忙しい日々と旅団の冒険
エアとレンに完成した武器を渡す時に、彼女らは自分達から頭を下げて「黒き錬金鍛冶の旅団」に加えて貰えませんかと申し出てきた。
俺はあらかじめ用意していた旅団員登録書を二枚差し出して頷き、彼女らが書き終えた物を持って、昼前にそれを都市管理局へ提出した。こうして双子も晴れて、正式な旅団員として旅団宿舎に住む事が許されたのである。
「この旅団もかなり大所帯になりましたわね」
「冒険から戻って来たばかりのところすまんが、この部品を全員で宿舎まで運んでもらいたい」
俺は金属の箱や管を縄で縛った物をメイやエウラに持たせる。一人一人に小分けにしたので重さはそれ程ではないだろう。
「あら、これは給湯設備の部品ですわね? やっと完成という事でしょうか」
「ちゃんと動作するかは分からん。理屈ではうまくいくはずだが」
そう話をしながら宿舎へ向かうと、カーリアがメイらの帰りを待っていた。革鎧を着た少女の姿は弱々しい門番の様だ。少女の訓練を団員に任せ、夕食までに給湯設備を完成させる思いで一気に組み上げて行く。
完成後の整備や内蔵する魔力結晶などを交換し易いように、設計段階から工夫をした為、それなりの簡略化もしてあるが、実際造り始めるともう少し小さくできそうな部分を見つけた。
これが完成したら都市管理局に売り込みに行くつもりだ。今まで貴族や公衆浴場で使われている物(こちらは暖房としても利用可能だが)は小屋くらいの大きさがある物だが、(燃料に灯油を使う物が多い)この給湯設備はその気になれば、人が背負える程度の大きさと重さだ。利便性は計り知れない。
「これが完成すれば素晴らしい発明になりますわね」
「素材は多少高価だがな」
訓練を終えたレーチェが防具を脱ぎながら言う。
「次は洗濯をする洗濯婦を作ってくださる? リーファにだけ任せておく訳にもいきませんし」
「お前は何を言っているんだ」
冗談ですわよ、と彼女は言いながら軽硬合金の鎧を脱いで、侍女服の上に軽硬合金の胸当てと籠手を身に着けたリーファに手渡す。
「動きづらくないか、それ」
「慣れておりますので」
彼女はそう言いながらお嬢様の籠手と脛当ても受け取り洗濯場へ持って行く。
鎧はともかく衣類を洗う洗濯機の発想は、実を言うと大分前から思い付いていた。ただ、各地を移動して回る人間には不要であった為に、設計を真剣に考えてはいなかったが、例の思い付きを形にすべく考える頃かもしれない。
給湯設備をある程度形にした頃には、夕食の支度が整っていた。最近は夕食を仲間と共に宿舎で取るのが日課になっていた。元々の建物がそこそこの貴族が使っていた建物であった為に、広い調理場と食堂が整備されているのだ。
「手狭ですけれど良い食堂ですわね」と初めてここに来た時に口にして、ユナとメイから引かれていたのは本人も気づいていない様子だ。これより広い場所で家族数人で飯を食う意味が分からない。
「これだからバ金持ちは……」
俺は悪態を口にしつつ、リーファやユナが作った料理を口にする。──レーチェは盛り付けを手伝ったりはするが料理の手伝いはしない。彼女自身の告白によると、味付けが分からないのだそうだ。極端に味が薄くなったり濃くなったり、はたまた単純に不味くなったり……
「分別が無いからじゃ……」
と言って睨まれたので、それ以上は突っ込まないでおく。
食事の後は休む間もなく、風呂場に向かって給湯設備を完成させて、早速レーチェやユナ達が見守る前で試運転を開始する。
水道から金属製の管で水を引いてきた物を、機械の中に通し──細かい説明は無しだ──お湯を蛇口から流す仕組みだ。取っ手を右や左に傾ける事でお湯の温度を調節する事が(ある程度)可能だ。
もくもくと湯気を出すお湯が蛇口から出ると、周りで見ていた者達から歓声が上がる。
「成功ですわね! 素晴らしいですわ!」
念の為に蛇口は二つ付けておいた、二人が同時に体を洗える様にという配慮もあるが、一方が壊れても片方は使える状態にする為だ。
「じゃあ次は洗濯婦を造るか」
「えぇっ⁉ 本当に作れますの⁉」
俺は大きく息を吐いて「そんな訳ないだろう」とレーチェに言うと、彼女は顔を真っ赤にして怒り出す。彼女の騙され易さは見ていて飽きないが、少し不安になる。
「こんな騙され易い奴が旅団の運営管理で大丈夫か?」
レーチェはムキになって拳を振り上げる。
「問題ありませんわ‼」




