リゼミラとアディーディンクの想い
食事を終えた俺はリゼミラとアディーの二人を庭に誘い出した。子供二人はレーチェとリーファに任せておく。
外はすでに夜になっており、空には暗闇の中に小さな光が明滅し始めている。
「それで? どしたの──突然話したいだなんてさ」
「ああ──うん、なんつうか……」
勢いで話そうと思ったが、なんと言ったらいいのか思い浮かばない。
「つまり、その……俺が足を失った後にすぐ、二人は義足でも付けて一緒に冒険に出ようって、言ってくれたじゃないか?」
「そうですね」
「それがどうしたの」
夜空に星を模した光の粒がちらちらと瞬くのを見ながら、俺は片腕の冒険者に会い、自分が冒険を続けるのを辞めた事について改めて二人に語って聞かせた。
「……なるほど。あたし達の足を引っ張るんじゃないかとか、そんなつまんない事を思っていたわけか」
「まあ、言いたい事も分かりますけど。別にそれでもいいじゃないですか」
「いや、だからな。俺の変な矜持があったのかなぁ……なんて、反省している訳でな」
そう告白すると、リゼミラは「ふん」と鼻を鳴らす。
「どうでもいいね、そんな事は。それよりもその片腕の冒険者みたいに、まだやれるんじゃないかって思いなおしたって事ね?」
「いや、そこまで踏ん切りついた訳じゃないが」
そう言うとリゼミラは、夜闇の中でも分かるくらいはっきりと眉を顰めた。
「そこは思い切りよく『もう一度一緒に冒険に出てくれ』と頼むところでしょうがッ、いらいらするね!」
リゼミラは大きな声で言うと、アディーはいきり立つ妻を宥め、落ち着いた声で俺に言った。
「しばらく冒険に出ていなかったんだから、躊躇う気持ちも分かりますが僕達は今でも、オーディスさんが冒険に戻るのを待っていますからね」
「──そうか、すまん。……いや、ありがとうな。二人とも」
俺が頭を下げると二人は黙ったまま空を見上げた。
「またあの『月下の大要塞』に行って、月下の広間に行きましょうよ。もしくはシャルファーの『空漠の盆地』にでも行って、大岩の陰をこそこそと移動しながら、巨人や百足鬼などを相手に隠れん坊しましょう」
「ははっ──あれを隠れん坊と言ってしまうようになるとは、アディーも随分と毒されたな」
「そうかもしれませんね」
「ちょっとちょっと、誰に毒されたって?」
リゼミラが声を上げると、俺とアディーの二人は同時にリゼミラを指差した。
そして仏頂面をした彼女を見て二人して大笑いするのであった。
そんな風に懐かしい冒険話をしているとローレンキアにセブ、アマンとブーリットがそれぞれの得物を手にして庭に出て来た。
「おいおい、こんな時間に訓練か? 近所迷惑になるからほどほどにな」
「いえ、素振りだけです。──それよりも『金色狼の三勇士』が集まって何を話されていたんですか」
ローレンキアがそんな事を口にすると、他の三人も興味を持った眼差しを向けてくる。
「大した事じゃない。ちょっとした昔話をしていただけだ」
俺がそう答えると、逆に彼らの興味を引いてしまったらしい。
自分の旅団の団長と、その盟友の冒険話を聞きたいと彼らは訴えてくる。
「残念だが──俺は今から一仕事あってな。明日は軽く調整して、明後日には野暮用があるんでね」
「ああそれって、副団長との決闘ってやつ?」
リゼミラが言う。
「なんで知っているんだ」
「みんな知ってると思うけどね。最近副団長が妙にぴりぴりした感じで訓練をしているって評判だったし」
その言葉に若い連中も黙って頷いている。──俺は肩を竦め、練習もほどほどにして休めよと言葉を残し、宿舎の中へと逃げる事にした。
俺の過去の話など、リゼミラにされたら何を言い出すか分かったものではないからだ。




