仲間と再会の挨拶を
義足は寝台の横に置かれていた。
戦闘用に作った「強化板義足」ではなく、使い古した金属製の義足だ。
俺はそれを履くと、着替えを手にして風呂場に向かい、そこでユナとメイに出会った。……どういう訳か二人の背後から、フレジアも脱衣所から姿を見せたのである。
子猫を三匹引き連れていた俺を見て三人は驚いたようだ。
「だんちょぉ~よかったよぉ~!」
メイは飛び跳ねて喜びを露わにしてくれ、ユナは俺の顔を見るなり泣き出してしまった。
「おいおい、泣くなって。もう大丈夫だから」
「……はい」
「ぶ、無事でよかった──です」
と三美人の冒険者の一人、フレジアが言う。
三人の少女はそれぞれのまったく異なる反応で俺の生還を喜んでくれた。
フレジアが居るのを不思議に思いながらも、きっとユナとメイの訓練に付き合っていたのだろうと推測した。
「あの、……オーディス団長」
もじもじと、フレジアが何か言おうとしてくる。
「ん?」
「その……よ、よろしくです」
「んぉ? おぅ……?」
なんだか分からないが少女に頭を下げられ、よろしくされてしまった。
彼女はこちらが何か言い出す前に、ユナの背後に逃げてしまう。
子猫達を三人に任せると、風呂場で身体を洗い、湯船に浸かってゆっくりと自分の身に起きた事について考えてみる。
犬亜人との戦争に参加し、死地を越えて舞い戻って来たのだが、なんだか夢の続きを見ているみたいな感じもする。
目を閉じて考えてみると、俺は確かにナンティルに胸を貫かれた。
あの一瞬──誰かの声を聞いて、後方に足を引いたのだ。
それで即死を免れたのかもしれない。
……まあ、結局は出血死したらしいが。
あの声──たぶん、水の神アリエイラの声だったと思う。
彼女にも心配を掛けてしまったな……
俺は無意識に胸元に手を当て、そこに傷がないのを確認していた。
過酷な戦いの後に訪れた、混沌による侵蝕。まさか俺の中に隠れ潜んでいたなんて。
本当に虫酸が走る。
──にしても、あの犬狼の王を筆頭にした犬亜人の群れ……。駆逐されたあいつらは、もう存在しないのだ。
混沌に支配され、猫獣人と小獣人を攻撃してきた奴ら。最後は完全に混沌の化け物となって滅び去った。
これほど混沌の恐ろしさをまざまざと見せつけられ、人間も獣人達も、さぞ戦々恐々としている事だろう。
しかしこちらも黙って混沌を恐れているだけではない。
西海の大地に新しい転移門も設置したというではないか。
また新しい領域に手を伸ばし、このフォロスハートの大地を守り、繁栄させる手段を獲得するのだ。冒険者や俺達技術屋はその為に居るのだから。
たとえ混沌に囲まれていようとも、俺達は生きている。決して諦めずに。
「怪我人だからと、臥せってばかりいられるものか」
俺の身体はぎしぎしと強張っていたが、心の奥底から闘志に似た鼓動を感じる。
俺にはまだまだやれる事があるはずだ。
風呂場を出ると、そこには仲間達が大勢で待っていた。
「団長!」
「よかった! 無事で!」
俺は彼らに迎え入れられ、思わず頭を掻いてしまう。……そんなにも心配させてしまったのか。
廊下の離れた場所にレオシェルドが壁に凭れ掛かった格好で俺を待っていた。
「よぉ」
「まったく……ずいぶんな寝坊だな」
「すまんすまん」
そんな遣り取りを交わしつつ、古くからの友はにこやかに俺を迎えてくれた。
この場に集まった団員は新人達が多い。他の──カムイやリトキスなどは、冒険に出ている最中なのだろう。
彼らはわやわやと俺の周りを取り囲み、それぞれが俺の復帰を喜んでくれる。
俺はレオシェルドと言葉を交わしながら歩き、いつの間にか食堂の方へ来ていた。
そこにはユナやレーチェが居て、食卓の準備をしていた。俺一人分の簡単な食事を用意してくれたらしい。
レオは気を利かせたのか、食堂の中まではついて来なかった。
他の仲間達もそれぞれのやるべき事に向かって行ったようだ。──とは言っても、訓練を終えた彼らのする事は、次の冒険への準備とかな訳だが。
「簡単な食事を用意しましたわ」
「おう、ありがとな」
長い眠りから覚めた身体は、空腹感をあまり感じなかった。その事を口にすると、レーチェとユナは顔を見合せる。
「それは……眠っている団長に、ある物を食べさせていたからですね」
「食べるというか──飲む。という感じでしたが」
「なんだ? 薬を飲ませていたのか?」
「小獣人からもらった物ですわ。滋養強壮の薬として用いられているそうです」
そう説明しながらレーチェは小さな輪っかを指で作る。それは小指の先くらいの小さな物らしい。
小獣人が作る保存食──あの、激マズ……いや、独特な風味のある食料メメルチを思い出した。
ユナが説明するには、昏睡状態の人にこれを飲ませておけば、衰弱するような事はない、と小獣人に言われたらしい。
確かに効果はあったようだ。
俺はそんなに窶れた感じはなく見えるそうだ。
「筋肉はだいぶ落ちてしまった感じはしますが」
レーチェはそう言いながら、俺の腕を強めに掴み、にぎにぎと握って感触を確かめている。
「ぷにぷにか? ぷにぷになのか?」
「そこまでではありませんが」
彼女はそう言いながら笑顔を見せる。
「めしあがれ」
そう促された食事──皿の中を見ると、汁物と白パンだけの簡単な食事だった。出来る限り消化に良い物を、という配慮だろう。
俺は匙を手にすると汁物を口に運んだ。
久し振りに食い物を口にした所為か、俺は今まで空腹など感じていなかったが、急に自分が飢えていた事に気づいた。
柔らかい白パンを千切ると、ほんのりと甘いパンをゆっくりと味わった。




