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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第十章 愛する者のために

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地の神の神殿へ

ゲーシオンの遠征拠点から。

地の神の通訳アロエさんは自分にも他人にも厳しい人。

 錬成台を組み立て、部屋の中を片づける。

 棚や小さなテーブルに椅子。こうした物は置かれていた。

 おあつらえ向きに隣の小部屋とはドアで繋がっていて、その部屋は素材置き場として使おうと考えた。

 そちらの小部屋はたぶん前に住んでいた人も物置として使っていたようで、棚と開き戸のある箪笥たんすなどが設置してある。


「──あれ?」

 ドアを閉めようとすると、ドアががたついて木枠にぶつかった。開けた時も違和感があったが、どうやらドアの外枠部分が変形して立て付けが悪くなっているようだ。

「……いっそドアを外してしまうか」

 俺は蝶番ちょうつがいの金具を外し、隣の部屋との境を開放してやる事にした。


「ほら、これで広々と使える」

 ドアはまだ使えるかもしれないので壁に立て掛けておき、外枠はばらばらにして床に置く。

 そうして簡単に掃除を済ませ、ウル=オギトに報告をしに行こうと行動に移す。

「しまった……蜂蜜酒ミードでも持って来るべきだったか」

 そうは思ったが無い物は仕方がない。無手で神殿に行こうと考えた。



 建物の外に出ると鍵を掛け神殿へ向かう。

 大通りに続く道を歩きながら、道の先にある歩道を通る人々の姿を確認する。

 ミスランに住む人と服の趣味(色)が違うのか、この街の市民は地味な色合いの服装を着ている人が多そうだ。

 すでに冒険者は転移門に出向いているのだろう。市民の姿ばかりが目につく。

 神殿の関係者や管理局員の姿もちらほらと見え、俺はその中を歩く妙な男だった。──余計な注目を浴びないように、右足は革靴を履いた普通の義足を付けている──


 ……自分で言うのもなんだが、俺は冒険者の頃の癖が抜けず、革鎧を彷彿ほうふつとさせる上着に、腰には小物入れを取り付けた革帯ベルトをしている。

 薬や錬金道具を持ち歩くのは日常だし、時には短刀や短剣を腰に下げてしまう事もあった。


混沌こんとんの襲撃もあるからな、気が抜けない)


 と、言い訳をしてみるが、実際は身を守るという本能が、冒険を降りた後も残ってしまったようなのだ。


(臆病でなければ生き残れないぜ)


 そんな忠告を若い頃に先輩冒険者から頂いたのもある。

 命をけて戦うという行為は、人間の活動の中で最も矛盾むじゅんしているものなのだ。

 戦うには勇敢ゆうかんさが必要で、それでいて過剰な血気盛んさは危険でしかなく。

 臆病過ぎれば戦えないが、恐れ知らずもまた無謀むぼうそしりをまぬがれない。


 そして何よりも、人間は戦わなくては生きていけないのだ。──命を懸けるような戦いとは限らないが──

 自分の生きる糧を得る為に、時には自分を押し殺したり、その逆に激しく抵抗してみたり。

 だからこそつまらない事柄で争うのは時間の無駄である。


 鍛冶師の仕事をすると、冒険者の働きというのが客観的に見え、よりよく冒険に対する理解が深まったものだ。

 できれば冒険者に気前よく強力な武具を作ってやりたいが、それもいけない。

 きちんと金と素材を集められる技量を持つ者でなければ、例え強い武器や防具を手に入れたとしても、その道具に使われるような戦い方を学んでしまえば、盆暗ぼんくら冒険者の出来上がりだ。──それではいけない。


 一つ一つの試練を乗り越えて、自分の弱さを克服し、強くなろうと努力する。そうした戦いを越えた先に、初めて強い肉体と魂が形作られるのだ。

 楽をしようとする者には、惰弱だじゃくな体と精神しか形作られない。


 まあだから、本人の意思次第だという事だ。

 強力な武具に甘える事なく、優れた装備に見合った戦士になろうとする者は必然的に、自らに相応ふさわしい武具を選び取るだろう。

 日々の生活の中でどれだけ戦いへの想いを貫けるか。維持し続けられるか。気持ちが切れない事。それが本当の強さの源になる。


 きっとその気持ちが未だに抜けないのだ。

 俺も根っからの冒険者──あるいは戦士なのかもしれない。



 そんな事を思っていると、神殿の前までやって来ていた。

「どうしよう……表玄関から入れば、ただの参拝者と思われるかな」

 かといって裏口に回るのも怪しい……

 いや、ここは正面から入って行き、正々堂々と「地の神ウル=オギト様にお会いしたい」といくべきか。


「何をうろうろしているんですか」

「うひぃっ」

 急に横から声を掛けられて変な声を出してしまった。

 神殿の柱の間を行ったり来たりしていた俺を、アロエが見つけ声を掛けてくれたらしい。


「な、なんだ。アロエか」

「『うひぃっ』って、それでもかつては名をせた冒険者ですか」

 法服ローブを着た彼女は笑いもせず、むしろ冷ややかな視線を向けてくる。──そうした目をされるのが好きな奴だったらご褒美だと感じるのだろうが、俺は正常ノーマルなのだ。


「……油断していただけだ」

「だとしても情けない声ですね。──まるで尻を蹴られた子豚の鳴き声ですよ」

 相変わらず容赦がない地の神の通訳。

「まあそれはいい、ちょうどいいところに来てくれた。ウル=オギト様に会いに来たんだ」

 彼女は考える素振りをした。

「まあ、いいでしょう。こちらへ」

 そう言うと歩き出すアロエの後を追って、神殿の中へと入って行った。

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