フレジアとの戦闘訓練
フレジアと初めて闘うオーディス。
だが彼には少女の温和な面の印象が強く……
頭を下げたフレジアが頭を上げると、その表情にはおどおどしていた彼女の顔はなかった。
広げた手に手斧型の棍棒を構え、横に回り込むような動きをした後、いきなり間合いを詰めて来る。
俺は木剣を彼女の前に突き出し、突進を食い止めようとしたが、フレジアは手斧で木剣を払いつつ、前に踏み込んで来たのだ。
「びゅうんっ」
と、唸りを上げる棍棒。
容赦のない側頭部を狙っての一撃。
「ちょっ……!」
咄嗟に足を引いて下がったが──失敗だった。
彼女はさらに逆の足を前に押し進め、両手の得物で襲い掛かって来る。
こちらも本気で応戦するしかなかった。
右足を上げて彼女の左腕を止めて、木剣で右腕の手斧を防ぐ。
腕力ではこちらの方が上だ。
片足立ちの不安定な体勢だが、なんとか少女の攻撃を防ぐと、彼女は俺の反撃を読んで後方へ下がる。
俺は彼女が居た場所に向かって軽く木剣を振り下ろした。
下がらなければそうやって反撃をしていた、という意味だ。
だが彼女は笑いもしなければ無表情のまま、また横に移動を始める。
(やれやれ、これはまずいぞ)
彼女の強さは本物だ。
──それもそうか、俺は自分の認識を改めた。
フレジアの普段の姿があまりにも温和しく、か弱いので忘れていたが、彼女は上級難度の転移門にも冒険に出られるほどの冒険者なのだ。
しかもメイとの戦闘訓練に付き合えるほどの……
フレジアとの闘いで分かった事は、攻撃の速度と攻撃の回避が優れているというところだ。
特に相手の攻撃を予測して回避動作に移る速度は、他の誰にも引けを取らないだろう。
彼女は手斧で攻撃を防ぐ事はしない。
相手の攻撃してきた腕に手斧での一撃を食らわせたりしてくるのだ。──何度それで冷や汗を掻かされたか。
まるでメイと無手(格闘)で闘っている時のように、一瞬も気が抜けない。
間合いに入られたら連続攻撃が飛んでくる。
そして数分が経った頃。
フレジアがこちらの反撃を躱してしゃがみ、両手の武器で俺を挟み込むみたいに、弧を描く攻撃で仕止めに掛かったのだ。
「‼」
こちらも前に踏み込むと、低くなった彼女の肩に手を乗せて、少女を飛び越えるようにして背後に回り込んだ。
足が空中で弧を描き、くるりと少女の上で体をひねる。
木剣の柄頭にあたる部分で少女の後頭部を軽く叩きつつ、地面に着地する──
──はずだったが。義足から着地してしまい、半身の状態で地面に降り立ったので、右足がずるっと地面を滑って、股裂きのような格好になってしまう。
「ぉゥっ」
俺はオットセイの鳴き声に似た間抜けな声を上げ──悶絶した。
ごろんと背中から転がり、地面に倒れ込んだまま立ち上がれない。
「だ、だいじょうぶ……?」
フレジアは戦闘形態を解き、心配そうに見下ろしてくる。
周囲からは声を殺しているが、確かに笑い声が聞こえてきた。
「だれだぁッ……! 笑っている奴は──」
俺の恨めしげな声を聞いて外野連中がそれぞれの訓練に戻って行く。
「だんちょ──、ダサ──い」
メイが近づいて来て、容赦のない言葉を吐き掛ける。死者に鞭打つような真似はやめろ、そう言いたかったが、股と太股の筋肉が悲鳴を上げており、それどころではなかった。
「ぅぐぐぐぐ……」
危うく攣りかけたが、なんとか一歩手前で助かった俺は、土埃を落としながら立ち上がる。──惨めに股間を押さえながら……
「いやいや……フレジアの強さは大したもんだ」
「で、わたしとフレジア、どっちが強かった?」
「ぁ────そうだな……。それは難しい質問だな。どちらもそれぞれ優位点があるし、似たような部分もあるし。
メイは一撃の重さと反撃の巧さで勝り、フレジアは回避能力と手数の多さで勝っている感じかな」
股裂きの痛みを堪えながら、俺はそう分析した。
「団長さん強いですね。──もう冒険には出ていないと聞いてましたが」
フレジアは後頭部を撫でながら言う。
少女にとって、頭の上を飛び越されたのは初めての経験だったのだろう。かなり驚いているようだった。
「そりゃ……素材集めくらいは出るけどな。まあ今でも戦えない事はないが。足を失った時に、後は若手に任せようと思ったんだよ」
その答えはフレジアには疑問に思われたらしい。
「けど、団長さんは強いです。この前の戦争でも、他の旅団の人が言っていました。『あんなに強力な斬破は見た事がない』って。
きっとお姉ちゃんともいい勝負になると思う」
「はは……どうかなぁ、たぶん今度やったらフレジアにも負けると思うぞ。さっきのはたまたまだ」
俺はそれ以上訓練を続けられる状態じゃなくなってしまったので、宿舎に戻る事にしたのである。




