エウラの悩み
早めの更新。
日曜日にも更新します。
ミスランに戻った俺は、浮き足立った気持ちで宿舎へと戻る道を歩いていた。
俺の中に眠っていた気持ち。
それに気づかされたような、そんな気分が心の中を行ったり来たりする。
波打ち際に流れ着いた流木みたいに陸に乗るか、それとも海に戻るかするみたいに。
自分にとって鍛冶師という職業は、冒険者を続ける道を捨てざるを得なくなって仕方なく選んだ道ではない。いつかは訪れるであろう、冒険者としての活動に限界がくる時。
それは年齢からくる能力の低下といった問題か、あるいは肉体的な限界がきてしまったり。一番ありそうなのが、冒険先での負傷であったのは間違いない。
そして俺は、その負傷で決定的な転換期を迎える事になった。
「けれどそれは──」
冒険者を諦めたというよりは、仲間や他の冒険者を助けようと心に決めたのだ。
錬金鍛冶を学んだのは自身の冒険よりも、仲間だった冒険者の力になろうと決め、力の入れどころを変えた為だった。
少なくとも俺はそう思って自身の行動を変えたのだから。
だが──
「もう一度冒険に出てみないか」
そんな想いが心のどこかにあっても不思議ではないとも考えていた。
未だに冒険の夢を見るし、旅団の団長をする事になった後も──この新たな仲間達と共に、冒険する事を考えたりもするのだ。
それがただ失ったものに対する郷愁に過ぎないとしても。
「戻ったぞ」
夕食前に宿舎に戻った俺は、廊下で会ったエウラにレーチェの居場所を尋ねた。
「お帰りなさい。──レーチェさんはまだクラレンスの方から戻っていないようです」
「そうかぁ」
エウラの足下で子猫達が餌をくれと鳴き声を上げている。
彼女が手にした器を床に置くと、子猫達は競ってそれぞれの器によそられた物を口にする。
母猫のライムに別の皿に盛った物を与えると、白猫はゆっくりとした動きで皿に近づいた。
「……その──団長。少しお話ししたい事柄がありまして」
エウラが珍しく背中を向けて屈み込んだまま言ってきた。彼女がこのような持って回った言い方をする時は何か要望があるのだ。
「おう。なんだ」
「実は、実家から手紙が何度か届きまして。──私に帰って来て、剣の道場を継げと言うのです」
「ほほぅ?」
彼女はライムの背中を撫でてから立ち上がり、こちらを向いてぼそぼそと力なく喋り始めた。
「刃閃流剣術」の現師範はエウラの叔父であり、年を取った彼の代わりにエウラを師範の座につけようと考えているのだという。
エウラの兄であり、俺の友であったエルグが死んだ為に、血縁のあるエウラを跡継ぎにと考えたようだ。
「それで、エウラ自身はどうなんだ? 実家に戻って跡を継ぐ気持ちがあるのか」
「いいえ、道場の跡を継ぐ気はありません。叔父とも絶縁状態も同然なので。いまさら何を……って感じです」
「そうか。ならそうしろ」
「いいんでしょうか……」
彼女は暗い顔をして俯く。
「どういう意味だ?」
「その……自分の好きにしていいんでしょうか」
「もちろんだ。お前がこの旅団に残りたいと言うなら俺はそれを尊重するし。もし道場に戻る気持ちがあると言うのなら、それを尊重したいと思う。
──ただ、俺なりに引き留めはするだろうな」
そう言うと彼女は元気を取り戻したみたいに、嬉しそうに微笑んだ。
「そうですか。なら良かったです」
「まあ問題があるなら俺とレーチェに相談しろ。俺はともかくレーチェは、エウラが旅団を出て行くと言い出しても必ず引き留めるだろうからな」
「わかりました」
そう返事をした彼女は、吹っ切れた様子で笑っている。
いつもの子供っぽい表情とは違いその嬉しそうな顔には、大人びた喜びの表情が浮かんでいた。
エウラの表情が子供っぽく見えたり大人っぽく見えたりするのは、たぶん目元の所為でしょう。普段は大きめの瞳が細くなった時、表情が大きく変わって見える──みたいな。
「刃閃流」はオーディスワイアによる当て字──みたいなもの?




