管理局での実験
命の危険がある実験に臨む管理局の研究員。
混沌を恐れながらも、それを研究している人達も居るようです。
管理局の技術棟に入るとすぐにメリッサの下に向かう。
まだ朝の早い時間だった為、研究員らもこれから作業に当たるよう準備しているところだった。
メリッサはそんな彼らに何か指示を出している。
「あら? どうしたんですか。こんな朝早くから……」
「すぐに伝えたい事があってな」
切羽詰まった俺の顔を見て、こちらの焦りを感じ取ったメリッサは研究員を下げ、俺に席に着いて話すよう促す。
「実は今朝、混沌吸着結晶を使った実験をしていたんだが」
そう切り出してから問題の爆発について説明し、この現象の解明を手伝って欲しいと訴えた。
すると彼女は今までにないくらい真剣な顔をして考え込んだ。その顔を見て、協力しないと言い出すのではと思ったが、そうではなかった。
「混沌吸着結晶ですか。まさかそんな現象を誘発するとは。──実は私もあの、人間の脳に溜まった混沌の見えざる因子は危険なのではと考えていまして。極力他の要因とぶつからないように、物からも人からも離れた場所に結晶をしまってはいたんです」
まだまだ量は少ないが、実験に使用できるだけの結晶は集まっていると彼女は言った。
「では早速──どこか、危険な実験をしてもいい場所で作業に取り掛かろう」
「────そう、ですね」
彼女は少し怯えているようだった。
空間を削り取るようにしてあらゆる物を消滅させた力。それが混沌の中に隠れている。そうした俺の指摘に、なんらかの嫌な予感を予期したみたいに。
俺とメリッサは施設の一画に向かった。そこには混沌結晶を中心に研究する技術者達が数人集まり、混沌結晶を解析したり、分解したりしていた。
分解を担当する者は一日に数回までという規定があり、さらに数日間の間隔を開けるよう指示されているという。
それになんの意味があるかは彼らも分からないが、人間の脳に影響しないとも限らないので、その兆候が現れないかと、彼ら自身も観察対象として扱われているのだ。
研究員に今回の事を報告すると、ある者は神妙な顔をして、ある者は恐怖に顔を引き攣らせるといった具合であった。
──無理もない。
どのような力がどれくらいの範囲を巻き込むか分かったものではないのだ。もしあの爆発が巨大なものになったら?
たぶん今度の実験で俺もメリッサも死ぬ事になるだろう。──そんな恐怖が付き纏う。
「それでは部屋の中央に台を置き、その上に混沌吸着結晶を置いて、混沌多色(金緑)玉石を通じて魔力を注ぎます」
「それを外部から解析しながら何が起きているのか、それを突き止めよう」
そこで問題なのは、誰がその吸着結晶の側で魔力を照射するか。その危険な役回りを誰が行うかだった。
「爆発する前に吸着結晶が振動したんだ。それから数秒後に爆発するようだから、振動を開始したら離れる。それでたぶん平気なはずだ」
俺がそう説明すると、研究員の何人かは「それなら……」と前向きな気持ちになったようだ。
選ばれた一人が部屋の中央に行き、混沌多色玉石を手にして合図を待っている。
俺や他の研究員は離れた場所からその様子を観察し、様々な種類の解析魔法を掛けながら、実験の様子を細かく調べようと身構えている。
そうした状況の中で、この危険な実験が始められた。
俺は予め研究員と話し──魔力を送る時、四属性の調和状態を生み出すような、不和の中に調和を見出だすような心象を持って取り組むようにと説明した。
若い研究員は頷き、緊張感のある顔つきで部屋の中央に歩いて行く。
「……始めます」
鉄の台に刺さった一本の木製の脚。その上に小さな台が乗っており、そこに混沌吸着結晶が置いてある。
これならたぶん結晶の乗った台と、その台を支える木製の棒だけが失われるはずだ。
何しろ空間ごと消え去ってしまったのだ。
実験で失われる物は少なければ少ないほどいい。無駄は極力省くのがフォロスハート流だ。
研究員は俺の指示した通り多色玉石を手にして、そこからいくつもの精霊力を基礎とした力を送り込み始める。
火、風、水、地……そうした属性を操る力を流し込む。──しかし、それだけでは何も起こらないようだった。
「もっと奥深い部分に投射するような心象で」
俺はさらに難しい注文を付けた。表層的な、ただ力を注ぐような心象では駄目なのかもしれない。
研究員は一呼吸おいて吸着結晶に手を翳し、多色玉石から魔力を流そうとした──
その瞬間。
外部から解析していた俺の視覚に、奇妙な反応が現れたのだった。




