隻腕と隻脚と
隻脚=片足の意。
隻腕の冒険者オントの背中。
幅広の剣を背負い、仲間の若者達と親しげに会話しながら帰って行く。
きっと定額である素材以外の物品が高く売れ、皆で分けてもなかなかの金額が入った──とか話しているのだろう。
その遠ざかる姿を見ながら俺は、自分の人生を振り返っていた。
「あなたのように冒険以外の才能を持っていたら、冒険者を辞めていたと思いますよ」
そう言っていたオントの言葉を思い出す。
確かにその言葉に、俺は少なからぬ動揺を覚えたのだ。
俺は右足を失った時──もっと抗う事も出来たのではないか。
失った足を義足で補い、鍛冶師の修業をする為に各地を回った。
しかしそうではなく、もっと冒険者として戦いの道を進み続けるべきだったのでは? そんな想いが過ぎる。
義足を使い、冒険者として復帰しても良かったんじゃないか。
俺は楽な道を選んだだけなんじゃないか。
五体満足の時のようには戦えないかもしれない。仲間に頼る事が増えるかもしれない。──それでも。
リゼミラやアディーディンクは俺に冒険を続けるように言ってきた。
「足は義足でなんとかなる」とも言われたのだ。
ミスランに帰還し、病室で足を吊された俺にそう言ったリゼミラ。
彼女は俺との冒険を諦めていなかった。──なのに俺は彼女の言葉を退け、冒険者を引退すると決めたのだ。
義足を作ってからは、下級難度の転移門に素材探しに行く事はあったが、上級難度の転移門からは完全に足を洗った形になった。
義足でも戦えるのに、俺はそうしなかった。
それは「金色狼の三勇士」などと言われていた俺の矜持が許さなかったのではないか。
時間が経った今からすると、そんな誇りはつまらない利己主義だと自分でも思う。──要は無様な格好を見せたくないというだけの事。
だが現実に足を失ったという衝撃は、俺の気持ちを萎えさせたというのも事実だ。その気持ちは右足を見る度に思い出す。
過酷な戦いに身を投じるという覚悟が、足を失った事で弱々しい火みたいに縮こまり、熾火の中でひっそりと身を隠すみたいに。
元々の俺はどちらかと言うと臆病で慎重な、戦いとは無縁な若造だったのだ。足を失った俺はその頃の想いや感情が戻ってきて、闘志といったものが引っ込んでしまったのかもしれない。
だがそれは足を失ったばかりの頃に落ち込んだ気持ちに過ぎなかったのだ。今の俺ならそれが分かる。
でなければフォロスハートを襲った混沌の巨獣を倒した時や、犬亜人との戦争でも俺は活躍できなかったはずだ。
俺の中にはまだ確かに、仲間やフォロスハートを守ろうとする闘志。もしくは勇気が熾火の中でひっそりと燃え続けている。
「本当はお前も、もっと戦いたいんだろ?」
冒険者だった頃の俺が、そう語り掛けてくるような気がする。
俺は過去の自分にこう言ってやりたい。
「俺は別に戦いが好きなんじゃない。フォロスハートに暮らす人々の為に。神々の為に。仲間の為に戦いたいんだ」
そうだ。俺は俺を支えてくれた人々に、仲間に──そして神々に。与えられた恩義を返したいのだ。
だからこそ冒険者の道を捨て、鍛冶師としての道を選択し、多くの冒険者達を支えようと考えたのだから。──その気持ちに偽りはない、今でもそう思っている。それは間違いない。
……たぶんこの迷いは、オントから与えられた機会なんだと思う。
自分と同じ様な境遇の冒険者は他にも居たはずだ。義足で冒険に出ていた者だって居ただろう。
オントに会ってからというもの──俺は足を失ったからといって、あまりに簡単に冒険者の道を閉ざしてしまったように思えてきた。
けれどもあの時の俺は──冒険に出るよりも別の道があると考えて、先頭を走っていた冒険者として、後進に道を譲る決断をした。
それは別に間違いじゃない。
後進を期待するのは、若者に期待するのは当然の事だ。
若者が引き継いで道を進み続けてくれる。
そう思えばこそ彼らの為にも錬金鍛冶の技術的向上を求めて働き、多くの鍛冶職人が互いに切磋琢磨するように活動した。
新しい分野を開拓し、より良い成果を引き出せるように。
俺は自分の鍛冶師としての仕事に打ち込み、そこから得られた結果にも満足している。
けれども俺の中には、戦士としての魂が眠りに就いているのを感じていた。
それは失われたものじゃない。
片足を失くしたからと、戦士である事がなくなった訳ではない。
「もう一度冒険に出てみないか」
俺の中に眠っていたそいつが、そう語り掛けてきているような──そんな気持ちになりながら、俺は馬車の停留所に向かって行き、ミスランへの帰路に就く事にした。
迷い、過去と向き合う時期にきたオーディスワイア。
時間が経ったからこそ冷静になれたりするものです。




