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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第十章 愛する者のために

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彼女の想いと、おかしな夢

 レーチェの背中を見送りながら、俺は柔らかな感触が残る頬に触れた。

 彼女にとっても、誰かからの告白を受け入れ恋人関係になるというのは、覚悟のいる事だったようだ。

 先ほどの口づけは彼女なりに、今までの関係から変わったという、そんな気持ちを表したかったのではないか。ぼんやりとそんな事を思いながら自室に戻った。


 庭に出て体を冷やした所為せいか、寝台ベッドに横になると自分でも驚くほど速やかに眠りに落ちていた。

 もっと悶々(もんもん)として、寝付けないのではないかと思いながら横になったのだが。



 * * * * *



 夢の中で、俺は顔がはっきりとは分からない女と二人で、湖のほとりに座っていた。

 特に会話をするのでもなく、ただ日当たりの良い斜面に座って、青い湖を二人で眺めている。


 しばらくすると、女は見慣れた小さな編み籠(バスケット)を取り出して、サンドイッチか何かを勧めてきた。

 俺が手を伸ばしながら籠の中身を覗いた時、そこには蜂蜜に溺れる白いねずみが居た。

 琥珀色の蜂蜜の中に沈んでいる鼠が苦しそうに暴れているので、俺はそれをつまんで引き上げてやった。

 すると白い鼠は怒り出した。溺れ死ぬところを助けてやったのに、そいつは手足をばたつかせてチュウチュウと鳴きわめき始めた。

 俺は憤慨ふんがいし、その鼠をどこかへ投げ捨てた。



 * * * * *



 ──というところで目が覚めた。

 夢というのは脈絡もないし、辻褄つじつまだって合わないものだが、今回の夢の内容はちんぷんかんぷんなものだった。

 ふと、あの白い鼠は地の神ウル=オギトだったのではないかと思えてきた。そういえば鼠にしてはずいぶんふっくらとしていたような気がする。


「……まあいいか」

 夢診断をしている場合でもない。今日はレーチェの実家に行くという、大きな催し(イベント)があるのだから。

 俺は朝の日課ルーチンを済ませる為に立ち上がった。

 それらの作業をしながら、今日の予定に備える為に部屋に戻ると、一張羅いっちょうらを準備し、朝食を食べに食堂へ向かう。


「あ、おはようございます」

 部屋を出て階段の前に来るとエウラとラピスに会った。彼女らは猫達に餌を与えているようだ。

 廊下の先にはダリアとフレジアの姉妹が歩いて食堂へ入って行く姿が見えた。

「おはようさん」

 と声掛けしつつ、エウラ達の横を通り過ぎる。


 すると後方からエウラとラピスの驚いた声が聞こえ、それから彼女らの笑い声が聞こえてきた。

 何かあったのかと思い、立ち止まって振り返ると、俺の後ろには子猫達が三匹、並んでついて来ているところだった。

 子猫達は一列になって俺の後方を追い駆けてきていたのだ。俺が立ち止まると子猫達も立ち止まり、俺が歩くと歩き出す。所謂いわゆる「ドラクエ歩き」というやつだ。


「なんだお前ら。ついて来ても何もないぞ」

 そう言って食堂に向かうと、子猫達も俺の後をついて来て、ぞろぞろと食堂に入って行った。

 まるで猫だけの一団パーティを組んだ勇者だ。

 せめて猫ではなく、虎くらいだったら様になっていただろうが。

「おまえ達の名前はアムール。ベンガル。サーベルと付けるぞ」

 椅子に座りながら言うと、子猫達は何故か俺の椅子の後ろに並列して座り込んだ。


「朝からにぎやかですわね」

 しばらくしてレーチェがやって来てそう言われた。彼女は子猫達の様子を見て微笑ほほえんでいる。

「なんかついて来たがるんだよな。子猫達には何か思うところがあるのかね?」

「何か特別な匂いでも嗅ぎつけているのでしょうか」

「別にいつもどおり風呂に入り、就寝しただけだが」

 昨日の夜、レーチェに口づけされたくらいか。そう思ったが、口に出すのは止めた。


「朝食後に馬車の停留所に向かいましょう」

「そうだな」

「まずは私の領地に向かうのでよろしいですわね?」

「そういやクラレンス領もいくつかの領に分類されているのか。各地に名前があったり?」

「いえ『クラレンス北部領』とか『クラレンス西部領』といった呼び名があるだけですわ」


 レーチェはその中の一つ、南東部領地の小さな区画を治めているそうだ。

 東や西といった大きな領地は父親が治めているらしい。


 何か言い渋っている様子だったが、そこに朝食が運ばれて来たので、俺達は食事を済ませる事になった。

 食事になると椅子の後ろに座り込んでいた子猫達が、一斉に俺の足にじゃれついてきた。

 子猫達が狙っていたのは、どうやら魚卵だったようだ。

 小魚が持っていた卵を丸ごと焼いて、海苔の佃煮つくだにのような物を塗って味付けしたやつだ。


「なんでそれで、俺の所にぴったりと張り付いてやがったんだ……」

 俺はぶつくさ言いながらも、子猫用に小さくしてやったそれをてのひらに乗せ、一匹一匹に食べさせてやった。


「あなたがここの主人だと思っているのでは?」とレーチェが笑いながら言った。

「それにしても、他にも餌をくれる奴は居るだろうに」

「それは子猫に聞いてみませんと」


 魚卵は栄養があるだろうが、俺はあの匂いが苦手なので敬遠しがちだった。子猫達はそれを見越していたのかもしれない。この料理は海苔のおかげで強い匂いが和らいでいたが。


 子猫達はちょっとのおつまみで満足したのか、壁際に置かれた椅子に飛び乗ると、そこでちょこんと座り込んで、仲間の食事が終わるのをじっと見ていた。

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