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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第十章 愛する者のために

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混沌吸着結晶を探る

かなり面倒臭い文章になってしまったかな……

オーディスワイアには混沌の反応が、複雑に動くランダムな数字のように感じられたようです。

混沌という現象に対して、その本質に迫ろうともがく思索の跡。そんな内容です。

「離れろッ!」

 俺が叫ぶと、研究員はすぐに混沌吸着結晶から距離を取る。

 台の上に置かれた黒い吸着結晶が振動を始めた。

「ブブブブブブブッ」

 それは確かに結晶が震えているように見えたが、結晶が台とぶつかり合う音は聞こえてこない。

 あれだけ振動していたら、石と木がぶつかって「カタカタカタ」と音が鳴るのが自然なはず。

(それに、震えている物体が台の上を移動しないなんておかしい)

 俺は魔法を使った解析に集中し、何が起きるのかを見破ろうと全神経をそこに集中させる。



「ブジュゥォオォォオォゥゥンッ」



 奇妙な音が聞こえ、台の上から透明なものが広がるのが見えた。

 それは空間のゆがみ。

 まるで分厚い硝子ガラス鏡面レンズを通して物を見る時に、周囲の部分が丸く歪んで見えるみたいに。

 それが周囲一メートルくらいに広がると、中心部分に一瞬で収束するようにして消え去った。広がる時はゆっくりで、その現象が広がる限界までくると、一瞬で消え去るみたいだ。

 なんで中心部分に空間の歪みが収束するように見えたのか、それすらも謎のままだが、解析を掛け続けて判った事がある。


 この現象はまるで十進法とか二進法とか、無作為ランダムな数字の羅列に対してなんらかの作用を与えると、それに反発するようにして混沌が力を発揮するみたいだ。──なぜ機械的な数列だと思ったのか、そこは自分でもよく分からない──



「何か分かりましたか? 私には、属性力に対する混沌の抵抗に見えましたが」

 メリッサがそう告げた。

「……俺には混沌の中にある異質な調和状態──……なんと説明すればいいんだ? その──つまり、あらゆる物が渦を巻いた状態の中に、なんらかの規則性を与えようとすると、混沌は元々の無作為な融合状態をしとし、秩序をもたらそうとしたり、混沌の全体的な不調和から何かの力を取り出そうとすると、そうした作為を拒絶するかのような。そんな反応に見えた」

 そう説明しても、この場に居る連中には伝わらなかったらしい。

無理もない。自分でも説明し切れるとは思えなかった。


 俺の目には今の現象は、機械コンピュータ計画プログラムに似たものに映ったのだ。


 混沌を数式化するのは不可能だろうが、例えて言うなら、表面的には0から9の数字が無作為に入れ替わり、それが不安定な流動を繰り返しながらも一つに交わっている状態。

 それが混沌であり、そこに外部からの力が加わると、混沌はさらに0から1、1から2の間にも無数の数字が行き来しているみたいに、一瞬の間に無数の無作為な数字の入れ替わりをおこなって、複雑怪奇な結び付きを形作っているのだが。

 そこになんらかの手段で調和を形作り、0から1、2、3……と、数字を()()()()()配列するような力が加わると、混沌は外部に活動力エネルギーを放出するようだ。


 それは内部崩壊と同時に起こるみたいで、わば「混沌の自壊」と呼べる現象だった。


 なんと言うか……、不調和状態こそが混沌の理想的な姿であり、そこには不調和の調和。まさに混沌カオス(秩序のない)状態によって結び付いたあらゆる不合理性の群体の様なもの。

 それらは一つ一つが意思を持っているのではなく、混沌という本質的な融合と反発──交わる事のない、あらゆる過程と結果の繰り返し。それは生命と死であり、質量と活動力。無限の運動によって生まれるものと消えゆくもの。

 それらが飽和ほうわせずに満たされつつ、また消滅したかと思えば、やはりどこかからか再生される。

 まるで時間を巻き戻すみたいに無くなったはずの物を取り戻す。それは混沌の非合理性の極限。

 そんな風に思えるものだった。


 人間の脳に入り込み、そこから集められた混沌の残滓ざんしの集合体みたいな結晶が自壊したのは、つまるところ混沌の駄々のようなものかもしれない。



「我々は無秩序の過程と結果なのだ! 結び付く事のない創造と破壊とを繰り返す、あるべきものとあるはずのないもの。それらを我々は内包する! 秩序など必要ない!」



 まるで混沌の自壊はそう言っているように俺には思えた。きっと多くの人には──俺が何を言っているか分からないだろうが。


 混沌には秩序と無秩序の違いが曖昧あいまい──もしくは存在しないのだ。何度も繰り返される意味のない計算のように。それは書いては消される数字の羅列を思わせる。そこにはまれに正しい数式が生まれ、何か新しい物が創造される可能性もあるが、それすらも否定して打ち消してしまう。それが混沌の中で起きている事なのでは。そんな風に思われるのだ。

 決して「有」にはならず、「無」の中でのみ創造と破壊の周期を繰り返すみたいに。

 きっと混沌の中には、俺達が錬金術で新たに造ろうとしている物がすでに造られているのでは?

 そうした「可能性」の世界でもあるのが混沌のあり方に思える。


 簡単に表現するならば人工知能による計算の様なものだ。

 しかしそこには人間の「こうしたものを」という目的意識が働いて演算をし、なんらかの答えを導き出そうとするのだが。


 混沌には目的意識が無い。

 何かを為さなければならない訳でもない。

 ただ純然とした混沌の活動(無限の創造と破壊)のみがある。

 そこには善も悪もない。




 混沌のこの活動は何かに似ていると思った。

 それは「夢」だ。

 眠っている時に脳が新しい情報を取り入れたりする時に、脳内で起こるそれぞれの情報の結び付きにより不可解な夢を見たり、あるいは現実にはあり得ないような事も起こる。

 混沌はそれをさらに不可解な、不合理なものにしたような、そのような夢に似ていた。

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