幸運なる仲間
夕食前の訓練で汗をかき、思えば久し振りの鍛冶作業で疲れを感じていた俺は、夕食の前に風呂場で汗を流そうと考えた。
どういう訳か部屋から出た俺の後を子猫二匹が追い掛けて来たが、風呂場の前まで来ると、子猫達は慌てて逃げ出して行った。──やはり水が嫌いらしい。
脱衣所で服を脱いでいると、カムイとレンネルが入って来た。
「あ、団長。お疲れさまです」
「おう」
「なんか体の左半分が真っ赤ですけど」
「お? そうか……久し振りに炉の前で作業したんで、肌が熱に弱くなってたんだな」
言われてみると左手の甲が少し赤くなっているようだ。
「鍛冶仕事の再開ですか。また忙しくなるんですね」
「素材集めとかもね」カムイの言葉にレンが返す。
「素材か……霊晶石とか魔力結晶とか、店で売ってないか見てこないと」
風呂場で体を洗いながら、二人に今日の収穫を聞く。
「あ、今日はいい事があったんですよ」
「そうそう今日は『峡谷の中の隠し神殿』にユナと俺達だけで行ってたんですが、そこで出現した混沌の尖兵から、珍しい物を手に入れました」
と、カムイが嬉しそうに言う。
「混沌の尖兵から? …『幻幽の炎』付きの武器が出たのか」
俺が先手を打って答えると、二人は「さすが」といった顔をする。
「──そうなんです! いや~あれって、結構な高値で買い取られるんですね。お陰で遠征に行かなくても大丈夫かもしれません」
「遠征……そうか、出稼ぎに行く予定だったな。なら拠点を購入するのはもう少し後でもいいか」
その言葉に反応したのは、かつてゲーシオンの旅団に居たレンネルだった。
「それってゲーシオンに遠征拠点を置くって事ですよね? 急がなくてもいいかもしれませんが、旅団の拠点を作ってくれるなら嬉しいですね。いつでもゲーシオンの転移門先に行けるようになりますから」
「うん。それ以外の都市にも拠点を作っていく予定だ。──だからおまえ達も稼いでくれよ?」
そう言うと二人は「うぇ──ぃ」と、やる気があるのか無いのか分からない返事をする。
それにしてもこの二人。月光の剣に続いてまたしても希少武器を手に入れるとは……。もしかしてこの二人のどちらかが幸運を引き寄せているのか?
混沌の尖兵が持つ武器に希に付いている「幻幽の炎」という効果。それは霊体にも有効な追撃効果を与える、というものだ。
かなり有効な性能で、多くの冒険者に求められる武器である。
「で、どの武器に付いていた? 大剣か矛槍か? それ以外か」
「大剣です」
「おお──、それは高く売れただろう。矛槍でも高く買い取ってもらえるが、大剣と比べると少し価格は安くなるはずだ」
「ですね。やっぱり大剣は使う人が多い武器ですから」
俺は頷き、瓶から頭に洗髪剤を振り掛けて頭を洗い始める。
二人も頭を洗おうと洗髪剤を受け取った時、脱衣所からメイが顔を覗かせた。
カムイとレンネルは慌てて股間を隠そうとする。
「こら、男子入浴中と出てただろ。入って来ちゃいかん」
俺は小さな腰掛けに座り、頭を洗いながら横を向いて言った。
「団長。お客さんが来てるよ」
少女は野郎達の裸など一向に気にする様子もなく、そう告げた。
「もうすぐ夕飯だというのに客? ……けしからん。夕飯時を狙って来るなんて、悪質な勧誘か?」
「ううん、神殿の神官だよ。……ぇえと、どこの神殿だったかな?」
少女は名乗ったはずの相手の名前をど忘れしたみたいだった。
「ふん、夕飯時に来る奴なんてろくなもんじゃないな。メイ、塩をぶっかけて追い返してやれ」
と、頭の泡をお湯で流しながら冗談のつもりで言った。
「塩?」カムイとレンネルは首を傾げているようだ。
「うん。わかった」
メイはその言葉を真に受け、脱衣所を出て行こうとする。
「待って! 今のは冗談だから!」
慌てて少女の後ろ姿に呼び掛けると、彼女は立ち止まって振り返った。
「客は応接室に通しておいてくれないか。あと、誰か──リーファに話を伝えて、客にお茶を出すよう伝えてくれ」
そう言うと少女は頷き「わかった~」と、今度こそ脱衣所を去って行った。
洒落の通じない子に迂闊な冗談を飛ばすものではないな。そんな風に思いながら頭からお湯を被り、湯船には浸からずに浴場を出る事にした。
塩を撒いて追い払う、みたいな文化はフォロスハートにはないみたい。
塩は西海の大地と繋がる前までは貴重な物だったからでしょう。
幻幽──もちろん造語。
特殊な力の構造は分かっていないものが多く、錬成できない。
次話は月曜日に投稿を予定。




