あんまん作りの下拵(したごしら)えを
夕食の支度をリーファとアリスシアとアローレの三人がしていると、レーチェが実家から帰って来た。
「おう、どうだった?」
「ええ、問題なく。……それは?」
俺が手にしている皮袋を見てレーチェが問う。
「ゲーシオンの拠点に必要な物を購入した資金の余りだ。武器を置く台とかは俺が作ったし、いくらか浮いたのかもしれないな」
「それは結構な事ですわね」
「それと、エウラの悩み事が分かったぞ」
俺はそう切り出して、彼女が実家の剣術道場の跡を継ぐよう手紙で言われた事を教えた。
「……そうでしたの。──もちろんそんな引き抜きを許しはしませんわよね?」
「俺自身はエウラの意志を尊重するが」
「だめだめ、駄目ですわ。優秀な人材を余所に取られる訳には参りませんわ。断固として引き留めるべきでしょうに」
「まあレーチェならそう言うだろうと、エウラに言っておいた」
「あなたももっと引き留めなさいな」
「う──ん、そりゃあ多少は引き留めるさ。けれど自分で自分の事を決めるのが筋だろう。迷っているなら忠告の一つでもするが」
そう言うと俺の胸を小突いてくる。
「旅団の事を第一に考えてもいいでしょう。──もちろん団員一人一人の事も重要ですが。その二つは分けては考えられないものですわ」
「分かってるさ」
そんな遣り取りをして俺は調理場に顔を出した。
幸い鍋と竃が開いていたので、その大きな鍋で小豆を煮る事にした。
「だが分量が分からんのよな……」
実際、小豆を煮た事などないのだ。
テレビ番組で見たり、本の中や電子情報媒体でそれっぽい作り方をちら見した程度の知識。
「う──ん、失敗を恐れていては何もできんからな」
水の分量とか適当にして取り敢えずは小豆を水に浸す。
「ここで甘味を入れるんだったよな」
砂糖──よりもここは、俺が海藻から錬成した水飴を使おう。
どれだけ入れるかは水と豆の量から推測し、それを書き留めながら作業を続けていると、リーファが声を掛けてきた。
「手伝いましょうか?」
料理当番でもないのに調理場に居る俺を気遣ってか、心配そうに言う。
「いや、平気だよ。明日の──お菓子を作ろうかと思って」
「お菓子ですか。──豆を使って?」
「小豆な。あまり使わない食材だろうが、アリエぃ……ウンディードの方から届けられたんだ。せっかくだから使わないとな」
小豆を水飴を混ぜた水に浸し、そのまま朝まで漬けて置く事にする。
「あんまんの皮も用意しておくか」
生地を寝かせた方が蒸した時に膨れるんじゃないかと考え、小麦粉に葡萄から取った酵母を混ぜたりして柔らかい生地を作った。
それを丸めて纏め、深鉢に入れて布を被せる。
こんな作業を調理場の隅っこでしていると、食事が出来たようだ。
食堂はいつもよりも少ない人数が集まっていた。遠征に出た五人の姿が無いだけで、なんだか広く感じる。
「お? 調理場に居たのか」
席に着いていたリゼミラが声を掛けてくる。今日はアディーディンクと二人の子供も一緒だった。
「あ──、そうだ。食事の後でちょっといいか、二人とも」
「え? あたしとディーディーに? ──まあいいけど」
アディーもリゼミラと顔を見合わせながらも頷いて「はい」と答えたのだった。
食事が運ばれて来ると皆は和気藹々と、あるいは黙々と食べ始めた。
アリスシアとアローレの二人は新人の中ではそこそこ料理が作れるようだ。
特にアリスシアは見た目の美しさも評判で、旅団の間で行われる若手同士の訓練では、余所の旅団の若者を虜にしているのだとか。──そんな噂を耳にした。
だがアリスシアは剣と魔法を使えはするものの、どちらも今一つの伸び悩み状態で、旅団内では明らかに「器用貧乏」的な扱いを受けているようだ。
──なんらかの打開策を講じなければと、剣技はレオシェルドが。魔法はヴィナーとアディーディンクが積極的に指導しているらしい。
アローレは魔法使いだが、攻撃魔法よりも補助魔法や強化魔法が得意で。それに回復魔法も使えるようになったらしい。
こちらも下級難度の転移門ではあまり貢献できる類型の魔法使いとは言えず、仲間内の評価はまだまだ低いようだ。──中級難度から活躍するだろう──
前途多難なのはこの二人だけに限った事ではないのが現状で、我が旅団の若者はまだまだ成長途中なのだった。
隻腕の冒険者と会って気持ちが変化していくオーディスワイア。
かなりシリアスな展開──けど、相手は気心の知れたリゼミラとアディーディンクなので……




