アンクバート、荒れる
「なんだてめえ!」
「おとなしくしろ!」
「うるせえ! 俺にかまうんじゃねえ!」
そんな怒鳴り声が辺りに響く。
若い男が息巻いているようだ。周囲には野次馬が囲んでいたが、手を出す気はないらしい。
「なんだなんだ」
「乱闘か?」
そんな──関心があるのか無いのか、周囲に居る者達は声のする方を見て呟いている。
人の壁が途切れた所から声のする方を見ると、黎明の白刃旅団の団長、アンクバートが数人に囲まれて殴り合っている。
五人ほどで取り押さえようとしていた男達も冒険者のようだが、屈強な若者であるアンクバートの殴打を受けて、二人があっと言う間に倒されてしまう。
「おいおい、止めないとまずいんじゃないか」
俺は独りごちた。
押さえ込もうとしている男達もそこそこの冒険者に違いないが、腕力だけならアンクバートの方が勝っているかもしれない。
「落ち着きなさい!」
そんな気弱そうな声がしてそちらを見ると、そこには管理局の腕章をした男が立っていた。
だがこの乱闘は収まりそうにない。
ついにもう一人がのされて路上に倒れ込む。
「俺は管理局の指示なんか受けねェ! 消えろ!」
アンクバートは烈火のごとく怒りを露わにしている。
残り二人の冒険者もさすがに取り押さえるのは諦めたようで、戦闘態勢を解いてのされた男を介抱し、意識を取り戻させていた。
鼻から血を出している者も居るが、大きな怪我人は出なかった。
団長の若者はぎろりと周囲に群がる連中を睨みつけ、管理局の職員に背を向けると、通りを歩いて行ってしまう。
その背中には鬼気迫るものがあった。
(あいつ……管理局に敵意でも持っているのか?)
内心「その気持ちは分からなくもない」などと思いつつ、俺もその場を後にする。
それにしてもあの若者はなかなかやる。
素手で五人の相手をして、真っ向から叩き伏せるとは。
まあ見た感じ、技術的な部分では大したものではない。──というか粗削りで、素手での闘いならメイにも勝てないだろう。……そして俺にもアンクバートは勝てない。
いくら腕力が強かろうと、技術でその優位点を消す事は出来るのだ。
あの五人はあまりに相手を舐めていて、正面から掴みかかるような真似をし、まともに打撃を受けてしまったのだ。
メイや俺なら、あいつの攻撃を受け流しつつ、投げを打って地面に叩きつけるだろう。
──いや。メイなら懐に入り込んで、思い切りのいい打撃を鳩尾に叩き込み、正面から相手を打ち負かしてしまうか。
彼女は相手に対する配慮というものが足りない。いつか他人に恨まれてしまうのではないかと、ひやひやしている俺である。
アンクバートは自尊心の強い若者だ。メイのような少女に正面から闘って敗北したら……
「いや、その方が奴の為になるのか?」
小さな少女が何故あの筋肉の塊に勝利できるのか。その事を実戦で、身に染みて覚える機会を与えてやった方が、きっとこの先伸びるだろう。
──つくづくあの男が立ち上げた旅団に、優れた先達冒険者が居ないのが悔やまれる。
それにしても管理局の職員は何をしていたのだろうか。
アンクバートを取り押さえようとしていた男達は、あの職員に頼まれて若者を拘束しようとしていたとすれば、いったいなんの為に……
いつにも増して話を聞こうという感じのない若者の姿。
他人事ながら、あの若者の将来が心配だ。
武闘大会で敗北をきっし荒れている?
理由は以降の話の中で~




