神殿からの来客
大急ぎで体を拭き、着替えて応接室に向かおうとすると、副団長のレーチェが応接室のドアを叩こうとしていた。
「あら、もう出ましたの」
「汗を洗い流しただけだ。客の対応は俺がしよう」
「お任せ致しますわ」
彼女はそう言いながらドアを叩く。中から「どうぞ」という男の声が聞こえた。
俺はレーチェが開けたドアから部屋の中に入り、二人の神官服の男達を見た。一人は緑色の神官服を着ており、もう一人は緑色と藍色、さらに金糸を使った装飾を施された法衣を纏っていた。
一人はどこか見覚えのある男。──もう一人は初見のはずだ。
「お待たせしました」
そう言うと二人の男が立ち上がり、いきなり頭を深々と下げた。
「先日は申し訳ありませんでした」そんな言葉と共に。
「先日? いったいなんの……」
頭を上げた男の一人について思い出そうとしていると、「先日の」という言葉で思い出してきた。
その男は風の神殿で会った神官だ。風の神に会おうとした俺に対し、ふてぶてしい態度を取った奴だった。
男は俺の「ああ、あの……」という言葉にもう一度頭を下げる。
「我々は風の神殿でラホルス様に仕える者です」
法衣を着た高位の神官は俺の倍くらいの年齢で、いかにも粗食で生きているみたいな痩せた小男だった。
だがその眼差しは何か奥深い部分を見通すような、どこか達観した目をしている。
「オーディスワイア殿に対する非礼、重ねてお詫び致します」
「いや、そう頭を下げられても。特になんという事もありませんでしたよ」
俺は問題は無かったという態度でこの場を取り繕った。実際、イラっとしたのは一瞬の事で、神殿を去る頃には忘れていたくらいだ。
「そんな事を言いに、わざわざシャルファーからいらしたんですか」
「ええ、それに、あなたにお礼を伝えたいと思いまして」
「礼?」
思い当たる節がないので首を傾げてしまう。
「実はあなたが神殿を訪れたその日に、ラホルス様から呼び出しがありまして、今後は神官との接触を、と求められたのです。これは我々神官には大変ありがたい事でございます」
確かにラホルスと神殿についての風儀について話しをしたが、俺は特に神に対して何か、行動を起こさせるような発言をした記憶はなかった。
「あなたがラホルス様と親しい間柄であるのは、神と話してすぐに分かりました。これは私の推測ですが、人に恐れられる側面を持たざるを得ない神であっても、あなたのように親愛の気持ちを持って接してくださる方も居るのだと考えて、胸襟を開こうとお考えになったのではないでしょうか」
そうした神の心の変化に、俺がなんらかの影響を与えたとは思えなかったが、この場でそれを否定するのは止めた。
高位の神官らしい年老いた男は、神ラホルスと対話できる事を本当に喜んでいるらしい。
リーファが用意してくれたお茶を飲みながら、俺と神官はしばらく応接室で話し合っていたが、食事の用意が出来たとリーファが部屋に来て、二人の神官もどうかと誘った。
「いえいえ、私達はこれで……。オーディスワイア殿。寛大にも我々の至らなさを許していただき、改めて感謝します」
二人の神官は去って行く時もそう言って頭を下げていた。自分が仕える神からお咎めを受けたかのように畏まって。
「何かあったんですか」
リーファが二人の様子を見て聞いてきたが、それほど興味を持っている訳でもなさそうだ。
「いや? ちょっとした行き違いがあっただけだよ。それより、飯にしよう」
応接室を出ると、廊下には律儀に俺達を待っていたライムの姿があった。
どうやら一緒に食堂で夕飯を食べようと考えての事らしい。
俺の足に体を擦り付けると、尻尾を立てて食堂に向かって歩き始めた。




