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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第十章 愛する者のために

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復帰祝い

 宿舎に戻る頃には空は暗くなっていた。

 焔日ほむらびが大地の陰に入り、その力を弱めようとする時刻。

 その明かりが沈みゆくのを見ながら、ふと火の女神の姿を思い出す。

 彼女にも手紙を送ったが、もし今度会ったなら、彼女から叱責しっせきを受けるのを覚悟しなければならない。そう考えた。

 俺が事実死亡し、フォロスハート以外の神の力で復活した事を、良しとはしまい。


「あの方の悋気りんきはちょっと、異質な仕方で発生しそうだからな」

 そうでありながら、たまに放任主義になったりもする。──分からない……女神の心(女心)は。

 宿舎に戻ると、玄関を開けたところでばったりとユナとメイに出くわした。


「ただいま」

「おかえりなさい。いまちょうど呼びに行こうとしていたところです」

 夕食の準備ができました。彼女はそう言う。

「はやく、はやく」

 メイが急かす。

 二人の態度に不審なものを感じながら、俺は素直に彼女らの後をついて行く。

 よたよたと二人の後ろから歩いていると、食堂の方から皆の声が聞こえてきた。



 食堂の席には大勢の仲間達の姿。

 リゼミラやアディーディンク。そして二人の子供達の姿まである。

「なんだなんだ、えらく集まってるな」

 新人らしい初めて見る顔ぶれもある。

 すでに席に着いているレーチェが声を掛けてきた。

「今日はあなたの全快祝いですわ」

「全快……とは言えないかもしれないが」

 俺はふらつく足を引きずって席に着くと、硝子ガラス杯に水を注いでもらい、それをあおった。


 久し振りの鍛冶作業で喉が渇いていた。──炉の前に立たず横に居たのだが、それでもかなりの暑さだ。汗を掻いたので風呂に入りたい気分でもある。


「さあさあ、好きな料理をよそって差し上げますわ」

 レーチェはそう言うが、あまり食欲がない。

「あ、ああ……」

 確かにテーブルには豪勢な食事が並べられていた。

 魚介類は大きな海老に魚、貝を蒸し焼きにしたものなど。

 鶏肉の天火オーブン焼きや、牛肉の煮込み料理など、多種多様な料理が大皿に載せられている。


「後で林檎リンゴパイも出ますわよ」

 そう言ったとき厨房からリーファが来て、テーブルの上に大きな丸い林檎パイを二皿運んで来た。──切り分けられたパイの隙間から、甘酸っぱい匂いが広がっている。

 メイが目を輝かせていた。

 その甘い匂いは食欲をそそったが、あまり多くを食べられそうにない。


「じゃあ、鶏肉を……」

 俺は控え目に言い、レーチェは皮のついた鶏胸肉を皿に切り分ける。

「どうぞ」

「ありがとう」

 周囲に居る仲間達にも食べるよう声を掛け、俺は進みの悪いナイフとフォークで、鶏肉を細かく切って口へと運んだ。

 美味しいのだが、あまり物を飲み込むような気分にならない。胃が縮んだ所為せいかもしれないな──そんな風に考え、ゆっくりゆっくりと咀嚼そしゃくして飲み込む。


 その様子を見ていたレーチェもさすがに心配になったらしく、無理に食べなくてもいいと言ってくれた。

「ああ……なんか、あまり食欲が湧かなくてな。さっき食べた物がまだ消化されてないみたいだ」

 俺の事は気にせず食べてくれ、そう言って俺は少し間を空けた後で、いち早く林檎パイに手を伸ばす。

 それはすっきりとした酸味と甘味があり、林檎の風味がしっかりと感じられる林檎パイだった。

 野菜や肉料理よりも食べやすく感じ、俺はそれをすぐに平らげてしまう。


「そういえば、アウシェーヴィアにキャスティも見舞いに来てくれたのか」

「ああ、そうでした。言い忘れていましたわ」

 レーチェは悪びれもせずに言う。

「何しろあの魔法薬でも目が覚めなかったものですから、キャスティさんはひどく落胆されていましたわ」

「そうか……って、あいつら、今はどこに住んでいるんだ?」

「それは……しばらくはパールラクーンでの冒険に行くとかで、すぐに出て行ってしまったものですから」

 連絡先は分からないという事か。



 それぞれがある程度料理を胃に収めると、代表してカムイが俺の復帰を祝う乾杯の音頭を取った。

 しばらく見ない間に、一丁前の旅団員へと成長したものだ。

 武闘大会で準優勝になった事が自信になったのだろう。──今後も頼もしい仲間として、若い旅団員の模範もはんとして気張ってほしい。


 乾杯の後にメイやユナも、果実水の入った硝子杯を掲げて喜びの声をあげる。

 新人達も一人一人挨拶し、俺は彼らを迎え入れた。

 こんなにも俺の復帰を喜んでくれる仲間が居るという事実に、こちらも喜びが込み上げてくる。──涙は出ないが、思わず微笑ほほえんでしまう。


「けどほんと、あの瞬間はまいったよ」

 そう言い出したのはリゼミラだ。

「せっかく混沌こんとんを倒したってのに、まさか味方に()()()()()()()()なるなんて」

「殺されそうに」とリゼミラは言った。

 そうか──細かな部分は説明していないのだ。女神の力でよみがえった事実など、ナンティル達は、副団長であるレーチェにしか知らせなかったのだろう。


 俺は曖昧あいまいに「心配させたな」と返事をして、この場をやり過ごした。

外伝の方も目を通していただけると嬉しいです。


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