復帰祝い
宿舎に戻る頃には空は暗くなっていた。
焔日が大地の陰に入り、その力を弱めようとする時刻。
その明かりが沈みゆくのを見ながら、ふと火の女神の姿を思い出す。
彼女にも手紙を送ったが、もし今度会ったなら、彼女から叱責を受けるのを覚悟しなければならない。そう考えた。
俺が事実死亡し、フォロスハート以外の神の力で復活した事を、良しとはしまい。
「あの方の悋気はちょっと、異質な仕方で発生しそうだからな」
そうでありながら、たまに放任主義になったりもする。──分からない……女神の心は。
宿舎に戻ると、玄関を開けたところでばったりとユナとメイに出くわした。
「ただいま」
「おかえりなさい。いまちょうど呼びに行こうとしていたところです」
夕食の準備ができました。彼女はそう言う。
「はやく、はやく」
メイが急かす。
二人の態度に不審なものを感じながら、俺は素直に彼女らの後をついて行く。
よたよたと二人の後ろから歩いていると、食堂の方から皆の声が聞こえてきた。
食堂の席には大勢の仲間達の姿。
リゼミラやアディーディンク。そして二人の子供達の姿まである。
「なんだなんだ、えらく集まってるな」
新人らしい初めて見る顔ぶれもある。
すでに席に着いているレーチェが声を掛けてきた。
「今日はあなたの全快祝いですわ」
「全快……とは言えないかもしれないが」
俺はふらつく足を引きずって席に着くと、硝子杯に水を注いでもらい、それを呷った。
久し振りの鍛冶作業で喉が渇いていた。──炉の前に立たず横に居たのだが、それでもかなりの暑さだ。汗を掻いたので風呂に入りたい気分でもある。
「さあさあ、好きな料理をよそって差し上げますわ」
レーチェはそう言うが、あまり食欲がない。
「あ、ああ……」
確かにテーブルには豪勢な食事が並べられていた。
魚介類は大きな海老に魚、貝を蒸し焼きにしたものなど。
鶏肉の天火焼きや、牛肉の煮込み料理など、多種多様な料理が大皿に載せられている。
「後で林檎パイも出ますわよ」
そう言ったとき厨房からリーファが来て、テーブルの上に大きな丸い林檎パイを二皿運んで来た。──切り分けられたパイの隙間から、甘酸っぱい匂いが広がっている。
メイが目を輝かせていた。
その甘い匂いは食欲をそそったが、あまり多くを食べられそうにない。
「じゃあ、鶏肉を……」
俺は控え目に言い、レーチェは皮のついた鶏胸肉を皿に切り分ける。
「どうぞ」
「ありがとう」
周囲に居る仲間達にも食べるよう声を掛け、俺は進みの悪いナイフとフォークで、鶏肉を細かく切って口へと運んだ。
美味しいのだが、あまり物を飲み込むような気分にならない。胃が縮んだ所為かもしれないな──そんな風に考え、ゆっくりゆっくりと咀嚼して飲み込む。
その様子を見ていたレーチェもさすがに心配になったらしく、無理に食べなくてもいいと言ってくれた。
「ああ……なんか、あまり食欲が湧かなくてな。さっき食べた物がまだ消化されてないみたいだ」
俺の事は気にせず食べてくれ、そう言って俺は少し間を空けた後で、いち早く林檎パイに手を伸ばす。
それはすっきりとした酸味と甘味があり、林檎の風味がしっかりと感じられる林檎パイだった。
野菜や肉料理よりも食べやすく感じ、俺はそれをすぐに平らげてしまう。
「そういえば、アウシェーヴィアにキャスティも見舞いに来てくれたのか」
「ああ、そうでした。言い忘れていましたわ」
レーチェは悪びれもせずに言う。
「何しろあの魔法薬でも目が覚めなかったものですから、キャスティさんはひどく落胆されていましたわ」
「そうか……って、あいつら、今はどこに住んでいるんだ?」
「それは……しばらくはパールラクーンでの冒険に行くとかで、すぐに出て行ってしまったものですから」
連絡先は分からないという事か。
それぞれがある程度料理を胃に収めると、代表してカムイが俺の復帰を祝う乾杯の音頭を取った。
しばらく見ない間に、一丁前の旅団員へと成長したものだ。
武闘大会で準優勝になった事が自信になったのだろう。──今後も頼もしい仲間として、若い旅団員の模範として気張ってほしい。
乾杯の後にメイやユナも、果実水の入った硝子杯を掲げて喜びの声をあげる。
新人達も一人一人挨拶し、俺は彼らを迎え入れた。
こんなにも俺の復帰を喜んでくれる仲間が居るという事実に、こちらも喜びが込み上げてくる。──涙は出ないが、思わず微笑んでしまう。
「けどほんと、あの瞬間はまいったよ」
そう言い出したのはリゼミラだ。
「せっかく混沌を倒したってのに、まさか味方に突き殺されそうになるなんて」
「殺されそうに」とリゼミラは言った。
そうか──細かな部分は説明していないのだ。女神の力で蘇った事実など、ナンティル達は、副団長であるレーチェにしか知らせなかったのだろう。
俺は曖昧に「心配させたな」と返事をして、この場をやり過ごした。
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