隻腕の冒険者
男の方も俺に気づいたようだった。
ちらりと俺の足下に視線を落とすと、男はぺこりと頭を下げ、こっちに近づいて来た。
「もしやあなたは──、ミスランのオーディスワイアさん?」
「ええ、どうして俺の名を?」
俺は驚き彼の目を見たり、袖を切り落とした左腕を交互に見る。
「その義足ですよ。ミスランには優秀な義足を作れる鍛冶職人が居ると聞いていましたから。ほら──わたしもこのとおり、腕を失ってしまいましてね。それで仲間が冗談混じりに『義手』を作ってもらったらどうか、などと言われたもので」
仲間からオーディス錬金鍛冶の名を聞いていたのだと説明する男。
「失礼しました。わたしはオント。ここゲーシオンにある『鉄鬼旅団』の冒険者です」
鉄鬼旅団のオント。俺よりも五歳は年上の冒険者だろう。
片腕を失った──隻腕の戦士。
「俺はオーディスワイア。ミスランで『金獅子の錬金鍛冶旅団』の団長をしています」
「錬金鍛冶師でありながら団長とは本当だったのですね。──すごいなぁ」
「なに、ただの便利屋ですよ。それよりも──」
俺は率直に、聞きたい事を尋ねた。
それは「腕を失った時に冒険者を辞める選択をしなかったのか」という問いだ。
「冒険者を辞める? ──そうですね。頭をよぎりはしたんですが、わたしには妻と子供がいましたし、冒険者以外の働き方を知らなかったものですから。
もちろんわたしがあなたのように冒険以外の才能を持っていたら、冒険者を辞めていたと思いますよ」
彼はそう言って屈託なく笑ってみせる。
その言葉を聞いて俺は衝撃を受けた。片腕を失い、武器を握れなくなるという恐怖があったに違いない。それでも彼は片腕で剣を振るう訓練をし、隻腕という弱点を克服したのだ。
「左腕に小盾を付けた義手を付けようかとも考えたんですが、そんなに稼いでいるわけでもないので」
今では中級難度の転移門を中心に仲間と冒険しているらしい。
片腕でも中堅と変わらぬ戦い振りだと、仲間から評価されていると話す。
──俺は彼の言葉に我が身を振り返る。
(俺は足を失った時、彼のように冒険者で居続けようとしただろうか? 自分には他の道があると考え、仲間の足手纏いになるまいとして、簡単に冒険者としての道を棄ててしまったんじゃないのか)
自分のいきる道を進む為に、時には周囲の人に迷惑を掛けるもの。むしろ生きるという事は他人に迷惑を掛け、迷惑を被り、そうやって互いに寄り合って生きていくものじゃないのか。
俺とオントはその場でしばらく話をした。
片腕での苦労とか、冒険ではどのように戦っているかとか。俺があまりに熱心な様子で尋ねるので、彼は戸惑いながらもこちらの質問に対して真摯に答えてくれ、やはり剣を片手で持ち続けるのは最初の頃は苦労したと話してくれた。
「片手では疲労も蓄積しやすいですし、上級難度の転移門はさすがに怖くて参加できませんね」
使っている剣を見せてもらうと、軽硬合金を使った、見た目よりも軽い幅広の剣。
柄の長さも両手用であり、しかし刀身の長さは標準的な剣よりも短い物だった。刀身は柄の近くにいくほど幅が広くなっている作りで、重心が手元にある為、取り扱い易い構造にはなっている。
試しに軽く片手で振り上げ振り下ろしてみると、振り下ろした力を抑えるのに苦労すると思われた。
確実に敵を捉え、回避されないようにしないと、余計な筋力を消費する事になってしまうのだ。
「なるほど、片手で扱い易くする為に重心を手元に置いてある訳ですね。──しかし片手で扱うには大変だ」
「まぁ慣れですよ、慣れ」
オントは事も無げに言う。
剣の峰に付いた傷を見ると、分厚い根本の部分で攻撃を受けているのだと気づく。
片手で攻防を兼ねた戦い方をしなければならないなら斬るよりも、突く動きに特化した刺突剣が勧められるが……
そう訴えると彼は頷く。
「確かに片腕になってから突きを使う場面は増えました。──けれどもまあ、以前からの癖が抜けなくて、結局は力で叩き斬る戦い方をしてしまいます」
逆に言うと彼は片腕になった事で一本の腕に力を集中し、瞬発力を高めた一撃で敵を倒す技術に目覚めたと説明した。
「内気勁を右腕に流す感じで素早く鋭く、一気に攻め立てる心象で──一撃を防がせたら二撃目で仕止める。そんな戦い方です」
おそらくは足捌きも考えて戦っているのだ。
一撃で仕止める事を一番に考えながら、それを防がれたり躱された場合はすぐに追撃を加える。そうして一体一体を確実に仕止める戦い方。それはレオシェルドの戦い方を思い起こさせた。
「あっと、そろそろわたしは……」
素材買い取り所から出て来た若手達が離れた場所から呼んでいる。
俺は彼に剣を返すと別れの挨拶を交わし、その背中を見送った。
次話は月曜日に投稿します。




