冒険の館の前で
たくさんのブックマークと高評価に感謝して早めの投稿!
明日も投降します!
管理局を出て転移門広場の近くまで歩いて来た。
冒険に出ていた冒険者達が門から帰って来る時刻。
通りには人の波が出来ていた。──ずいぶん久し振りにこうした光景を見た気がする。
「冒険者を辞めてから、こうした光景を久しく見ていなかったなぁ」
玄人や中堅に混じって、若い冒険者の姿も多く見られる。
彼らの装備品は以前と比べると、かなり品質的にも整った物であると思う。
管理局が旅団と一緒になって、冒険活動に参加する若手にも装備品を与える風潮が強くなってきた証拠だろう。
転移門から通りを挟んだ先に、真新しい大きな建物が建っていた。
大きい門の前は人混みで混雑し、敷地から出て来る者や入って行く者。その流れで右往左往する。
門の横に架けられた看板に「冒険支援施設兼管理局素材買取施設」と、長ったらしい名前が書いてある。
「ここが『冒険の館』ってやつか」
そこは大盛況で、冒険者の多くが出入りしている。素材の売買もここで行えるらしいし、冒険から戻って来たばかりの冒険者らも、ここに寄って行くのだろう。
「あれ? オーディスさんだ」
近くからそんな風に声を掛けられた。
「ん?」
そちらを見ると……知らない若者だった。
声を掛けてきた男の近くに数人の男女が居る。──冒険に出ていたようで、皆武器や防具を身に着けていた。
「あ──、本当だ。こんな所でめずらしいですね」
「こんばんは──」
こんな風に声を掛けられてしまったが、誰だかは分からない。──たぶん鍛冶屋に来た客なのだろう。
「おう」
俺はそう返事をして、どこに行っていたのかと尋ねた。
「自分達は『峡谷の中の隠し神殿』っすね。それも草原だけをうろついて、森には一切近づかずに牙象だけを狙って狩っていました」
きっとまだ中堅になったばかりの男だろう。他の構成員はまだ、中級難易度に挑めるような感じではない。
「おいおい、あまり無茶はするなよ。そっちの若いのはどう見たって、まだ下級の転移門で活動するような格好じゃないか」
「あ、ばれました?」
この面々の中で一番の年長者の男が言う。
「けど、安全圏で戦うようにはしていたんすよ? 牙象王に出会ったら逃げるよう言っておきましたし」
俺は憮然として「いったいどこの旅団の冒険者だ」と問い詰めてやろうかと思ったが、そこまで出過ぎた真似はすべきじゃないと思い、黙っていた。
確かに草原だけなら、そんなに危険な敵に遭遇する事は無い場所だ。
それに彼らは背中に大きな牙象の牙を数本持っていて、無事に任務をやり遂げた達成感を味わっているところだろう。その気持ちを下げるような真似はしたくない。
「まあ、無事で何よりだ」
「うす」
どうもチャラい感じで信用ならないが、他の冒険者達からは信頼されているようだ。
「これを売って、こいつらの武具を揃えてやろうと思っているんす。金が貯まったらまたお願いしゃす」
「……ぉお」
彼らは俺に頭を下げると、冒険の館に向かって行ってしまう。
仲間の装備を調える為に冒険に出る……、久しくやっていない事だった。リゼミラやアディーディンクと一緒に活動していた頃は、しょっちゅう冒険に出て素材集めに奔走していたものだが。
「俺もすっかり鍛冶屋のおやじが板についてきたなぁ……」
しみじみと、彼らの背中を見送りながらそう思う。
あんな風に度胸と冒険心だけで、危険に挑んでいた頃もあったのだ。
時には無謀な冒険にだって挑んだ若い日の思い出……
「あ、なんか泣けてきた……」
あの頃の二人は未だに冒険に出ているのに、俺は冒険者を引退して、鍛冶師になっていた。
足を失った日から、多くの変化を受け入れてここまできたはずなのに……
「若いって、い~いものですね」
昔の映画評論家ばりの感想を口にしてしまう。
冒険の館の前には多くの冒険者達が居て、賑わっていた。
彼らが何を話しているのか雑踏で聞こえないが、冒険先の情報交換をしていたり、装備品について尋ねているようだった。
旅団に代わる新しい冒険者達の交流の場。それがここになったというのは間違いない。
旅団同士が以前よりももっと近い存在になり、互いの競争意識や協力関係もより自然と生まれるだろう。
俺はその場を離れ、宿舎に帰ろうとした。──その時、通りの方で争うような声が聞こえてきた。
「いや~映画って、ほんとうにいいものですね」というお決まりのセリフを口にしていたという水野春郎さんのこと。




