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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第十章 愛する者のために

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情熱の源泉。~死線を越えた過去の回想~

オーディスワイアが足を失くす事になった油断。

そしてその結果に達した、「遅すぎる」覚醒。そんな話。

 いつの間にか眠っていたようだ。

 朝、寝台ベッドで目が覚めると、どういう訳か胸の辺りが重く、暑い。なんだと思って胸の方を見ると、目の前に白猫の顔が──でんっ、と置かれていた。

 夕べは机を前にして混沌こんとん結晶についてまとめた論文などに目を通していたのだった。

 それで夜中にライムが部屋のドアをガリガリ引っき始めたので、部屋に入れてやったのだ。──そう思い出し、胸の上で眠っている白猫の背中を撫でてやる。


 すると母猫は薄目を開いて反応したが、まだ眠りたいらしく、再び目を閉じてしまう。

「重いんだよ。どいてくれ」

 そう言っても一向にどこうとしない。

 仕方ないのでそっと布団を持ち上げて、そのまま寝台の上に置いてやった。

 小鉢植物園テラリウムに霧吹きで水分を与え、玄関に向かうついでにライムを抱えて部屋を出た。


 抱き抱えて運んでいると、白猫は腕に足を掛け、肩に掴まるようにして背伸びをし、大きな欠伸あくびをして俺の肩に乗ってくる。

 体をこすり付けてから廊下に飛び降り、自分の足で階段横の住処すみかに帰って行く。

 子猫達はまだ眠っているようだ。

 母猫は子猫の居る巣箱の中に戻って行った。


 玄関の小鉢植物園の面倒を見ると、庭に出て神への祈りを捧げ、木剣を手に簡単な訓練をする──

 そうしながらレーチェとの決闘の日が近づいているのを朧気おぼろげに考える。

 ある意味、俺の人生の転換点ともなる決闘なのだが、俺にあせりはない。なるようにしかならない、と考えている所為せいもあるが、今の俺なら──戦いの感覚を取り戻した俺になら──彼女に負ける気はさらさらしない、というのが本音だった。

 こんな事を彼女に告げたら、決闘の時に猛攻を浴びせ掛けられるかもしれないが。

 ──それでもやはり、俺は負けはしないだろう。

 それほどの戦いの感覚が戻ってきていた。



 犬狼の王(バロンレガルム)との戦いの中で取り戻したものは、冒険者として戦い抜いた数年間分の戦闘に関する特異な感覚だった。

 死の瀬戸際に立った事で、眠っていた戦いの感覚が喚び覚まされたのだろうか。

 くるくると木剣を振り回しながら、レーチェの攻撃をさば心象イメージ訓練トレーニングを重ねる。


 彼女も今度の決闘に向けて特別な訓練をしてきたようだが、それを乗り越えなければ、彼女を手に入れる事はできない。

「改めて考えると俺もレーチェも、根っからの戦闘バカという感じだなぁ」

 戦いで人生を左右する決定を下すあたり、冒険の中で人生の糧(収入)を得て、命懸けで一日一日を生き抜いている冒険者に染み付いた、独特の感性そのものだ。


 だがそれはある意味で、人生の真実なのかもしれない。

 戦わない者に得られるものなど、仮初かりそめの、偽物の感覚や想いでしかない。

 本気で取り組む事柄以外に、自分を本当の意味で満足させる事などあり得ないと俺は知っている。

 でなければ適当な鍛冶仕事で自分を腐らせ、過去の冒険者としての生き様を忘れ去ってしまっていただろう。


 旅団を立ち上げる覚悟をした時だって、神に勧められたからという理由だけじゃない。

 俺自身が冒険者という無くてはならない存在に、強い想いを持っていたからこそだ。

 冒険者を辞めて彼らの支えになると決めた時に、冒険者であった情熱まで捨てたのではない。

 その時の熱量を鍛冶という仕事に向けて打ち込んだ。

 情熱だけが自分の生き方を肯定できるのだ。自らの進むべき道を見失ったとしても。そこから新たな生きる道を探るのもまた、想いのたけがあってのものだ。

 自身の人生を生き抜くという衝動。──熱意。

 冒険で足を失った時にもその強い気持ちが、俺をこうして生かした。



 ── 回想 ──



 幼竜に足を食い千切ちぎられ倒れた俺をかばおうと、リゼミラとアディーが複数の幼竜に立ち向かった。

 俺はなんとか起き上がると片膝を突いて踏み止まった。

 そこへ足を食い終えた幼竜が迫ったのだ。


 ──絶体絶命。


 多くの者はそこで為すすべなく命を落とすだろう。

 だが──俺は違った。

 仲間が戦っているのに俺があきらめる訳にはいかないと考えたのか、痛みを無視するほど研ぎ澄まされた戦士としての意識が俺を覚醒させた。

 死の瞬間を前に、冷静な判断と意志だけが俺を支えた。

 失った右足を軸に、左足を引いて力を込める体勢を取る。


 そして、襲い来る幼竜の首を狙って鋭い剣閃を放ったのだ。


 まるで居合い抜きの様な一閃が空を斬り裂き、なんの抵抗も感じないほどの一撃で幼竜の首を斬り落とした。

 あの感覚。

 あれ以来冒険を離れた俺には、あの感覚を取り戻す経験は得られなかったが、たぶん戦い続けていたとしても、あれほどの一撃を振るう事は出来なかっただろう。


 あの一撃は俺の人生の中でも最高の一撃だったと言っていい。


 剣気を使った訳でもなく──真の、剣術だけで竜の首をねた一撃。

 剣士として練達した者だけが体験できる感覚。

 足を失うという絶望的状況の中で開花した、あの一瞬のひらめき……


 出来れば旅団の仲間には絶望的な状況におちいる前に、己の才覚と鍛練から得られたものだけで、そうした境地に達してほしいものだ。

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