ナンティルの謝罪
飛び跳ねたナンティルがこちらを振り向く。
その顔つきは少し痩せているように見えた。──ほぼほぼ猫の顔なので、判断がつき難い──
「よっ」
と、軽く手を上げて挨拶すると、ナンティルはその場に膝を突き、地面に頭を擦り付けんばかりの、見事な土下座をした。
「おいおい、どうした。やめろ」
「すまなかったニャ!」
彼女は土下座を決めたまま、大声でそう言った。
猫耳の所為か、猫の「土下寝」を思い出す。
「彼女は、あなたを傷つけた事を悔いていますニャ」
横に立っている神官見習いらしい少女が言った。
「すまなかったニャ!」
同じ謝罪をまた口にするナンティル。
「分かった、分かったから。まずは頭を上げろ」
そう言うと彼女は恐る恐る顔を上げ、怯えた様な、申し訳なさそうな顔をしてこちらを見上げる。
「いいか。別に俺は怒っちゃいないし、お前が悪いとも思っていない。あれは女神の力の暴走だった事を俺は理解している。──お前が悪い訳じゃないさ」
そう声を掛けるとナンティルは立ち上がり、「うっ、うっ」としゃくり上げ始めた。
涙がぽろぽろと零れ落ちるのを見て、俺は苦笑いを浮かべ「メソメソすんな」とだけ言い、彼女の頭を撫でてやる。
しばらくすると彼女は落ち着いてきたらしく、泣き止んだ。
こんな弱々しいナンティルを見るのは初めてで、俺はなんと言ってやればいいかと思いつつ、二人の神官見習い達に助けを求めて視線を送った。
──だが、そんな視線を彼女らは介せないらしく、小首を傾げている。
(さすが自分本意な猫獣人族。もう少し気を回して欲しいものだ)
俺は落胆して溜め息を吐く。
「それで、今日は何をしに? アーカムの神官見習いまで付き添って」
「見習い……?」
まだ幼さの残る猫獣人の少女が眉を顰める。
「私達はこう見えても、女神アヴロラ様に仕えている神官ですニャ」
失敬な、と口にしそうな感じで言うが、あまり威厳は感じられない。──語尾の所為かもしれないが。
「そうか、それは悪かった」
「女神アヴロラ様は、あなたの体調を気にされていますニャ」
「できれば一度、アーカムに顔を見せに来て欲しい、との事ですニャ」
双子らしき猫獣人の神官はそう言うと、懐から書状を取り出し、その内容を読み上げる。
「オーディスワイア。あなたが意識を取り戻したと聞いて安心しました。しかし、その後の経過が心配です。お暇になったらでよいので、アーカムまで来て、私に顔を見せてください。──以上ですニャ」
「なるほど、了解した。こちらも女神には礼をしたいと思っていた」
そう返答すると、少女達は満足したようで、メソメソしているナンティルの肩を掴んで「帰りますニャ」と一方的に言い、彼女を離れた場所に停まっている馬車の方へ連れて行く。
「やれやれ」
慌ただしい事だ。
窶れたナンティルの姿は痛々しいくらいで、暴走したとはいえ、彼女の手によって俺が倒れ、長い時間眠ったままになっていた期間。その間もずっと自分を責めていたに違いない。
快活なナンティルがあそこまで弱々しい姿を見せるので、なんだかこちらが悪い気がしてしまうほどだった。
「かわいそうな事をした」
できればすぐに目覚め、自分の無事を伝えられていれば……そんな風に思う。
混沌の力は、なぜ俺の中に留まって、俺を目覚めさせなかったのだろう? 不意にそんな事が気になりだした。
「また混沌の研究を再開してみるか」
そう考えたが、まずは訓練をする事にし、宿舎の中へと入って行った。
女神アヴロラに仕える神官なら「ニャ」を発しないよう気をつけているはず。この二人の神官少女はパールラクーンを離れて気が緩んでいるのかも。




