雑務と来客 ー双子の冒険者ー
翌朝から旅団宿舎の庭でカーリアの剣の練習に付き合う──正直言って非力だし、基礎体力も低くて実戦から遠ざかっていた俺でも、片手で充分に相手ができてしまう。──それと並行して給湯設備の製造を行う。
こちらは材料をレーチェが用意した物があるので、それを加工して宿舎の方に運んで組み上げることになった。完成してもちゃんと使えるかどうかは分からないが、おそらく失敗してもぬるいお湯が出たり、逆に凄く熱い熱湯が出たりするだけであろう。
旅団の連中が帰って来た午後には、レーチェもカーリアも訓練相手となってしごいているらしい。──レーチェは俺よりも基本に忠実な教え方ができるので、初心者同然のカーリアには丁度良い相手であったようだ。
そんな雑務と鍛冶の仕事をこなしながら日々を過ごしていると、午後に変わった冒険者達がやって来た。外見が良く似た二人の男女は、双子の姉と弟だという。どういう訳か姉は男勝りな感じで、弟は女物の服を着せたら女の子だと勘違いされること請け合いな、物静かでお淑やかな雰囲気を持っている、変わった双子の姉弟であった。
二人とも髪は栗毛色をしており身長や体格はそっくりで、胸の大きさも……非情な事に違いは判別できなかったのである。
「あなたがオーディスワイアさんですか、思っていたよりも若い方なんですね」と姉が言うと。
「か、鍛冶は年齢より技術で評価しろって怒る人も居るんだから……!」と弟が姉を窘める。
「……それで、今日はどのようなご用でしょうか?」
双子は互いの顔を見合って頷くと、背負っていた背嚢から銀色の延べ棒を取り出して言った。
「これで『ちょやうりけん』を作ってください」と言ったのだ。
「ちょ……何だって?」
姉が弟を小突いて「同時に言うなって言ったでしょ!」と怒る。
「長剣と槍を作って欲しいんです」
姉が弟を押し退けて言う。二人が持って来た金属の延べ棒はクロム鉄鋼だった。美しい白銀色の延べ棒を見るとかなり上質な物と思われた。
続けて双子は精霊石や硬化結晶などを取り出して、これで強化錬成もして欲しいと言う。双子はなけなしの金という感じを出しながら、頭を下げて金の入った皮袋を差し出す。
「これでどうか、どうかよろしくお願いします」
皮袋の中身を見るとぎりぎりではあるが、規定額には届いている。
「まあ、これでもいいが。強化錬成で武器が失われる事もありえると承知しておいてくれ」
そう言いながら、槍や剣の柄の材料と長さなどを決める。
二日後には結果が出ると告げると、双子は分かりましたと言って軽くなった背嚢を背負う。
「二人はどこの旅団員なんだ?」
「私達は『黄土の岩窟旅団』に入っていたんですが、あまりに旅団長の横暴が酷くなったので抜けて来たんです」
「他の団員の人達も皆辞めるって言い出して、大勢が旅団を抜けたんです」
なにやら新しい旅団長になった男が調子に乗って、責任量を一方的に決めて旅団員に押し付けたらしい。
「あ──、そりゃいかんな」
「そんな訳で、私達はあの旅団に愛想を尽かして出て来たんです。それで以前から貯めて置いたクロム鉄鋼と素材を持って、近頃耳にした噂の錬金鍛冶師に、新たな武器を作ってもらおうと思ったのですよ」
都市ゲーシオンにも俺の噂が流れているのか、これは忙しくなりそうだ──そんな事を考えていると、入り口からレーチェとエウラが帰って来た。




