地の神とレーチェの想い
「ところで今後の旅団活動は管理局が間に入って、いくつもの旅団同士の関係を深めようと考えているっちゅ」
「ええ、そのようですね」
「だから錬金鍛冶の旅団も、ゲーシオンの旅団と交流を持ったりするようになるっちゅ。そこで勧めたいのが『鉄鬼旅団』っちゅ」
「ああ、その名前は偶然にも今日耳にしました」
「鉄鬼旅団はまだまだ小さな旅団っちゅが、今後も成長していくだけの器がある旅団っちゅ。それに──」
と、通訳が黙り込んだ。というか、銀色の鼠が口を閉ざしたようだった。
「……まあ、それはいいっちゅ。──そちらの事は副団長に任せるとするっちゅ」
「副団長? ……レーチェの事ですか?」
尋ねると彼は黙って頷く。
「彼女には思うところがあるようっちゅ。そしてその気持ちは──私の想いと同じものっちゅ」
「はぁ……」
いったい何を言いたいのか。地の神は敢えて核心については語らず、この話を次のような言葉で終えた。
「ともかく、二日後に副団長──レーチェと闘って勝利し、本人の想いを知るといいっちゅ」
レーチェの想いと、鉄鬼旅団を勧めた理由の関係性がまるで見えないが、神様には何か思うところがありそうだ。
「オーディスの仲間がゲーシオンで冒険するのを楽しみにしているっちゅ。今日はまだ冒険には出ないっちゅか?」
「ええ、旅団の拠点となる建物には生活に必要な物が足りていないので。今日はその買い出しに出ていますよ」
「そうした事もまた楽しみでもあるっちゅね。活動範囲を広げて新たな場所に出向くという……。きっと彼らにもいい思い出になるっちゅ」
「ええ。俺もそう思います」
仲間と新たな拠点に必要な物を買い、何が必要かとか、どういった物をどこに配置しようかと頭を悩ます……
そのようなものが良い思い出になる。
取るに足らないような事柄も、未来にふとその過去を思い出すと、些細な物事の中に友人と一緒になって行動したそれらの記憶が、とても楽しく思い出されたりするものなのだ。
学校の修学旅行で泊まった宿泊施設での思い出とか、好きだった娘の話を友達とした時の思い出だとか。
そうした思い出がふと蘇る時、その郷愁に彩られたものが何よりも大切なものだったと気づく。
その瞬間瞬間には「いつもの事柄」に過ぎなかったものが、二度と帰っては来ない瞬間だったと理解する。
掛け替えのない仲間と共に過ごした時間。
そこには金では買えない価値がある。──時間が経った後で、そんな風に思い出されるのだ。
「それでは俺も、拠点に必要な物がないか見て回ってきます」
俺は長椅子から立ち上がり、地の神に別れの挨拶をして部屋を出た。
地の神はなんとなく神妙な顔をしてこちらを見ているような感じがした。
地の神が見抜いたレーチェの想いとはなんなのだろう。
二日後の闘いに勝って、本人の想いを知れと言っていた。神とレーチェの共通する想いがそこにはあると言うのだ。
「鉄鬼旅団との交流とどんな関係が?」
……神の考えている事など分からないけれど、せっかく神が「交流を勧めたい相手」だと言ったのだ。接触してみてもいいかもしれない。
「なんにせよ管理局を通した方がいいだろうな」
旅団同士の架け橋となるよう「旅団統合支援課」を作った意味もあるはずだ。
俺が買い物に行こうと大通りに面した歩道を歩いていると、道の横から声が掛かった。
「あ、オーディスさん」
そこにはユナにメイが荷物を手にして立っていた。
その後ろからレンネルとカムイが大きな荷袋を背負って歩いて来る。
「重そうだな」
「いや、見た目ほどではないです。これは枕とか敷布とかの寝具の一部ですから。布団や毛布などの大きな物は、店の方から荷車で運んでもらってます」
レンネルはそう説明し、リトキスは鍛冶屋に砥石を買いに行ったと言う。
「足踏み式の、砥石が回転する形状のを売っているらしいので」
流石は鍛冶屋の多いゲーシオン。砥石も種類が豊富で、錬金術で形を変えた製品など多くの砥石が売られているのだ。
「では、拠点に戻って荷物が届くのを待つとしよう」
仲間達と合流した俺はユナから荷物を一つ受け取ると、彼らと一緒に拠点へと戻る事にした。
レーチェとウル=オギトの想い。
そのあたりがオーディスワイアの今後に影響を与えるかも……




