フレイマでミーナヴァルズと
神殿の敷地内にある迎賓館に通された俺は、女神と話をして、すでに考えてある計画どおりに、次の目的地へ向かういくつかの理由を頭の中に用意しておく。
(また「泊まっていけ」などと言われるかもしれないからな)
別にミーナヴァルズとのそういった関係が嫌という訳ではないのだが、やはり相手が神様だと気を使うし、こんな事が旅団の仲間にバレたりしたくはない。
レーチェにあのように迫っておきながら、女神の所に泊まったなど伝われば、きっと厭味の一つも言われるだろう。──もしくは決闘試合の時に本気でボコりにくるかもしれない。
────俺は自分の想像に身震いした。
応接室に通された俺は、紅茶を出されてしばらくそこで待たされる事になった
お茶請けの焼き菓子を口にすると、それはほんのりと甘い花の薫りがする、蜂蜜入りの焼き菓子だった。
「おっ、これは旨いな」
特別な蜂蜜で甘さを加えた焼き菓子と香り高い紅茶を満喫した俺は、出来ればこのまま帰りたいと思い始めた。
するとドアが静かに叩かれた。
「どうぞ」
そう声を掛けると、入り口から入って来たのは、一人の女神官だった。
彼女は頭を下げると、まず突然呼びつけた非礼を詫びる。
「そして──申し訳ございません。女神ミーナヴァルズ様は儀式の支度がありますので、残念ながらお会いする事はできません」と言う。
「そう──なのか? 先ほどの神官は火の神が呼んでいる、と言っていたが」
そう反論すると、そこそこの年齢の女神官は「突っ込んでくるな」といった表情を見せながら、「女神は儀式がある事を失念していたのでしょう」と答えた。
俺は表情には出さずに、少し考える仕草をして見せ、このままただ帰る事は出来ないといった空気を出す。
おそらく神殿内の(風紀)監督的な立場にある者が、女神があまりに気軽に一般人と接するのを好ましく思わず、なんとか俺を追い返そうとしているのだ。
個人的にはここで帰っても問題はないのだが、一応女神に心配を掛けたお詫びと感謝を伝えたいと思ってここに来ているので、俺はなるべく相手に反感を抱かせないよう言葉を選んでこう言った。
「火の神には私が昏睡状態の時に見舞いの品を下さった恩義があります。出来ればその礼を直接お渡ししたいのですが……」
そう下手に出ると相手の女神官も考え込み、「少々お待ちください」と言って応接室を出て行く。
無下に出来ない相手だと考えたのだろう。火の神から見舞いの品を贈られる相手となると、それなりの立場を認められた相手だと考えたはずだ。
しばらくすると先ほどとは別の若い女神官がやって来て、別室に居る女神とお会いできる、と言ってきたのである。
迎賓館の通路を歩きながら神官から「短い時間だけ」、という制限つきで許可が下りたと説明を受けた。この後に儀式をするのは本当らしい。
こちらとしても長居するつもりはなかった。
今日はこの後に西海の大地に行き、ゲーシオン、ウンディード、シャルファーの三つの都市にも行く予定を立ててあるのだから。
火の神ミーナヴァルズが待っているという部屋の前に来ると、女神官は扉を叩き、その重い扉を開けた。
「どうぞ」
中から若い女の声がした。
部屋の中に入ると、そこは先ほどの応接室よりも狭く、調度品なども少ない、客間の様な部屋だった。
部屋の中央に背の低い大理石のテーブルと、それを囲むように革張りの長椅子が置かれていて、その長椅子に火の神が座っていた。
女神は例によって赤い衣服と朱色の仮面を付けており、長椅子の横にある小さな椅子に腰掛けた巫女が、女神の錫杖を持ってこちらに頷き掛ける。
燃える様な輝く色の髪をしたミーナヴァルズは、前の席に座るよう身振りで示す。
「お久し振りです」
そう声を掛けると、女神は隣の巫女に顔を寄せ、巫女に喋らせる。
「うむ。元気そうで何より。お前が倒れたままでは、ミスランでも──いや、フォロスハートでも五指に入る鍛冶師の技術が絶えてしまう」
と、彼女は絶賛してくれた。
「恐れ入ります」と、こんな時の常套句を口にしながら、手荷物から一つの小箱を取り出す。
「今回の件のお詫びと、高価な紅蓮花の紅茶に対し、感謝の品を献上したいとお持ちしました」
テーブルの上に小箱を差し出すと、巫女がそれを受け取り、女神の前に小箱を移動させた。
女神が小箱を手にして、その中に収まった宝石を取り出す。
「柘榴石です。お納め下さい」
彼女の髪色に合わせた宝石──と言うだけでなく、火の力と相性の良い宝石であるからこの贈り物を選んだ。
しかしミーナヴァルズはあまり興味のなさそうな態度を取り、巫女にこう言わせる。
「宝石よりも酒を持って来ぬか。気の利かぬ奴じゃ」
「酒精は神殿に止められるかと考えたもので」
俺は素っ気なく答え、これから西海の大地に向かうので失礼します、と席を立とうとする。
「もう行くのか。つれない奴」
「火の神は儀式などが忙しいようなので、それを邪魔する訳には参りません」
こんな調子で、ともかく無事に復帰を果たした事を直接伝えてフレイマを去ろうとすると、女神は最後にこう言ってきた。
「フレイマに旅団の拠点を持つのには賛成じゃ。すぐに手配しよう」
また俺が街に来てからの様子を見ていたな──
そう思ったが口にはせず、曖昧に首を振った。
「手配はこちらでしますので、お手を煩わせる事はありませんよ」
余計な手出しは無用。そう言い残し、俺は迎賓館を出て行く。
毎週一話投稿を心掛けてきましたが、次話からは不定期更新になるかもしれません。
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