月下の大要塞
新しく登場する転移門先「月下の大要塞」や、そこに登場する危険な敵の話など。
次話でオーディスワイアが月下の大要塞に何度も挑戦した話が語られます。
階段に座って考え事をしていると、子猫達が俺の足下で追い駆けっこを始めた。
狩りの練習を兼ねた取っ組み合いもして、廊下でごろごろと転げ回る。
「自由な奴らだなぁ」
一匹の子猫が近づいて来て、俺のズボンを引っ掻き始める。その子猫を抱き上げると、膝の上に乗せてお腹をくすぐってやった。
すると青毛の子猫は嫌がって指に噛みついてきた。──本気で嫌がっている訳ではないようで甘噛みだったが。
そんな風に子猫達と戯れながら黎明の白刃旅団について考える。
あそこは若手ばかりで結成された旅団だと聞く。
当然「旅団統合支援課」からすれば、そんな旅団の在り方を認める訳にはいかない。旅団自体を解体すると言っていた。もし存続させるとしても、先達の冒険者を旅団長に選出して、教官役なども参加させるだろう。
それに対し、あの団長が反発するのは目に見えている。
若者だけで冒険に挑もうという気概は買うが、そもそもそれは未熟の裏返しでもある。
大人に反発して噛みつくだけでは成長は見込めない。
今まであったものを受け入れて、そこから新たに踏み出す。そうした意識がなければ、有効なものを取り零してしまう。
そうしたものの中には技術についてはもちろん。その技術を獲得する為の最短経路などの、学ぶ為の労力の短縮化についての知恵もあるのだ。
そうした事を先達が学び、それを後生の為になると教えてくれるのだから。若者はその機会を投げ捨てるのではなく、受け入れて自分の力にするべきなのだ。
「どうしたもんかねぇ……」
余所の旅団の事とはいえ、同じ冒険者という関係にある。いつかはうちの冒険者とも共闘する場面もやってくる。「無限の混沌領域」が発生すれば、共に命を預け合って、強大な敵との戦いに臨む事になる。
管理局に任せるべきなのだろうが、あの筋力バカの若者が、力の無い管理局の職員の言葉に耳を傾ける未来が想像できない。
賢者ヴォージェスがなんらかの手段を講じるかもしれないが。
「なんとかならんかねぇ」
なすがままに撫でられていた子猫が俺の手から逃げ出した。
代わりに走り回っていた白猫が膝の上に乗って来て、ごろんと転がってお腹を見せる。
「よしよしよしよし……」
甘えてきた子猫のお腹をわしゃわしゃと触っていると、玄関からカムイとレンネルが冒険から帰って来た。
「ただいま戻りました」
「ああ」
二人は素材や入手した武器などを詰めた袋を背負っている。
「大量だな」
「今日はリゼミラさんやダリアさんらと『月下の大要塞』に行って来たんです!」
と、やや興奮気味に話すカムイ。
「おいおい大丈夫だったか。上級難度の中でも戦士系の敵が多い、危険な領域じゃないか」
見る限りでは大した怪我はしていないようだが、鎧には傷が増えているように思える。
「なんとかなりましたよ。──ラピスさんが回復魔法も使ってくれたので」
レンネルは冷静に答える。──かなり危ない状況にもなったのだろう。そう表情が言っている。
ラピスは多彩な魔法の使い手であり、かつて三人で戦っていた時には優秀な回復役だったという話だ。
「混沌の戦士。すごく強かったです」
「そうだな。『荒廃した都市と岩山』に出る奴とは違って──そう、攻撃力や一撃の重さは、リゼミラさんや団長みたいで。攻撃や回避の正確性はリトキスさんみたいな……」
「それは褒められているのかなんなのか」
褒めているんですよ。カムイはそう言いながらほっとした様子で溜め息を吐く。
かなり危険な想いをしたのだろう。
カムイもレンネルも表情には出さないようにしているが、混沌の戦士の話をする時に二人の身体から、気配が消えるみたいな感触を覚える。明らかに死を間近に体感した者の反応だった。
「黒騎士が出現する区画には行ったのか?」
「いえ、今回は行きませんでした」
「リゼミラさんもダリアさんも、今の俺らには危険だと言うので」
そんなに危険なんですか? と尋ねる二人。
「黒騎士は『暗黒鉄』という特殊な金属で出来た装備に身を包んだ敵で、その金属は硬く、重いんだ。
しかもその戦士としての技量も高く、レオシェルドでさえ、二体の黒騎士を同時に相手にするのは危険だと言うくらいだ」
それを聞いて二人の若者は、おくびを飲み込んだような顔をする。
俺は二人の様子を見ながら少し笑ってしまった。それほど二人にとって訓練教官としてのレオは大きな存在なのだ。
「それはそうと、どんな物を手に入れて来たんだ」
見せてみろと、二人の背負っている荷袋を受け取る。
そこに入っている武器や防具は、混沌の戦士が身に着ける強力な剣と籠手などだった。
その中で、特別な剣が入っているのを見つけた。それは柄頭を見ただけでも分かるものだ。
柄頭に七色に光る水晶が嵌め込まれている。
「おいおい、これは『月光の騎士』が持っている魔法の剣じゃないか。奴と遭遇したのか」
「ええ、ですが僕達は戦いませんでした。先輩達三人が戦うのを見守っていました」
「見ていてめちゃくちゃ強いのは分かった」
月光の騎士が手にする「月光の剣」は、半透明な刀身を持つ奇妙な剣で、これは魔法の効果を打ち消し、防御魔法などを貫通する性能を持っている武器だ。
この魔法の武器の強みだけでなく、月光の騎士の強さは、多対一であっても受け流しと反撃を繰り出してくる点にある(らしい)。
剣技という点では、レオシェルドに通じるものがある。──それほどに強いのだ。
「ただこの剣は魔力も気の力も通さないからな。斬れ味は鋭いが、斬破などが使えなくなるという欠点もある」
俺がそう説明すると、二人は揃って「怖い武器ですね」と口にしたのだった。




