遠征拠点の話題
夕食まで俺は鍛冶屋に戻り、発注書の中から徒弟達には任せられない仕事を引き受ける事にして、まずは練習を予て強化錬成をした一本の剣を打った。
やはり武器を作る感覚は残っていた。練習で金鎚を振るって金属を打ち伸ばしていると、次第にその作業に没頭していて、気づけばいつもやっていた通りの工程を、ほとんど無意識に行っていた。
こうして作られた一品に値段を付け、それを売り場の一角に展示しておく。
──後で知ったのだが、この剣はその日に売れたらしい──
さあ本番だと臨んだ仕事にも万全の結果が現れ、俺は満足して金鎚を置いた。
出来上がった長剣は中級冒険者にとって頼もしい武器になるだろう。その自信がある。
刃を研ぎながら反りはないか、厚みにおかしな所はないかを確認し、刃が磨かれて光を放つようになると、その剣に見合った鞘を作る準備に入る。
鞘の素材も冒険者から受け取ってあるので、それを使って刀身の形状と鍔元に合わせ、剣と鞘が「良き夫婦の様に」完全な形で成り立つように作り上げた。
「キン……」
剣の柄から手を放すと、吸い込まれるようにして剣が鞘に収まり、鞘の金具に剣が静かに口づけをする。
「我ながら完璧だ」
まだ少し早い時間だが、今日は早めに仕事を切り上げ、残りの作業を徒弟達に任せる事にした。
今日は宿舎に門にライムが乗っていなかった。
たぶん外に出してもらえなかったのだ。団員が出る時に、その足下からこっそりと宿舎に外に抜け出していたに違いない。
庭の訓練場には新米の数名だけが残っていた。
彼らはそれぞれの武器を振り上げ、攻撃を受け流す型を試したり、振り下ろしたりする練習に励んでいる。
玄関のドアを開け宿舎の中に入ると、猫の住処から恨めしげに見ている白猫の姿が。
「なんだ、毎日外に出るような玉じゃなかっただろ」
声を掛けるとライムは後ろ足で首輪の近くを掻き、喧しいくらい鈴を鳴らした。野良の頃を懐かしんでいるのだろうか? それで首輪も嫌になってきたとか。
「まさかね」
俺が玄関から廊下に上がると、子猫達が駆け寄って俺を迎えてくれた。──と思ったら、三匹の子猫達が追い駆けっこしているだけだった。
足の下をぐるぐる回って行ったり来たりし、取っ組み合いをしてじゃれあっている。
「ほらほらお前達。こんな所で危ないぞ」
二匹の子猫を捕まえて住処の中に押し込んだが、すぐに外に出て来て取っ組み合いを再開する。
彼らを放っておき、まだ早いが食堂の方へ行く事にした。
食堂にはまだ誰も来ていなかったが、調理場に今日の料理担当のアディーディンクに、カーリアとフィアーネの三人が入っていた。
「珍しい組み合わせだな」
「おやオーディスさん。僕だってたまには料理くらいしますよ」
「以前みたく、薬膳みたいな物を出してくるんじゃないだろうな」
冒険者をしていた頃にアディーがよく出してきたのが、薬草などを使った料理だった。苦みとか独特の匂いがあり、体には良さそうだったが──冒険先で食べるには、あまりに優しさのない味だった。
「はははは……まあ期待しててください」
などと笑うアディー。調理場に満ちている香りの中に薬草の匂いはしないが、後から鍋にぶち込んでくるかもしれない。
他の二人は旅団の標準調理法が書かれた帳面の通りに調理しているらしく、焼き過ぎに気をつけたりしながら料理に励んでいる。
テーブルのある食堂に戻ると、数人の団員が席に着こうとしているところだ。
カムイ、レンネル、エアネルの三人が席に着くと、その後からユナとメイが入って来た。
「団長。黒板見たよ」
「ゲーシオンに拠点を置いたんですね。どんな建物なのか楽しみです」
「おう。二階建てで結構広いぞ。ここの半分くらいしかないけどな。──庭には畑も作れる場所があるから野菜も作れる」
そうした話をしていると食堂に集まって来た仲間達が話に加わり、がやがやと騒がしくなる。
「近くに料理屋はありますか?」
「これは向こうの転移門について調べないと」
「それなら僕達が覚えている限りの情報を……」
こんな会話が交わされ、料理が運ばれて来ると皆席に着き、皿や飲み物を用意する。
拠点が用意されたというので団員は、早速ゲーシオンへの遠征を計画し始めたようだ。
エアネルとレンネルが話の中心に居ながら、リトキスやレオシェルドもゲーシオンについての情報を説明する。
そこへアディーが汁物を入れた鍋を運んで来た。──魚介類を香味野菜と油で炒め、香り付けをした物を軽く煮込んだものだと言う。
薬草も少し使われているが、香草と一緒にした事で以前のような薬臭さは感じない。
どうやらしばらく合わない間に、料理の腕も上げたようだった。
縁は刀の用語みたいです。西洋剣にはない言葉かも(西洋剣をイメージしたので変に感じるかも……)。




