レーチェの想いと告白と
勝敗が決すると、今まで静かに俺達の闘いを見学していた仲間達が一斉に拍手をして、俺とレーチェの健闘を讃えた。
最後に見せた強引なレーチェの連続攻撃。
あれを見た瞬間に俺は、リゼミラとの戦闘を思い出していた。
全盛期、幾度となく二本の木剣を振り回すリゼミラの相手をしてきたのだ。その対戦の記憶の中には、体を回転させて何度も斬り掛かってくるリゼミラの激しい連続攻撃の記憶がある。
レーチェの連続蹴りからの木剣の一打は、その頃の苛烈なリゼミラの剣筋を思い起こさせるものがあった。
(正直、肝が冷えたぜ)
俺とレーチェは向かい合い、礼をして決闘を終えた。
「かなり無茶な動きをしたな」
「そうですわね。実戦では絶対に使わないと思いますわ」
「そうか、ならいい」
蹴り技の連続攻撃も隙が生まれ易いが、その後に剣での攻撃を入れ、さらに隙が大きくなっていた。
確実に敵を仕止められるならいいが、躱されたなら前方に転がって距離を取った方がいい。俺はそんな忠告を付け足しておいた。
「それよりも。あなたに言っておきたい事がありますの」
彼女は人の居ない方に歩きながら、ついて来るよう身振りで示す。
「なんだ、改まって」
彼女は壁の方に向かって歩いて行き、壁に背を向けると、俺の顔を真剣な眼差しで見つめてきた。
「オーディスワイアさん。あなたはもう一度冒険者として、冒険に出てみる気持ちはありませんの?」
「うん? 急になんだ」
「急ではありません。以前から思っていた事ですわ」
「冒険にか……鍛冶屋をやるようになってから、冒険に出る事もなくなったからなぁ……。いや、素材集めに出たりはしてたんだぞ?」
「下級や中級ではなく、上級難度の転移門にですわ。あなたの実力なら、まったく問題ないはずです。──たとえ片足が義足であっても。
現にあなたはパールラクーンでの戦いで、多くの冒険者よりも活躍したのですから」
「そうかもしれんが……」
そうか、地の神ウル=オギトが言っていた「副団長と同じ想い」とは、この事だったのか。
昔のように冒険に出て活躍して欲しい。そんな風に地の神は思っていたのだろう。何しろ戦士の神とも言われる存在だ。
未だに闘技場で行われた俺とリゼミラの闘いの話をするくらいに、俺の戦士としての力を評価してくれているようだった。
「ゲーシオンで見かけた片腕の冒険者だって闘い続けている訳ですし。
もちろんあなたは鍛冶師としても優秀で、旅団長としての仕事もあって大変でしょうけど、もし冒険者として復帰したい、そういった気持ちがあるのなら──そう思うのですわ」
「まあ確かに。……そうだな、現役復帰については前向きに考えておくよ。それより──」
と、そこに拍手をしながら近づいて来たリーティス。彼女は今まで見た事がないくらい嬉しそうな表情をしている。
「さすがオーディスワイアさん。今度はきっちりと勝利してくださいましたね。
それにしてもお姉様には驚かされます。まさかあんな動きをするなんて。正直に言うと、ここまでお姉様が強いとは予想外でした」
「俺もだよ」
「なんですか二人して。私も冒険者として上級の転移門に何度も挑戦しているんですのよ」
リーティスはにこにこと機嫌良くしながら「お疲れさまでした」と俺達を労ってくれる。
「なんにせよこれで、お姉様はオーディスワイア様とお付き合いする関係になったわけですね。喜ばしいことです」
妹の発言に頬を赤らめながら怒った顔をするレーチェ。
妹の軽口には何も言わず、俺の顔を見るとふいっと顔を背けてしまう。
「まだ付き合うと決まった訳ではありませんわ。──だってまだ、申し込まれていませんもの」
姉の発言に、妹は俺の側まで来ると肘で俺の脇腹を小突く。
「あ──、では、レーチェ……」
俺は彼女に右手を差し出す。
「それでは、俺の──恋人になってくれるか?」
敢えて言葉にするとやはり照れ臭い。
レーチェはちらりと俺から差し出された手を一瞥すると、そっとその手を取った。
「よろしく──お願いいたしますわ」
指先を軽く摘むようにして握ったその指先は、やけに熱く感じられた。
無骨なオーディスワイアの告白。
リーティスに振り回されてついにここまできたけれど、まだまだ振り回される事に……




