カーリア、両親を説得する
旅団の皆に指示を出して、今回は回復薬の原料となる薬草や、魔力を回復する薬を作るのに必要な暗生草を集める班と、主に管理局に渡す岩塩などを集める班に分けて、探索へ向かわせる……
「旅団長」
とメイが声を掛けてきた。俺はオーディスで構わないと言っているのだが、旅団の連中は大抵そう畏まった呼び方をする。
「うん?」
「カーリアは剣を学びたいらしい。私では無理なので旅団長に教えてもらえば? と言っておいたので、今日辺り来るかもしれない」
「おいおい、俺も仕事があるんだが」
「それは彼女も分かってると思う」
少女はそう言うと、ユナやエウラと出て行った。
やれやれ、また厄介な事が増えそうだな。とはいえ一度カーリアとは、話をした方がいいかもしれない。旅団で雇うとは言っていないし、彼女の両親についても、話しておかなければならないだろう。
午前中は鍛冶の依頼を受けたり、仕上げた品を受け取りに来た客の相手をして、時間が過ぎて行った。
昼食を食べている時にカーリアは店にやって来た。彼女は突然頭を下げると「剣術を教えてください」と口にした。
「剣術なんて呼べるものを、俺は習っていないのだが」
「そ、そうなのか⁉」
「ほら、俺って、実戦を重ねて強くなった口だから。最初こそ鱗族(蜥蜴人の事)相手に苦戦したりもした」
そこまで言って少女に、父親が殴り込んで来た事を話し、両親の許可が無ければ何も教えられないし、仮に教えたとしても、旅団で雇うかどうかは別問題だと突き放す。
「わかっている、わかっています! 父には納得してもらうつもりでいる!」
「つもりじゃ困る、君は両親とよく話をし、納得させてから訓練するなり、なんなりすべきであって、両親すら説得できない様な覚悟では、到底冒険者など務まる訳が無い」
少女は泣き出す一歩手前といった表情をして、鍛冶場を出て行く。厳しいようだが冒険は危険が付き物だ。死ぬかも知れないのに実力が足りていない者を、旅団に加えるなど俺にはできない。
その日の午後。旅団の面々が帰って来るのと同じくらいにカーリアが現れた。少女は父親が書いたという誓約書を持参して、それを突き出して見せる。
そこには娘カーリアに説得され、少女が二年間の間に冒険者になれなかったら、家業の鍛冶屋を継ぐ、という内容の誓約が書かれていた。
「ほう」
「だから私に剣を教えてくれ──ください!」
「訓練といっても場所が無い」
俺がそう言うとメイが言う。
「宿舎の庭でやればいい、私達もそうしたし」
「あら、それでしたらお風呂場の給湯設備も、同時に作って頂きましょうか。あちらの机の上に書かれている物、あれは給湯設備の設計図ですわよね?」
あがががが、こいつら揃いも揃って俺をこき使うつもりでいるな。──だがカーリアに両親を説得して来いと言った手前、後には引けなかったのである。




