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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第十章 愛する者のために

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アリスシアの家族の想い

 食堂の席に着くとアリスシアとカーリア達が皿を運んで来た。

「どうぞ」

 そうして出された皿の上には焼いた肉と茹でた野菜の付け合わせ、馬鈴薯ばれいしょ牛酪バター生野菜サラダなどが載っていた。

「パンはこっち」

 とカーリアが軽くあぶったパンを小皿に載せて差し出す。


「ありがと……おっ、この生野菜の調味酢ドレッシングうまいな。誰が作った?」

「私です」

「へえ、アリスシアが……大したもんだ。いや、家庭の味なのかな」

「ええ。それは魚介類から取った出汁だしを入れているんです。以前は川や湖の物を使っていましたけど、今では海の物も手に入るので家族も喜んでいるんです」

「へえ」

「だから……その、オーディスワイアさんの旅団に入れた事を、家族もとても喜んでくれたんです」

「ぇえ?」

「だってオーディスワイアさんが西海の大地を接合するのに尽力したって」

「まあそれは──俺だけの力じゃないさ」


 俺はなんとも言いがたい照れ臭さを感じつつ、その後も彼女の故郷で語られていた、俺についての様々な噂について話し、周りの仲間達も興味深そうに耳をそばだてていた。


「なんだか誇張されたものもあったようだが」

「私の居たエンフィーナではミスランのオーディスワイアという名前は、旅団長の中でも特に有名でした。それに──」

 そう言うと彼女は少し躊躇ためらうように口を閉ざす。

「装飾品職人のサリエを雇ったというのを聞いたので、それで知っていました」

「ああ、彼女はエンフィーナの出身だったな。装飾品を作る仕事をしていたと聞いていたが。彼女とは知り合いなのか?」

「知り合い──と言いますか、たまに彼女の作る商品を買っていました」

 なるほど──彼女アリスシアは見た目通りの、なかなかのお金持ちのお嬢様だったのだろう。


「話を戻すが、料理好きな母親だったのか?」

「父が料理人だったもので。それで私も物心ついた時には料理をしたり、剣を振ったりして──」

「おいおい。料理は分かるが、なんで剣を振る事になるんだ」

「それは──やはり母から『金色こんじき狼の三勇士』の活躍話をよく聞いていた所為せいだと思います」

「へえ、それって団長の事だよね?」カーリアが即座に反応した。


「ええ、そうです。オーディスワイア。リゼミラ。アディーディンクの三人の名前は、子供の頃からよく聞いていたものです。

 私の住んでいたところに居た冒険者から、そうした話を聞かされました」

「……そう言われると、すっごい年を取った気分になるな」

 俺がげんなりしたように言うと、彼女は申し訳なさそうに「子供と言っても数年前の事ですが」とフォローしてくれた。

 彼女はどうやら管理局とのり取りの中で、旅団の入団希望を尋ねられた時から「オーディス錬金鍛冶旅団」の名前を挙げていたらしい。

「本当に入れて嬉しいです」

「私も~」とカーリアが言えば、続いてフレジアも遠慮がちに「わたしも」と言うのだった。


「それは結構な話だが、冒険で気を抜かないようにな。さっきの話に出た三勇士とやらも、油断した所為で片足を失った奴も居るんだからな」

 俺はまるで他人事ひとごとのように言うと、大皿からこしあん入りのあんまんを取ってそれを食べてみた。

「むぐむぐ……、うん。やっぱり中○屋のとは違うか」

 ぼそりとつぶやきながら、もっと甘くするか、それともなめらかになるような工夫が必要なのかもしれないと考えた。


「これがあんまんですか……。外側のパンが軟らかくて、珍しい口当たりですね」

 アリスシアはつぶあんのあんまんを口にしている。

「甘さはどうだ? 味は?」

「中の──小豆ですか? ほどよい甘さだと思います。熱々なのもいいですね」

 他の連中も食事を終えて次々にあんまんを手に取り出すと、それぞれが感想を述べ合ってどちらのあんまんがいいか、などと言い始めたところもある。

「感想があったら黒板にでも書いておいてくれ」

 俺はそう言うと皿を手に取り立ち上がり、調理場の方へ向かった。



 皆が昼食とあんまんを食べ終えた後サリエがやって来た。

 俺はサリエとケベルの為にとっておいたあんまんを皿に乗せると彼女に渡し、日が暮れる前には鍛冶屋に行くと告げておいた。

オーディスワイアという名前が冒険者以外の市民の中でも広まっているという話。

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