エウシュマージアの精神形態
一頻り四大神と会話し、無事を祝われた俺。
風の神ラホルスと地の神ウル=オギトが去って行ったが、火の神ミーナヴァルズと水の神アリエイラだけは残っていた。
「ど、どうしました?」
一向にしがみついた腕を放そうとしない二柱の神。
女神達は無言で睨み合い、目には見えない火花を散らす。
「のぅ、オーディスワイアよ。身体が癒えたら、すぐにフレイマまで来るのじゃぞ? 我が歓待してやるからの?」
ミーナヴァルズがそう言えば。
「いいえ、オーディスワイアはウンディードにすぐ来るべきです。水の都には、あなたの身体を癒す力に溢れているのですから」
こういった具合で、彼女らは帰ろうとしない。
困り果てた俺だったが次第に眠気が襲ってきた。──この領域に留まる限界が近づいてきたらしい。
遠くから、誰かが俺を呼ぶ声がする。
ミーナヴァルズでもアリエイラでもない。
まるで座り込んでいた地面に沈み込むみたいな感覚で、俺は再び眠りの帳を越えて行く。
* * * * *
しかし次の瞬間には、眠気だと感じていた意識の靄が晴れ、自分がまだ精神世界に居るのだと気づく。
「あれれ……いったい、どうなってるんだ?」
周囲を見回すと、草原の真ん中にある丘の上に居た。
平地には大きな岩や木々。遠くに青々とした海が見える。
空の色は水色と濃い青色の濃淡のある綺麗な空。
よく晴れた空には白い雲だけが浮かんでいる。
丘の上で座り込んでいた俺の背後から、誰かが近づいて来る足音がして振り返った。
そこには丘を上って来る女性が居た。
透き通っているかのような白い肌と、銀色の長い髪。
その瞳は日の光を受けて金色に輝いていた。
線の細い体を覆う、純白の礼装を身に纏い、足は素足だった。
「ひさしぶり」
俺の側に来た女が言った。
「誰?」
俺は真顔で聞いてしまった。
すると彼女は「ふふ」と小さく笑う。
「まあ分からないでしょう。この神性の時は女神の姿であるので」
そう言った時に、一筋の雲が日の光を遮った。
美しい女性の顔に雲の影が重なり、その金色の目がはっきりと見えた。
それは──蛇の眼の様だった。
「ぅおっ……まさか、エウシュマージア様ですか」
そう言うと、彼女は驚いた様子を見せる。
「ええっ⁉ よく分かりましたね。この姿、この喋り方で会うのは初めてだと思いますが」
「その眼球ですよ」
そう言って自分の目を指差すと、地の化身エウシュマージアは首を傾げる。
「蛇の眼みたいになってますよ」
「ああ、なるほど……これでどうでしょう?」
すると金色の眼球に入っていた縦に伸びた黒い筋が消え、青色と緑色の色違いの瞳に変化する。
「元々は女神だったんですか」
「蛇の姿でもあり、女性型でもあり……。神性には性別などは特にありませんので」
彼女は少し陽気に言う。
俺は「なるほど」と納得し、お久し振りですと応えながら立ち上がった。
「ええ、おひさしぶりね。──体の具合はもう?」
大丈夫なのか? という意味だろう。俺は「ええ、大丈夫です」と返答した。
「それならよかった」
彼女はそう言いながら、美しい銀色の髪を手で払う。
その時に金色の腕輪が白い長袖の下からちらりと見えた。
あの蛇の姿だった地の化身がこのような姿になったのも、神としての力を取り戻した証なのだろう。
腕に付けた金の腕輪も、そしてこの精神世界の様子も、エウシュマージアが力を取り戻した事による大きな変化なのだと感じた。
「『春迎祭儀』でオーディスワイアの造った象徴武具を使い、多くの力を取り戻せたので、海に囲まれた小さな孤島に過ぎなかった場所も、今では大きな大地へと生まれ変わりました」
俺は大きく頷いた。
まさか女神として現れるとは思っていなかったが、考えてみれば、蛇の象徴するものは女性的なものに属するし、心理学的にはなんの違和感もないものだった。
蛇は錬金術では地の原理の象徴であるし、大地は母胎を意味する地下を備えた、正に母なる大地といった、生命の誕生と成長を司る力の根源そのものなのだから。
蛇の象徴には男性的なものもありますけどね。
蛇の象徴って特異な部分が多い印象。正反対の意味が多かったりするので。




