エアネルの成長
若手の訓練に付き合いつつ、自分の訓練もこなしてから鍛冶屋に行き、新たな仕事の依頼はないかと確認する。
ケベルとサリエからあんまんについての感想をもらうと、ケベルの住んでいたフォルファスには、小豆を使ったお菓子があるらしい。
「え、そうなのか。知らなかったな」
「いただいた物とは違うものですが。ぼくの近所で作られているのは小豆を茹でた物を──大抵は甘くない味付けの物を──生地で包み、柄付き浅鍋などで蒸し焼きにする物でした。
生地も玄米などを使っていて茶色く、それを片面だけ焼いたり、ひっくり返して両面を焼いたりしてました」
その話を聞いてなんとなく「温泉饅頭」の様な物を想像した。焼いているから「おやき」にも近いかもしれない。
「それはそれで美味しそうだ」
「生地に蓬を入れたり。そうした変わり種が各家庭で作られている感じですね」
「なるほど」
そんな会話をして鍛冶作業に入った。
ケベルとサリエから魔法の武器の作製について質問を受けたり、強化の組み合わせについて相談を受けたりしていると、あっと言う間に夕方になった。
宿舎に戻るとちょうど冒険から帰って来たレオシェルドと若手達に会い、彼らが無事に冒険に必要な経験を得て戻ったという報告を受ける。
「今日はリゼミラと一緒に、上級難度の冒険に初めて参加する連中も居たから、そっちの方が心配ではある」
そういえばそんな事を朝礼で言っていたかもしれない。
確かエアネルが参加すると言っていた。
最近伸び悩んでいるエアネルに、なんらかの刺激を与えてやろうというリゼミラの判断だが、大丈夫だっただろうか……
そんな想いを抱いて宿舎に戻ると、庭にリゼミラやエアネル達が訓練を行っていた。
「おいおい、冒険から戻って来てまだ訓練するのか」
「あぁオーディス──聞いてよ。エアネルが魔影剣士と戦ってさ、あぶないかな~とか思ったけど、立派に一人で撃破して見せたよ。んで、その戦いの中で得たものが本物か、いま確認してるとこ」
エアネルを見るとかなり疲れており、肩で息をしていたが、表情はどこかすっきりした様子で、楽しそうに木の棒を構えている。
「それで──どうなんだ」
「大丈夫。エアネルはかなり戦闘感覚を掴んでいるよ。これなら上級難度に挑んでも問題ない」
百戦錬磨の冒険者からのお墨付きを得て、エアネルは「やったぁ──!」と声を上げて喜んでいる。
「そうか、それは何よりだ。──よかったな」
俺がエアネルの頭をぽんと叩くと、彼女は嫌そうな顔をする。
「子供扱いしないで……」
「ぁあ、はいはい」
リゼミラは二本の木剣を肩に負い、それで肩を叩きながら言う。
「いや~楽しみだねぇ。カムイもレンネルもかなり強くなってきたし、そこにエアネルやカーリアも加われば、中堅どころだけで上級難度の転移門を攻略できるようになるだろうね」
「メイにユナも居るだろう。……ウリスやヴィナーは──もう一歩かな」
「メイとユナはもう十分に実力者だと思うよ? ただ──ユナは、もう少し場慣れした方がいいね。あの子には度胸が足らない」
「ああ……まあ、性格的なものがあるよなぁ」
魔法使いは技術的な優秀さだけでなく、戦いの場では度胸や冷静さなどを持ち、戦況全体を把握する、広い視野も必要とされているのだ。
ユナは戦況が安定している場合は平気だが、戦況が予想していたものとは違った流れになったりして、本人が焦ってしまい実力を発揮できず、彼女の能力は半減してしまうらしい。
「実戦あるのみかなぁ」
「ま、そんなわけで、今度あの子が遠征から帰って来たら、彼女を連れて上級難度に挑戦するか。別の都市の転移門にでも行こうと思ってる」
「お手柔らかにな」
「だいじょぶだいじょぶ」
リゼミラはそう言いながら倉庫に木剣を片しに行く。
この女の言う「だいじょぶ」は当てにならないというのを、俺は身を以て知っているのだ。
宿舎の中に入るとライムが出迎えてくれた。
白い母猫は俺の顔を見ると「ウニャァ」と声を上げ、てくてくとこちらに近づいて来た。
「どうした」
義足に付いた汚れを拭いながら、猫が体をこすり付けてくるのを見ていた。そんな猫の背中を撫でると、腹這いになって体を伸ばす。
珍しく甘えてきた猫の喉を掻いてやったり、眉間を指で掻いていると、そこへレーチェが帰って来た。
「他の旅団の連中と冒険に行ったんだろ? どうだった?」
「ええ、特に何も。『太古の城塞都市』で白銀騎士を相手に十数回の戦闘をしてきただけです。長剣などを報酬としてもらいましたが、換金した方がよろしかったでしょうか?」
「いや、若手の為に装備品は集めておくのもいいだろう。力量に見合わない装備を与えるのはまずいが、上質な武器の性能を教えるのも大切だ」
レーチェの持っている革袋からは数本の剣の柄が覗いている。
いくつかの防具も貰ってきたようだ。
最近のレーチェは伸縮肌着の上に防御力の高い衣服や、スカートを身に着けた格好で冒険をする事が増えた。
それに髪型も渦を巻く様な髪型ではなく、緩やかな波形髪で居る事も増えていた。
髪型に手間を掛けるのを止めるようになったのは、冒険や副団長の仕事など、複数の事に取り組む時間が増えたからだろう。
「なんですか、私の髪をじっと見て……」
「いや、その髪型も似合ってるなと思って」
「あら、ありがとうございます。──まあ以前のように、髪に時間を使っている暇がないというのもありますけれど」
「俺は波形の髪型よりも、真っ直ぐの髪型もいいと思うけど」
そんな風に言うと、彼女は波打つ長い金髪に触れ「そうですか……」と、少し考えるように呟くのだった。
次話の更新は遅れます。
楽しみにしてくれている読者様には申し訳ありません。




