レーチェ照れる
本日2度目の投稿~
「そういえば、リーティスが見舞いに来てくれたんだって?」
ふと気になって尋ねると、レーチェはまた顔を赤くした。
「え、ええ……。父や母も、その──旅団長の意識が戻らない事を心配して、妹を寄越したそうですわ」
なんだか歯切れの悪い返事だった。もごもごと小さな声で聞き取り辛い。
「なんだ? 何か問題でもあったのか」
「も、問題といいますか……」
明らかにレーチェは動揺している。
ライムの背中を撫でていた手が止まり、気分を害した白猫は机に飛び乗ると、今度はこちらに近づいて来た。
俺はライムを抱き上げると、彼女のもっふもふのお腹を撫でてやり、また甘噛み攻撃や、後ろ足での抱き抱え蹴りを喰らってしまう。
「ぉお──よしよし、元気な奴だな相変わらず」
まだ何か言おうと躊躇っているレーチェ。いったいなんなんだ、俺は彼女の逡巡している理由を考えてみた。
「…………また、妹に何か言われたのか」
「え⁉ ま、まあ……妹と言いますか……」
そこまで言ってまた口ごもる。
「何かまずい事でもあったのか? いいからはっきり言ってくれ」
もしかするとリーティスが俺の事を彼女達の両親に話し、旅団長との交際など認めん! みたいな反応を両親にされたのではと考えたのだ。
「え? いえ……別に、まずい事なんて──何も、ええ本当に、何もないんですのよ?」
「いや、絶対に何か隠している」
俺は断言し、じっと彼女の瞳を見つめる。
「だ、だから、その……」
もごもごと唇を動かしたが、その口からは一向に言葉が出てこない。
妹でなければ、やはり彼女の両親が何か言ったのだ。俺は困ったような顔をしていたのだろう。
彼女はその様を見ると、意を決したように、先程よりも大きな声でこう言った。
「ち、父と母が、あなたを一度、連れて来なさいと、そう──言うものですから」
「え?」
俺は拍子抜けすると同時に、彼女の真っ赤になった顔を見て、こちらまで顔が熱くなる想いにとらわれる。
これは……もしかして、ご両親への挨拶参りみたいなお誘いなのだろうか。
急に具体的な行動に出るよう迫られた気がして、逆に気が引けてしまう。──そんな繊細な俺。
「ぉ、おう……」
こんな感じで、二人してどうしたら良いものかと思案し、部屋の中に静寂が訪れたのである。
「ま、まあ、それは──うん。都合のいい時にぜひ。と──伝えておいてくれ」
すると彼女は「そうですか」と、平静を装って言った。
おざなりになってしまったお腹を撫でる手に、がぶりと噛みつくライム。
「いてっ、痛い」
白猫はぴょんと俺の手から逃れると、机の上に乗って、三つの机の真ん中で丸まると、大きな欠伸をしてみせた。
レーチェの両親に会う前に、俺にはやっておかなければならない事があるのを思い出す。
それは先程レーチェが言った「約束」についてだ。
俺は彼女との戦いに勝ち、彼女と付き合う権利を獲得しなければならなかった。
前の闘いでは惜敗をしてしまったが、今度はそうはいかない。
俺はパールラクーンでの戦場で、かつて持っていた「戦いの感覚」を取り戻したのだ。
今度は以前のような負け方はしない。
それだけの手応えを未だに自分の中に感じている。──だが、その前に、少しは身体を鍛え、体力を取り戻さなければならないだろう。
「レーチェ」
俺はまっすぐに彼女を見つめる。
「な、なんですの」
「今度──そうだな、二週間後に、俺と決闘をしてくれ」
すると彼女の表情から困った様子が消え、真剣な表情に変わる。
「二週間で寝込んでいた空白を取り戻せると仰るの?」
「任せろ」
実際のところ筋肉よりも、瞬発力と柔軟性の方が、レーチェとの闘いでは大事になるはずだ。
腕力で彼女に勝っていても闘いともなれば、それだけでは勝てないのだ。
「……分かりましたわ。あなたを信じます」
彼女はそう言うと、少し哀しげに微笑んだ。
彼女の冒険者としての感覚が、俺の勝利への確信を感じでもしたのだろうか。
その表情には諦めにも似た感情が浮かんでいた。
「妹が言うのです」
急にレーチェが口にする。
「かつて『金色狼の三勇士』と呼ばれていた団長の実力は、本来なら到底、私の勝てる見込みがないほど、高い技術力や経験の差があると言っていました。──きっと今度闘う時は、私は勝てないでしょうと」
リーティスの勘の働きは確かなものがあるのだろう。
姉は妹のそんな言葉を受け、自分の実力にもっと磨きを掛けなければ、と考えているようだ。
「私も簡単に負けはしませんわよ」
「おう、望むところだ」
俺達は拳を軽くぶつけ合い、再戦を誓った。
レーチェが照れていたのは両親への顔合わせの件だけか、それとも……
リーティスは運動できなかった分、鋭い観察力や分析力に長けている、といった話。




