通信技術の向上に向けて
文化の日に特別更新。
技術開発に余念のないオーディス。けどそれらがフォロスハートの文明に危険な変化を齎す可能性については、誰よりも彼自身が恐れている。といった話。
自室に戻ると机の前に座った。
前々から考えていた技術開発についてじっくり考えてみようと思ったのだ。
それは、パールラクーンでの犬亜人との戦いで、ウル=オギトの力で気力や体力を回復した時の事。
以前は別の大地──転移門先の大地──に、直接フォロスハートの神の力を行使する事は出来ないとされていた。
しかし、あの時に神の声を聞いた事で、転移門を越えての通信が可能だと考えたのだ。
あの時に使用した「神威の台座」の構造を考えれば、神貴鉄鋼か神結晶がその働きを可能にしたのだと思われた。
「神結晶を使って映像や音声を通信する技術。それを可能にする新たな術式を考えないと」
結晶は小さな物で十分なはずだ。
「監視飛翔体と同じく空中を移動する──無人機の様な形か、それとも海外の警察官が付けるような、体に装着する撮影機か……」
軽硬合金で作っていた核に近い金属部品を神貴鉄鋼に替え、核となる結晶に神結晶を使用する。後は術式だが──
机の上に紙を置き、今までの送信と受信の術式の細部を変更する。
神結晶を使用し、転移門先へどうやって交信させるかを考える。
空間と空間を繋げる転移門の力を利用して、通信が断絶されないような仕組みを作り上げる。
「だいたいこんな感じかな」
後は実地試験をしつつ、解析していくしかないだろう。
まずは実際に神結晶に新たに考案した術式を組み込む、三つの類型の計器を作る事にした。どれが効果を示すかを確認する実験用の機材。
俺は思い立つと鍛冶屋に行き、神結晶に術式を組み込む作業に移った。
一旦作業に入ると、すぐに神結晶に送受信の力を組み込む事ができた。
こうした作業は慣れたもので、転移門を越えた先でも繋がるかどうかを確認する、単純な計測器も拵えた。
それを持って管理局の技術棟に向かった。
転移門を自由に行き来する訳にはいかないので、管理局員と共に実験に当たろうと考えたのだ。
「いいですよ」
メリッサは簡単に許可してくれた。
「結果を教えてくださいね」
「もちろん」
俺は職員を一人連れて転移門のある広場に向かう。
実験を手伝ってくれる職員は、監視飛翔体を小型化したり、通信技術に関する技術について研究している部署の職員で、転移門先に繋がる方法については考えていたが、まだ研究着手にまでは至っていなかったらしい。
「今回の実験、期待しています」
「うまくいくといいな」
俺は職員の期待をやんわりと回避し、さっそく転移門の前で道具を取り出す。
「では送信機を持って転移門を潜ってくれるか」
「はい」
「こちらで受信機と計測器を観察しているから」
「はい」
「三つの送信機を──そう、この回転つまみをゆっくり右に回してくれるか。一型から三型まで順番に」
「わかりました」
職員が送信機を起動させて転移門を潜って行く。
こうしていくつかの転移門で実験を行った。
一つの転移門だけでは気づかないような問題が起こるかもしれないからだ。
そして今回の実験は概ね成功だった。
二つの送信機が反応し、安定したのだ。
その二つから得た情報を解析し、さらに精度の高い物を試作する。
送信機と受信機で二つの神結晶を使う事になるが、これで転移門先の映像をフォロスハート側で確認し、通信しながらの冒険に行けるようになるのだ。
拠点から冒険の様子を見られるとなれば、きっと色々なものが変化するはず。
冒険から引退した元冒険者が指示を出し、若い冒険者の支援をし、素材の採取場所を教える事も可能になる。
旅団の規模やフォロスハートに対する貢献度みたいなものにもよるだろうが、もしこれが旅団に配置されれば、また違った展開が期待できるだろう。
特に管理局の職員などに、転移門先での冒険者達の活動を確認させる為に使用する、といった使い方も考えられる。
新たな発明で広がる世界。
人による道具の進化……
あまりに行き過ぎた発展は、破滅に直結する──古代のこの世界も、同様の結果に終わったらしい──。そうした事も胸に留め、今回の実験結果をメリッサに報告するよう職員に伝え、精度を上げ、映像と音声を送受信する試作機を作る事を約束した。




