リーティス来訪
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冒険へ向かう団員達は装備を整えると威勢良く宿舎を出て行く。
訓練をする為に街に残る者は、宿舎の庭での訓練をする者ばかりのようだ。ウリスなどが訓練する場合、街の外にある訓練場に行く事が多いが、ウリスもヴィナー達も冒険に行ったのだ。
俺は宿舎を出るとすぐに鍛冶場に向かう。
誰よりも早く店に入り、掃除をして新しい注文が入っていないのを確認すると、自分の仕事をする為に錬金台へ向かった。
いくつかの作業を終えたところで気づいたが、二人の徒弟が店に来ていて、すでに各自が仕事を始めていた。
声を掛けられたのだろうが、作業に夢中で気づかなかったようだ。
錬金台での作業を終えると、俺はケベルとサリエに声を掛け、少し早いが宿舎に行かなければならないと断りを入れ、何かあったら遠慮せず呼びに来るよう伝え、鍛冶屋を後にした。
目まぐるしく急ぎ足で宿舎に戻ると、庭の一角で訓練をしている集団と、それを見ている女の姿が目についた。
長椅子に座って訓練中の若手達を見守っているのはリーティスだった。
「もう来ていたのか」
側に行って声を掛けると、彼女は振り向き、こんにちはと挨拶をする。
「ええ、今日という日を心待ちにしていたので」
「変な期待をされても困るんだが」
「あら、姉さんをモノにするという約束。忘れまして?」
「そこまでの約束はしていない」
この娘の中では、どんどん途方もない方向に、俺と姉の関係が発展していっているようだ。
俺は彼女の図太さに呆れて溜め息を吐いてしまう。
そんな話をしていると、レーチェが革の防具や籠手などを身に着けた格好で近づいて来た。
防具の下は普段着の格好で、動き易い、軟らかい生地の青地のズボンを履いていた。
「さっそく手合わせお願いできますかしら?」
気迫が格好からも滲み出ているレーチェ。自身の人生の重大な局面が掛かった試合だという想いがあるのだろう。……こちらとしては、ただ「付き合ってください」と手を差し出すくらいの認識でいるのだが。
「あら、姉さん。ずいぶん気合いが入っていらっしゃるのね。姉さんはもう少し自分の将来について、本気で考えて欲しいものです」
「かっ、考えていますわよ」
「そうでしょうか? ここでもしまたオーディスさんに勝ってしまうようなら、姉さんは一生──独身のままですわ!」
痛烈な一言が飛び、レーチェは顔を紅潮させ、何か反論をごにょごにょと口にしたが、その言葉は二人の耳には届かなかった。
代わりに彼女はこう言った。
「では始めますわよ!」
その後ろ姿からはだいぶ怒っているか、照れているのだと思われた。
長椅子に腰掛けているリーティスを見ると、彼女は親指と人差し指を立て、びしっとこちらを指差す。
「さあ、姉さんに勝ってくださいな。そして、姉さんを手に入れるのです。お兄様!」
「誰がお兄様だ……」
俺はさすがにこの妹の強引さに疲れ、正面から相手にするのを止めた。
用意されていた防具などを身に纏い、木剣と革の盾を手にすると、俺はレーチェの待つ広くなった場所に向かって歩き出した。
俺とレーチェが木剣などを手に向き合うと、周囲で訓練していた連中が集まり、俺達の周りを取り囲んだ。
「いよいよですわね」
「今回は以前のようにはいかないぜ」
俺がそう言うと、レーチェの紫水晶色の瞳にきらりと光るものが入る。
「そうですかしら? こちらも以前とは違いましてよ。油断していると怪我をしますわよ」
そう言いながら木剣と盾を構える。
左手に盾を。右手に剣を。それは俺と同じ持ち手だ。
しかし彼女が盾を前にしっかりと構えているの対して、俺は木剣も盾もだらりと下げた手に持ったまま、半身の構えで待ち構えていた。




