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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第十章 愛する者のために

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西海の大地でエウシュマージアと

 フレイマの神殿の敷地から出る時に、多くの市民や観光客とすれ違った。

 火の神の姿──炎の大蛇──を見ようと、多くの人々が神殿の中へと入って行く。

 俺は神殿前の環状交差路ロータリーから馬車を探し、西海の大地に向かう馬車に乗った。


 その馬車はペルムの村を通過して西海の大地まですぐに到着した。

 大地の入り口前にはいくつかの建物があり、管理局の事務所的な物から、新たに建設されている工場の様な建物があった。かなりの大きさで、どうやら漁業でれた魚介類を集め、加工する為の設備を整えているようだ。

 一部の魚は塩漬けにされ、魚醤ぎょしょうなどに加工されるのだろう。

 これからは風味の違う魚醤や、魚介類を使った保存食など色々な物が増え、烏賊いかの塩辛なども手に入るかもしれない。

馬鈴薯じゃがいもに付けて食べたりしてみるか」

 気の早い俺はそんな妄想をたくましくしていた。




 吊り橋を越えて西海の大地に入ると、潮の匂いがしてきた。

 こちらの大地の気温も以前より少し下がり、波の音が少し大きなものに聞こえる。

 砂浜を洗う音に混じって、子供達の楽しそうな声が聞こえた。──どうやら砂浜で貝を探したり、手製の竿で小魚を釣っているらしい。


 俺は小さな島を海岸沿いに歩いて、エウシュマージアと接触できる方法を探していたが、離れた場所に青い大きなかたまりを見つけると、そちらに向かう。


 それは青い大きなかに──エウシュアットアだった。


 そのそばには数人の武装した冒険者達も居て、何やら大蟹に祈りを捧げる様な動きをしている。

 彼らが離れて行くと、その先に開けた場所があり、そこに青く塗られた転移門が一つ、ぽつんと設置されていた。



「おお、オーディスワイア。もう平気なのか」

 青い蟹の神様はそう尋ねてきた。

「ええ、なんとか。まだ万全とは言えませんが、そろそろ鍛冶の方も復帰しようと考えているところです。……ところで、今の冒険者達は何をしていたんです?」

「ああ、あれか。あれは──」

 エウシュアットアが躊躇ためらっていると、その足下から小さな蛇が砂浜から顔を出す


「来たかオーディスワイア。──先ほどの冒険者達は、縁起を担ぎに来たのだろう。なんでも冒険者の間では、転移門をくぐる前に青い蟹の神様に出会うと、冒険で多くの収穫を手に入れたり、幸運があるなどと言われているらしい」

「へえ。新しい縁起担ぎ(ジンクス)みたいなものですか」

「あまり地上に姿を現さない所為せいか、珍しく会う事が出来ると、それが幸運のきざしのように思うようだな」

「まあ冒険者は幸運という奴も味方に付けたいと思うものですから」


 冒険者時代の気持ちを思うと、そうした想いになるのも分かる気がした。

 冒険で目的を達成しても、毎回好成績がついて回る訳じゃない。──いまいちな結果に終わる事もある。

 目的の獲物を狩ったとしても、欲しかった素材が手に入らないなんて事は、何十回と経験した。

 幸運に恵まれた冒険者は、ちょっとした採掘や採取で貴重な素材を手に入れたり、滅多に出会わない希少な生物と遭遇そうぐうしたりする。


「なら俺も今日は、幸運に恵まれるかもしれませんね」

「だから、なんの根拠もないと言っているだろう」

 青い蟹の神様は呆れ半分、困った気持ち半分といった感じで言う。



「それで、今日はどうした? エウシュマージアに会いに来たのか?」

「ええ、転移門先で力を発揮する台座を造って欲しいという事なので、その相談を」

 青み持つ灰色の蛇が金色の眼を光らせ、長い舌を伸ばしながら頭をもたげた。

「おお、オーディスワイアよ。それでは頼みを聞いてくれるのだな」

「ええ、エウシュマージア様の力を付与した神結晶の台座を造れば、新たな可能性が得られると聞いては断れません。──まあ、まだ管理局と綿密な相談をしていないんですが、たぶん平気でしょう」

 そう言って準備してきた神結晶を取り出す。


「これに力を付与してもらえますか」

「うむ」

「周囲の環境への干渉かんしょう──つまり探索調査するような力と、そこで発見したものに干渉するような力を付与できれば……。もちろん細かい部分は台座の調整機構で対応しますが」

「分かった」

 砂地に置いた神結晶を前に蛇が頭を近づけ、念を送るようにじっと動かなくなった。

 きらきらとした光の粒が蛇の体から顔に伝わって行き、その鼻先から結晶の中に光が溶け込んで行く。

 神結晶に宿った光が、結晶の表面に金色の光を映し出す。


「ありがとうございます。さっそくこれをコアにした台座を造って──あ、まだ少し先になるかもしれませんが」

「ああ、知っている。副団長(レーチェ)との決闘があるのだろう?」

「なんだ? それは。仲間同士で決闘とは穏やかではないな」

 エウシュマージアの言葉にエウシュアットアが声を上げる。


「いえいえ、形式的な闘いですよ。ただ──それに俺が勝てれば、レーチェとの交際を開始できるという約束が交わされているだけで」

「はははは……そうか。それはいいな。人は想う相手が居るだけで、強くも弱くもなるものだから」

 青い蟹の神様は達観した様子でそう言った。

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