神の台座を造る報告
馬車に乗って中央都市ミスランに戻った。
空の色は橙色に染まり始めており、冒険から帰って来た冒険者達がそれぞれの家路に就いている。
管理局の近くに馬車が止まり、俺はそこで降りる事にした。
エウシュマージアの力を封入した神結晶をメリッサに見せ、それで神の力を増幅させた台座を造るのを説明しておこうと考えたのだ。
技術棟に行くと、すでに受付に顔を覚えられていた俺はすんなりと、メリッサに会う事が許された。
「ちょうどいいところへ」
俺の顔を見るなりメリッサが口にした。
「あ、そういえば用事があったんだわ……」
俺は入ろうとしていた部屋から出て行こうとする。
「まあ待って。大事なお話があります」
彼女は座っていた椅子から立ち上がると大きな声を上げた。
手招きする彼女の元に行くと、何やら細かい文字や数字の書かれた紙を見せてくる。
それは「神エウシュマージアの力による大地への干渉」と題されたものだった。
「ああ、この事か」
「え? 知っているのですか?」
「知っているも何も、俺が今日来たのは、まさにその為の神の台座を造る計画について話す為だからな」
「それはいいですね!」
具体的にどのような? そんな風に尋ねてくる彼女に、実際に神結晶を見せながら簡単に説明する。
「神結晶にあの蛇神の力を封入してもらった。この力を増幅する台座に組み込む。そしてこれを手にした冒険者達に、大地に眠る神の力がある場所に接近してもらう。そこでこの台座の力を使って干渉すれば──」
「大地に眠る力や神を呼び覚ます事が可能」
「たぶんな」
「分かりました。その台座の研究費はこちらで用意しますので、思う存分取り組んで下さい」
そう言われ、俺は肩を竦めながら「当分は無理だな」と答えた。
「何故です?」
「俺の体調の問題もある。──まだ細かな鍛冶作業に取り組んでいないからな。その前に、少し野暮用もあるんだよ」
「はぁ……。まあ焦らすつもりはありませんが、台座を使ってどのようになるか、なるべく早めに知りたいものです。上手くいけば、西海の大地に眠っていた双神を引き寄せたように、新たな大地をフォロスハートに接合できるかもしれませんから」
「そうだな。それに大地に神が居なくても、そこにある力に干渉できれば、貴重な植物の生長を促したりするのも可能になるかもしれないし」
夢が広がりますね。メリッサはそう言って今度は別の紙を手渡してきた。
「これは?」
「それはあなたの新技術開発報酬に関する受領証ですよ。そして今度からそのお金は管理局の新たな部署、『金融課』に一任される事になります。今後は各都市にある金融課の設立する『金融機関』からお金を引き出したり、預けたりする方式を取る事になりました」
「へえ……銀行みたいな事をするつもりなのか」
「ギンコウ……?」
「そのうち硬貨を止めて、紙幣でも作るようになるのかな」
「なぜその事を……。あなたも考えていたのですか」
どうやら管理局内でも、硬貨から紙幣への転換を図ろうとする案が出ているらしい。
「まあ金や銀は他にも利用できるし、第一重いしな。金の代わりになる物を、と考えるのは理解できる」
これは例の、悪魔的ギャグをかます機会かもしれない。そんな風に考えた。
「お札なら、硬貨で膨らんだ皮袋を手にしなくても済みますし、お札一枚なら懐にだって入れられます。なんでしたら恋文なんかと一緒に持ち歩くといいですよ」
「な、なんですか。急に……」
彼女は気味悪がって一歩後退する。
俺はにやりと笑って「冗談だよ」と答えた。
「だがまあ、いきなり硬貨を廃止すると言い出すのは危険かもな。まずは銀行……金融機関に金を預けさせておき、そこから金を引き出したりする中で、大きな取り引きの時に為替──証書などのやり取りで行ったりさせるのはどうだ?」
「……つまり普段の商売では貨幣を流通させ、大きな取り引きの時は金融機関内で、取り引きの決済を済ませるという事ですか?」
「そう。──土地とか住居とか。そういった物の権利を譲渡した、という事実だけを管理局の中で共有すればいい。金の移動は無く、預かり金額から、取り引きした相手の預け金に振り替えるだけで済む」
「なるほど……それはいい考えで──」
そこまで言ってメリッサは、俺の顔を不審そうに見つめる。
「な、なんだよ……」
「それ、今考えついたものじゃないですよね? なんだってそんな考えに至ったんですか?」
「ああ、それは以前から考えていた事だからな」
俺は嘘を吐いた。
以前居た世界ではそれが常識だった、そんな風に言う訳にはいかない。
「新技術開発報酬の金をわざわざ宿舎まで持って来られても困るからな。管理局の方で預かってもらい、必要な時に引き出せるようにと考えていたんだよ」
「────そうですか」
メリッサは納得した顔はしていない。もしかすると今までの事もあって怪しまれていたのかもしれない。
あまり大胆な発明をすべきじゃないかもしれないなぁ……
悪魔的ギャグ──かなり内容を変えてますが、ゲーテの『ファウスト』の中で、悪魔メフィストフェレスが言った言葉を真似たものですね。




