」といった顔をして口元に手を当てていた。
「も、もう。何を言っているんですの」
言いつつレーチェは席に着いて、俺の脇腹を小突いてきた。
俺がざっくばらんに内心を吐露した事で、両親とも打ち解けた感じで話が出来た。
アグレイドが食前酒や前菜を運ばせると食事が始まり、旅団では見かけない美しい皿に載せられた、様々な料理が数多く出された。
どれも彩り豊かで美味しく、どこか地中海を思わせるような料理が出された。会話の合間に葡萄酒を勧められながら、次第に料理の味よりもレーチェの機嫌や今後の事を考え、早く帰りたいと思うようになっていた。
中心となる食事が終わると、食後に乾酪や小さな焼き菓子などが出され、俺とレーチェは三人に旅団での活動や、冒険について話したり。錬金鍛冶で造り上げた魔法の剣の性能について説明したりしながら、彼らが興味を持って尋ねてくる事に答えていた。
俺はその合間に旅団に送られた食料に感謝を伝え、葡萄酒や料理を褒めた。
そこに執事が慌てた様子でやって来て、領主であるアグレイドの側に行き、小声で何かを伝えていた。
「なに? あいつが……」
「はい、今は待つようにと伝えたのですが──」
と、廊下の方が騒がしくなり、誰かが歩いて来る足音が近づいて来るのを感じた。
「まさか……!」横でレーチェが呟く。その表情は強張っていた。
すると食堂の扉が音を立てて大きく開かれ、白い衣服に身を包んだ──ふくよかな男が現れた。
フォロスハートに来て以来見た覚えのない、ぽっちゃり体型の──いや、肥満体型の男がずかずかと食堂に入って来ると、大仰な身振り手振りをしながら「父上! 母上! おひさしゅうございます!」と口にした。
執事は横に身を避けながらも、無礼な乱入者に舌打ちしそうな顔をして頭を下げているのが見えた。
「クェイフ。なぜ来た? 今我々は──」
「なんの! すぐに帰りますとも。聞けばレーチェが領地に帰っていると聞きまして、もしやと思い会いに来たのです。おお、妹よ! 元気にしていたか?」
その白い服を着たデ……いや、レーチェの兄は、大きく手を広げてレーチェに近づいて来ようとし、そこで初めて俺の存在に気づいた様子だった。
「おや? こちらの御仁は初めて見るな? 何者ですか? 父上」
振り返り父親に問い掛けると、アグレイドは溜め息を吐いて、無礼な息子の非礼を詫びるようにこちらに視線を送ってくる。
「その方は、レーチェとお付き合いされている、金獅子の錬金鍛冶旅団の団長であるオーディスワイア殿だ」
俺はレーチェに兄が居るとたった今知り、唖然としながらお辞儀をした。
こちらに来て以来久し振りに見た肥満体型の男。それは一目見ただけで分かる肥満男だった。
顔を見ると、痩せていればなかなかの美男子だっただろう面影がある。どことなくレーチェやリーティスを思わせる眼差しを持っているところは、兄妹であるという印象を感じさせた。
「なんと!」
俺が挨拶するとクェイフは大仰に驚いて見せる。
「もちろん知っていますとも! この人が西海の大地を繋げるのに尽力したあの! なるほど! 確かに逞しい冒険者といった感じだ!」
大声でそうまくし立てる。
レーチェは小声で「静にしてください」と漏らしていた。
何故レーチェが兄の存在を言わなかったのか、なんとなく察せた。ここまでの肥満男が兄と言うのが躊躇われたのだ。
何しろフォロスハートの食料事情を鑑みるに、ここまで太るというのはあり得ない事だ。──そこそこふくよかな体型の人は居るが、中年の小太りくらいのもので、明らかな肥満という者はフォロスハートには一人も居ないのだから。




