素材屋ナンティル
住居となる建物内の掃除と鍛冶場の掃除は終わったが、修理が必要そうな箇所をいくつか見つけへこんでいると、鍛冶場を覗く獣人の女に気が付いた。
「ぉお、ナンティルか。良く来たな」
「んにゃ? 爺さんはどうしたね?」
彼女は頭上の猫耳をぴくぴくさせながら尋ねてきた、俺はつい先日亡くなった事を伝える。
「にゃんと……そろそろかとは思っていましたにゃけど……」
そろそろかと思ってたのか……と猫獣人族の勘みたいなものに、ちょっと気持ち悪さを感じる。あの爺さんはぶっ倒れて、胸を押さえながら権利書の場所を教えて「あとをたのむ」みたいな事をほざいて──医者に担いで行ったが──そのまま死んでしまったのだが、その時まで俺は爺さんが死ぬなどとこれっぽっちも(酷く咳き込んでいた時に少し考えはしたが)思わなかったのだ。
だが爺さんはどうやら胸(肺)を患っていたらしい。残っていた遺産を整理していたら薬の残りが出てきたのである……
「それじゃあ素材はもういらないのかにゃ?」
彼女は赤毛の髪を弄りながら、長い尻尾をふりふりと動かす。
「いやいや、俺がここを引き継ぐ事になっちまったから、素材は置いてけ──ただ、金が無いんだぜ?」
「金が無けりゃ、置いてはいけないにゃぁ」
そう言うな、客が払った分を渡せばいいじゃないか、と言ったが駄目だった。
「ツケは利かないにゃ、いくら信用があってもこれは譲れないにゃ」
ちっ、この業突く張りめ。
「分かった、多少はあるからそれで払う」
俺が折れるとあるならさっさと出せにゃ、とか言いやがる──こいつ、後で絶対泣かす。
足りなくなりそうな物をいくつか素材保管庫を確認しながら言うと、ナンティルは「ほいほい」と言われた物を大きな背負い鞄から取り出して行く。
「締めて五千七百ルキですにゃぁ」
うほっ、思ったよりも高くついたな。
俺は泣く泣く業突く張りの獣人娘に金を払い。素材屋が帰って行くと、買ったばかりの品を素材保管庫に入れて鍵を掛けた。
金を、金を得なければ。──今ので、爺さんの残していた遺産は、ほぼ使ったと考えていい。爺さんの鍛冶仕事に対する姿勢は買うが、もう少し自分の収支について考えて欲しかったぜ……




