手紙と見舞い
執務室を出ると、多くの仲間達が庭で訓練をしたり、子猫の世話を焼いたり、今後の冒険の予定を話し合ったりしていた。
俺は彼らと会う度に「目が覚めて良かった」と言われたり、調子はどうですかと心配されたりしながら部屋に戻る。
部屋の机には手紙が何通か置かれていたので、それに目を通す事にした。
エウシュマージアからの感謝状に目を通すと、象徴武具を使っての儀式で力を取り戻せた報告と感謝が綴られ、それにより新たな転移門を「西海の大地」に開いた事も書かれていた。
さらに興味深かったのは、大地の化身としての力を持つエウシュマージアは、他の大地に眠る神々やその力に感応し、上手くいけば転移門先にある大地に眠る神などを目覚めさせたり、大地の活性化させたり出来るかもしれない。とあった。
そうした話は管理局に報告済みで、もしかすると新たな魔導具の作製を依頼されるかもしれない。そんな事も書かれている。
「転移門先の大地を維持している力に干渉するのか。何が出来るかは分からないが、まだまだやるべき事が残されているな」
机には他にも見舞いの品が置かれていた。──アラストラからは薬草入りの薬酒の瓶。火の神殿からは、溶岩地帯に咲く生命力に溢れた「紅蓮花」を使った紅茶などが差し入れられている。
「紅蓮花。こんな高価な物を」
それは滅多に手に入る物じゃない。
溶岩が噴き出す過酷な環境の中でも育つ植物の中でも、最も大きな花を付ける植物で、探しに行くだけでも大変な危険を伴うし、何より滅多に生えていない。
紅蓮花の入った紅茶には、飲んだ者の生命力を高めるという噂がある。──まあ、真実かどうかは怪しいが。
俺が現役の時に火山の近くで発見した植物は「火煙羊歯」や「噴煙蔓」くらいだった。
どちらも熱に強く、煙を取り込んで生長できる植物らしい。噴煙蔓は軟らかく丈夫で、縄の代わりになったりもする。
そんな事を思い出しながら、俺は部屋を出て洗面所に向かい、歯を磨いてから少し横になろうと思った。
……その時、窓の前にある小さなテーブルに目がいった。そこには小鉢植物園があったが、その横に小さな瓶が置かれていたのだ。
それを手に取ると、その瓶には紙が貼られ、アウシェーヴィアとキャスティのなまえが書かれていた。──どうやら見舞いの品らしく、超高級な魔法薬の小瓶だった。
「あいつらも見舞いに来てくれたのか」
中身が空になっているところを見ると、昏睡状態の俺に飲ませたのだ。……しかし、この薬でも目覚めなかった訳だ。
俺は二人の旧友に感謝しながら部屋を出た。
玄関の前を通る時、冒険から戻って来たリーファ、ウリス、ヴィナー達にばったりと会った。
「ぎゃあっ! オーディス団長! 目が覚めたんだ⁉」
ヴィナーが驚いて叫んだ。
「なんだ、ぎゃあっ! てのは。幽霊だとでも思ったのか」
リーファやウリスは庭で出会った仲間から俺が目覚めた、というのを聞いていたらしいが、それをウリスにはわざと話さなかったようだ。
「ともかく目が覚めてくれてよかったですよ」
リーファはほっとした様子で言う。
ウリスは「お帰りなさい」と言って、表情の少ない彼女には珍しく、優しく微笑んでく
れた。
「ああ、ありがとう。心配掛けたな。──二人には戦場にまで参加してくれて、感謝している」
ヴィナーとウリスの仲は、ただ単に古くからの友人というだけでなく、危険な戦いや冒険を乗り越えた「戦友」として、今まで以上に強い結び付きを得たようだ。
「ところで、メイやユナにはもう会いましたか?」
「ああ」
リーファは俺の返事を受けて、ほっとした様子を見せる。
「どうかしたのか」
「いえ、メイが団長を心配していたので。あの子も以前の旅団で仲間を失ったりした経験もありますし、気が気ではなかったのでしょう」
メイのあの喜びようを思い出し、ほっこりした気持ちになりながら洗面所へと向かう。
鏡を前にして歯を磨いていると、鏡に映る自分が少し細くなったように感じられ、長い昏睡状態だったのが窺われた。
窶れてはいないが──どこか病的な男の姿が映し出されている。
(あ、横になる前に……)
俺は歯磨きを済ませ、部屋に戻るとすぐ外出する。
鍛冶屋に行って、弟子達に目が覚めた事を知らせなくては。
「あ、手紙も管理局に持って行かないと」
するとエウラが声を掛けてきた。
「オーディスさん──よかった。本当に目覚めていたんですね」
彼女は俺の回復を喜び、もう動いて大丈夫なのかと聞いてくる。
「もちろん。これから管理局の方に行こうと思っていたくらいだ。平気だよ」
俺が手紙を管理局経由で、神殿やパールラクーンの方へ届けさせるよう考えている事を伝えると、彼女は手紙を管理局へ持って行くと言ってくれた。
「お気になさらず。私も管理局に用事があったので」
そう言うので彼女に手紙を渡し、届けてもらう事にした。すぐにそれを管理局経由──メリッサを通して届けてもらうよう頼んだ。
メリッサに直接頼む形を取れば、今日中に各地に届けられるだろう。彼女はそうした機微には聡い方だった。
超高級魔法薬(RPGで言うエクスポーションみたいな感じ?)──キャスティらは再び小獣人の国に戻ったのかな……




