義足を壊した犯人
義足を壊した犯人が居る⁉
実は……という展開。
自室に戻ると、寝台の側に置いた軽硬合金の義足を調べる事にした。
「どこが破損したんだ?」
金属の足首部分が沈み込み、膝を押さえ込む革製の覆い部分は問題がなさそうだ。
長靴状の金属部分を調べる為、義足の中を発光結晶の指輪で照らして覗いて見る。
すると中にある足と足首部分を支える、革製の紐などが切れているのを見つけた。
ゴムもよれよれになっている。
「ん────? なんだ、これ……」
革紐を調べていると、指に何かが付いた。
義足の奥にあった物を取り出してみると、それは細い糸の様な物だった。
「あん? これは……」
青みのある白い糸……いや、これは毛だ。
「子猫達だな、犯人は」
革紐を取り外して調べると、革紐が千切れているのを発見した。そこには明らかに齧られた跡があった。
「んにゃろぅ……俺の義足で遊んでやがったな」
義足の中に入って遊んでいる子猫達の姿が思い浮かぶ。
まあ、この金属の義足を止めて、戦闘用義足のような新たな板バネを作るつもりだったから、これもいい機会だと考える事にした。
「猫は狭い場所がほんと好きだな」
猫か……
ふと、猫の肉球を思い出す。
猫はほとんど横に移動したりはしないが、あの足で機敏な動きをする。もしかすると、猫科の獣の足から、新たな義足を作る示唆が得られるかもしれない。そんな風に考え、部屋を出て階段の方に向かう。
階段横の空間にはライムや三匹の子猫が揃っていた。
子猫は俺の顔を見ると近寄って来て、にゃぁにゃぁと鳴き声を上げる。
「おまえかぁ? 俺の義足を壊したのは」
青毛の混じった白猫を抱き上げると「ゥニャァ~」と、まるで「自分じゃない」と言ったみたいな鳴き声を出す。
二匹の子猫は俺の右足がいつもと違うというので、警戒しながら匂いを嗅ぎに来る。
「板バネは齧るなよ」
ぺしぺしと子猫の頭を指先で叩いてやる。
そうした後で抱えた子猫のあしを触って、肉球や指の感じなどを確認する。
「そうか、指や肉球で地面をしっかりと掴めれば……。足の向きを外側に向けられたら、足を横に広げた時にも対応できるかな」
「ぃニャァ~~」
足をにぎにぎされているのが嫌だったのか、子猫が不満を滲ませた鳴き声で訴える。
「ああ、悪い悪い」
青毛の子猫を放してやると、二匹の兄妹の所に逃げ込んで行く。
「何をしてるんですか」
階段から降りて来たエウラに咎められる。
「いやぁ、新しい義足を作る着想を得ようと思って。動物の足の構造を取り入れた義足なら、普段使いでも戦闘でも、両方に対応した物が作れるかもしれないからな」
そう弁明すると彼女は「もう夕食の時間ですよ」と言い残し、廊下を歩いて行く。──そのエウラを追い掛けて行く子猫達。
食事を用意してくれると思っているのだろう。
すると寝床からゆっくりした動きで起き出したライムが、俺の足にすり寄って来た。
「おう、お前も夕飯か」
「ニャァ」
欠伸まじりに母猫は返事をし、身体を伸ばして廊下を歩く。
板バネが床を踏む硬い音を立てながら食堂に向かった。
夕飯を口にしながら新しい義足について考えていた為、何を口にしたか覚えていない。
レーチェの妹が実家から持って来たという食材を使った、と言っていた気がする。
……そうだ、蜂蜜漬けの牛肉を使った料理だった。肉は軟らかく、独特の甘い風味がある味付けになっていた。
果物を使った液状調味料とよく合った味付けだ。
「だんちょ──」
と夕餉について思い出そうとしていると、メイが声を掛けてきた。
「ぉう? なんだ」
「団長。今度わたしと訓練しよう」
「ぇえ……」
俺は顔には出さなかったが、嫌そうに返してしまった。
正直この少女との訓練は怖い。
加減をしてくれない事がままあるからだ。
「ぎ、義足を修理したいから、また今度な……」
そう言ってなんとか辞退しようと試みる。
すると少女はへの字口になって不満を露わにする。
「なんで嫌そうなの」
「メイは手加減を知らないからだよ」
「ええ~、平気だよ。手加減してるもん」
「その加減がなってないんだよ。寸止めしろ、寸止めを」
小柄な彼女に接近され、フックをもろに脇腹に喰らった事がある。──踏み込んでの一撃で、内臓の位置が変わってしまったかと思えたほどだ。
それ以外にも何度も、メイには痛い思いをさせられてきた。
「新入り相手にそんな訓練をしていたら、先輩冒険者として嫌われるぞ」
「だから~加減してるってば。団長は……頑丈だから平気でしょ?」
「んな訳あるか! めちゃくちゃ痛いんだぞ!」
俺はそう叫んで立ち上がると、食堂から逃げるようにして自室に戻って行く。
「あ、逃げたぁ!」
そう嘆くメイの声を背中に受けながら。
部屋のドアを開けると、足の間をさっと白い物が駆け抜けた。──ライムだった。
「脅かすな。危ないだろ、足下でちょろちょろと」
「ニャゥ──」
寝台に跳び乗ったライムが不満げな声で鳴き、その場で横になる。
もう子猫に乳を与える必要もなくなり、子育てから解放されたライムは、だらしなく白いシーツの上に寝転がって欠伸をしている。
「お前の子供に義足を壊されたんだぞ」
そう文句を言うと、白い母猫は「なんの事だ」と言わんばかりにこちらを見て、尻尾でぺしぺしとシーツを叩き、また欠伸をした。
義足の部品は作り置きがあるので、それを使ってさっと修理する。
そうしながらこの普段使い用の義足も、横に足を広げた時に、足が地面を噛むように作れないかと思案する。──要は太股が傾いた時に、地面に接する足の裏が、地面に平行になるような動きをすればいいのだが。
足先の部分が太股との位置関係で、自動的に可動する仕組みについて考え、最も単純で、錬金術の応用で作れそうな物を考えた。




