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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第十章 愛する者のために

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鍛冶屋での研究

 朝の訓練と朝食。

 その後で俺は鍛冶屋に向かった。混沌こんとん結晶についてさらなる研究をしようと考えて。

 朝起きた時に、閃きのような考えが頭に残っていた。もしくは眠っている最中に頭の中で研究を続けていたのかもしれない。

 あくまで断片的で曖昧あいまいな、取り組み方についての示唆ヒント程度のものだ。


 混沌結晶の「混沌吸着結晶」に関する研究。

 この結晶に取り込まれた危険な、精神を侵蝕する力──のようなもの。それについて管理局でも研究を続けられているが、未だに明確な説明がつけられていない。

 透明な結晶を黒く染める力は、同じく混沌結晶を分解する事で得られる「混沌鉄鋼アディスヴァルド」を使うと、簡単に消滅する事が分かっている。

 混沌鉄鋼を消費して「対混沌攻撃力」を付与した武器を作り出せるのも発見したが。

 まだまだ謎の多い物体なのである。



 ケベルとサリエは鍛冶場の掃除を始めていた。

 俺もその作業に加わると、今日の予定を話し合い、俺は鍛冶屋の奥にある研究室にもる事を説明した。

「いよいよ現場復帰ですか」

「オーディスさんにしか造れない防具や、魔法の剣の発注もきてますから」

「ああ分かってるよ。だがそれはまた今度だな」

 そう告げて奥にある研究室に入った俺。


 混沌吸着結晶などを準備し、黒く染まった結晶をもう一度解析に掛け、これをさらに分解したり、あるいは黒く変色した部分を取り除けないかと探ってみる。

 この結晶内に溜め込まれる黒いものは不明瞭で、どのような意味があるのかまったく分からない。

 混沌一部から離れたものが人間の脳内に溜まるという性質には、なんらかの意味があるのだと思われるが……

 これには精神を侵蝕するという異様な作用があったが、それだけという事はないだろう。混沌が人間の中に入り込み、何をしようとしているのか、その目的(があればの話だが)について知りたいものだ。


 さらに解析を続けていると、この結晶の中にある黒い影の様なものは、混沌の力──活動力エネルギー──に似たものの、非常に安定したものだという事が分かってきた。

 ただそれは大きな矛盾をはらんでいるものだった。


 混沌は常に内在的に反発や抵抗を生じさせ、交わる事の無い無限の対立を繰り返す力の流動のようなものなのだ。──俺の推測に過ぎないが──

 あの漆黒の中では、常になんらかの力が流れており、決して同質に交わる事のない様々な活動力がうごめいているのだ。

 互いに絡み合いながら、決して一つのものとして安定する事のないもの。それが混沌の本質の一つなのだ。


「この黒いのは、混沌の力の一つなのか?」

 それがあの渦巻く混沌の中から取り出され、人間の脳に入り込む理由……

「もしかしてこいつが人間の脳に入り込む理由は、人間を調べるとかそんな意味がある事では全然なくて、ただ性質の似通ったものが人間の脳だったからなのか?」

 解析しながらそんな思いを抱いた。

 この結晶の中に捕らえられた混沌には、どのような活動力があるのだろう。人間の脳に入り込むと、通常ではあり得ないような行動をさせたりするようだが。

 たぶんそれは故意にやっているのではなく、この混沌の活動力が入り込む事によって、偶然に起こしてしまう現象なのだ。


 混沌が持ち得る闇の──精神的な部分に干渉する力。

 これになんの意味があるのだろう……


 そんな風に考えつつ、結晶の中にある黒いものに干渉しようと、あらゆる側面から魔法の力を使って観測を続けた。

 混沌結晶から分離させた混沌鉄鋼や、混沌多色(金緑)玉石たまいしなどを経由して魔力を送り込んだりしていると、急に黒ずんだ混沌吸着結晶がうなるような音を響かせて振動し始めた。


「──⁉ なんだッ⁉」


 混沌多色玉石を握り、俺は椅子から跳ねるように後方に下がった。

 椅子が石の床に叩きつけられて大きな音を立てる。机の上で振動する結晶が危険な反応を示したのを解析がとらえた。


「やべェッ‼」


 俺は部屋を出ようと入り口の方に向かって飛び出し、そうしながら机の上にある結晶が破裂するのを確認した。


「ブシュゥンッ」とか「ブォォオォンッ」といったような音が重なって聞こえたかと思うと、結晶から透明な何かが放たれた。

「透明な何か」とは、俺の目には見えなかったのだ。

 ただ空間が円形状に歪んで見え、周囲に広がっていったのが見えたのだ。


 それは空間のゆがみのように見えた。そうとしか説明できない現象だった。──巨大な水晶玉が現れ、それが肥大していった様な。視覚的にはそのように見えたのだ。


 続いて大きな破裂音が聞こえた。

「ズバゥンッ」とか「ズカゥンッ」とかいった乾いた音。

 その音と同時に周囲にある物が震えた。

 ドアまで退避した俺の体にもビリビリと、皮膚を刺激する振動が伝わってきたのだった。

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