あんこを炊く~あんまんへの道~
宿舎に戻ると調理場に向かった。
甘くした水に浸していた小豆を煮る為に。──すると廊下を歩いている俺の後を二匹の子猫がついて来る。
「おいおい、餌はやらないぞ」
そう声を掛けると一匹が「ニャァ──」と返事をした。母猫ともう一匹の子猫は住処の中で横になっているみたいだ。
子猫を引き連れたまま発光結晶の指輪で光を灯し、暗い食堂を抜けて調理場に入る。
ここの明かりを点けると、光源を作り出す活動力の源である魔力結晶が切れ掛かっているのを知った。
予備の魔力結晶を引き出しから取り出すと、それを空っぽになった結晶と交換しておく。
「誰も交換しようとしないのか」
そう文句を口にしたが、そんな事で気分を害していては料理に支障が出てしまう。
深呼吸をして小豆の様子を確認すると、鍋を火に掛けてしばらく見守る事にした。
椅子に座ると二匹の子猫が足にじゃれつき、しばらく放っておくと一匹が膝の上に乗って来た。
ぐつぐつと鍋の中で豆が煮られる音を聞きながら子猫をあやしていると、次第に眠くなってきて、慌てて頭を振って鍋の様子を確認しようと立ち上がる。
膝に乗っていた子猫は丸まって眠っていたので、空いている椅子の上に寝かせてやった。
足下に居た子猫も調理台の陰で眠っている。
小豆を一つ菜箸で摘んで固さを確認する。
「──うん、もういいかな?」
熱々のやつを気をつけながら口に入れて歯で潰すと、小豆の仄かな甘味や風味を感じる。甘過ぎずちょうどいい感じだ。
「よし、これを潰してあんこを作ろう」
二つの手鍋に移し替え、同時に二つの鍋の中で豆を潰しながら木べらでかき混ぜる。水分を飛ばしつつ練っていると、次第につぶあんらしいごってりとした感触に変わっていく。
「うんうん、段々と想像していた感じに近づいてきたな」
両方の手鍋を火から下ろし、一つを冷ましながら今度はこしあんを作る作業に移った。
細かい網目の漉し器を使って皮を取り除き、さらに目の粗い布で漉してこしあんを作り出した。
「こんなもんかな……見た目は悪くない感じだ」
そこに胡麻を擂り鉢で細かく擂った物を混ぜ込んで、つぶあんとこしあんの二種類のあんこを完成させた。
「ん──? 甘味が足りないかな?」
胡麻あんをちょっと口にしてみたが、もう少し甘い方がいいかとなった。胡麻を混ぜた所為か、記憶にある胡麻あんの味よりも甘さが弱い気がしたのだ。
「それに”蜜”感が弱い……」
中○屋のあんまんにはまだ遠い。
ちょっと水飴を加えて混ぜ合わせ、深鉢に入れて蓋を乗せる。水滴が落ちないように布を間に被せ、それを調理台の上に置いて冷ます為に放置する。
「明日の昼にでも皆に食べさせてみるか」
あんこを炊いて随分時間が経ってしまった。
もう皆眠ってしまっただろう。
俺は眠っている二匹の子猫をそっと抱き上げると彼らの住処まで運んで行き、眠りに就いていたライムの側に置いてやった。
ぴくぴくっと耳を動かすライム。指輪から放たれる淡い光を嫌って前足で目を覆い隠す。
三匹の子猫達は母猫のお腹に顔を突っ込んで、寄り添いながら眠りに就いた。
「おやすみ」
俺は自室に戻ると部屋から歯ブラシなどを持って洗面台へと向かう。
俺も歯を磨いたらすぐに眠ろう。
もう眠気は俺の肩を叩くくらいの近くまできているし、工作やら馬車に乗っていた疲れなどが残っている。
気の巡りを意識して呼吸し、内気勁で体調の回復を計っているが、今の俺は横になって眠りたい気分だった。
色々と考える事が増え、現在と過去。そして未来へのあり方について再考する必要がありそうだった……




