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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第十章 愛する者のために

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手紙

フォロスハートには「郵便局」という言葉は無く、「運搬課」といったような管理局の部署があると想像。

民間と管理局の取り纏め役のような適当な部署かと。手紙だけでなく小包などの荷物を配達すると同時に、道路など整備もおこなってます。

 気づくと寝台ベッドの上で目が覚めた。

 昨晩は机に向かい、新たな義足の設計図を考え出すのに夢中になっていたのだ。

 ある程度の青写真が完成したので寝台に横になったのだろう。──記憶がなかったが。


 俺の胸の上で寝ていたらしいライムが起きていて、ふにふにと前足で胸を押している。早く起きてドアを開けろと言っているのだろうか。

「はいはい、まったく……」

 ふわぁ、と欠伸あくびをしながら修理した義足を履き、立ち上がってドアを開けてやった。

 ライムはするりと隙間から出て行き、階段の方へ向かって行く。



 朝のルーティーンをこなし、神への祈りを済ませると、そのまま早朝訓練に入る。

 あくまで柔軟体操のようなもので、軽い運動にとどめる。──いきなり激しい運動をしてはならない。これは年齢的にもそうだが、運動とはそれなりの準備をしてからこなす方が安心なのだ。

 訓練の終わりには剣気の技を使い、試し斬りのように空気を薙ぎ払う。

 いつでも戦う感覚を忘れないようにと、心にも肉体にも刻みつけるつもりで。




 そうした訓練をしてから朝食に向かった。

 食後の簡単な朝礼で、今日はレーチェも冒険に出るらしく、数人が彼女のお供として上級難度の転移門に向かうと名乗り出た。

「気をつけて行けよ」

 俺がそう声を掛けるとレーチェは、あっさりとその言葉を受け流し、冒険の準備をしに行ってしまう。


 冒険に出る者。訓練を行う者。

 それぞれの目的に向かって行動を始める。

 俺はまず鍛冶屋に行き、徒弟達と日常会話をしてから宿舎の方に戻った。

 さあ訓練を始めるぞ、そんな意気込みを持って木剣を手にした時、誰かが宿舎にやって来た。

 門のそばに居た俺が出ると、そこには手紙を配達する係員が居て、手紙を俺に手渡す。──こうして俺の手の中には四通の手紙が残された。

 一つはウリスの、一つはリトキスの、一つはエウラの、そしてもう一つは俺宛ての手紙だった。


「お? 誰からだ……?」

 宛名を探すとそこには、小獣人エルニスのミリスリアの名前が書かれていた。

 手紙を手にして宿舎に入ると、下駄箱の上に置かれた箱に手紙を入れ、黒板にそれぞれの手紙を受け取る相手に名前を記しておく。


「さてさて……ミリスリアからの手紙は──」

 部屋で読もうと廊下を歩いていると、向こうからエウラがやって来た。

「お、ちょうどいい。手紙が届いたぞ」

「え、──そうですか……」

 一瞬、表情が固くなったエウラ。

 気の所為せいかもしれないが、いつもの彼女らしくない。


「何か気になる事でも?」

「──そうですね、その……今度、お話する事があるかもしれません」

 などと言って、玄関の方に歩き去って行く。

 まるで、仕事の辞め時を探っている社員の様な……


「はっ、まさか」

 何か理由があって旅団を抜けたいとか言い出す流れか?

 彼女ほどの剣士に抜けられるのは痛手だが、俺は個人の意志を尊重する類型タイプだ。──理由が納得できるものなら、俺は彼女が旅団を去る選択をしても止めはしない。

 ……もちろん言葉の上では引き留めるだろうが、相手の意志が固いものなら、止めても無駄だと知っている。

「それにしても、うちを辞めてどこへ行くというのか」

 引き抜きが一番ありそうな線だが、彼女がどこかの旅団から声を掛けられているとは聞いた事がない。

 いや、そもそも旅団を辞める辞めないの話ではないのかもしれない。──俺は考えるのを止めた。




 自室に戻るとさっそく手紙の封を切り、内容を確認する。

 その内容は長い眠りから目覚めた俺の健康を心配する言葉。そして改めて撃火魔砲ヴァルガーラントコアを造ってくれた礼と、戦場での功績をたたえる言葉が書かれていた。

 小獣人の国(シュナフ・エディン)を代表する女王メルゼヴィアからのお礼の言葉が書かれ、いつでもラクシャリオまで来てくれて構わない、といった事も書かれていた。

 手紙の最後の余白に、小さな桃色の唇の跡(キスマーク)が残されていた──


「峰不二子もびっくりだな」

 その色っぽい演出に苦笑しながら手紙を閉じる。

 椅子に腰掛けると机の引き出しに手紙をしまう。

 代わりに紙と鉛筆を手にすると、さっそく手紙の返事をしたためた。


 手紙を書き終えると、新しい義足の設計図を作る事にする。

 足を横に開いた時に、足の裏にあたる部分が地面に接するよう自動で動く機構を作るには、錬金術と魔法理論の応用が必要だ。──もちろん物理法則を主軸にしたもので──

 板バネ部分と、膝と太股に接合する部分の構造を変え、板バネが可動するように設計する。

 板バネと足を押さえ込む革製の覆い(カバー)との間に、可動しつつ、体重を支えられるような装置を作るのだ。


 ここは金属を使い、耐久性と可動性を高める。

 何より金属は錬金加工しやすいので、今回の問題への対応が簡単に行えるはずだ。

「さて、問題は術式だが……」

 新しい試みだ。何度も思考実験の中で関節部分の挙動を考え、それに対応する術式──主に運動性に関係する細かな指示出し──を組み込む作業。

 机の前で俺はその作業に没頭した。



 関節となる部分は円形の重りを使い、それが足の開きによって傾くと、術式が反応して、足の向きを自動で調整し、滑り止め付きの足裏が地面に接地するようにする。



「たぶんこれでいけるはずだ」

 その術式を完成させるまで、相当の集中を続けていたのだろう。

 急に頭がぼんやりとし、圧倒的な虚脱感に襲われた。


(あ────、やべぇ)


 精神虚脱まではいかないが、かなりの精神力と魔力を消耗してしまった。

 術式の計算に使う思考実験は、魔法の使用と変わらない厳密な精神世界での取り組みなのだ。

 ふらつく体を支える気持ちでよろよろと立ち上がり、棚の前まで来ると、そこにある薬瓶を手に取り、中身を飲み干す。

 魔力を回復させ一息つくと、椅子に腰掛けて紙に書いた義足の形や術式などを確認する。

 そうしていると誰かがドアを叩いた。


「夕食ですよ」

 もうそんなに時間が経ってしまっていたのか。

 俺は驚きながら「すぐ行く」と返事をした。

 そう言えば腹が減っている。

 俺は椅子から立ち上がると、食堂へ向かった。

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