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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第十章 愛する者のために

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復活

 レーチェは俺に起きた事を話してくれた。

「金獅子の錬金鍛冶旅団」の宿舎に残り、パールラクーンでの戦いに出動しなかった団員達をまとめ、転移門先の冒険に向かわせていた副団長のレーチェ。

 あの戦いに決着が着いたその日に、俺がナンティルの刃によって倒れた事を聞かされたという。

 戦場から戻って来た仲間達に話を聞き、俺が中央神殿都市アーカムにある神殿で、女神の治療を受けていると聞かされたそうだ。


「ん? 女神アヴロラが俺を治癒したのなら、別に死んだ訳では……」

「……いえ、その後しばらくしてから、神殿から神官とナンティルさんがやって来て、詳しい説明をしてくださいましたわ」


 そこで打ち明けられたのは、俺の心臓が止まり、もはや普通の治療では蘇生できない状態にあったという言葉。

 そこで女神アヴロラは、神の力を使って俺の肉体を復元し、俺という魂をよみがえらせたのだという。


「────なるほど。しかし、女神には迷惑を掛けてしまったが、万事順調──という事にはならなかったのか?」

「それはわたくしにも分かりませんわ。あなたが実際にご自身をどのように感じていらっしゃるか、そこが問題になると言っていましたわ」

「どういう事だ?」

「あなたの中に混沌こんとんが忍び込み、それをナンティルさんの剣が貫いた所為せいで、あなたの魂は一度、肉体以上に傷ついた可能性がある、という事らしいのです。私にはどういう意味か、分からないのですわ」


 だから、俺自身が自分をどのように感じているか、それが問題なのだという。──つまり、自己同一性アイデンティティが保たれているか、といった事なのだろう。

 混沌の侵蝕を受けた俺が精神的な部分も侵蝕されていれば、ナンティルの放った女神の力によって混沌ごと浄化され、俺の中になんらかの欠損が発生するかもしれない訳だ。


「俺は俺だと思うが……。レーチェ。人間って奴は、自分事は意外に自分では分からないものなんだぞ。むしろ他人の方が、外部の人間から見た方が、その客観性によって正しい判断が出来る場合だってある。

 ──だから、お前から見て、俺はどんな感じだ? 以前の俺と違って見えるか?」

 俺が真剣に尋ねると、彼女はすぐに首を横に振った。

「いいえ、あなたはあなたのままですわ」

「なら、そういう事だ」


 そういえばさっきの夢の中に現れた混沌と思われる奴も、俺の姿をしていた。そいつは胸から血を流し、俺が死んだ時の様子を示していたが……

 あの混沌の「わからない」という言葉。

 あれは俺が奴に取り込まれ、失われる寸前だった事を意味しているようにも思われた。

 結局奴は、俺の中に忍び込み、俺の精神や魂を取り込む事が出来ず、俺というものを理解する間もなく、消滅したのではないだろうか。

 俺の見た夢は、混沌の残滓のこりかすみたいなものが見せた悪夢だったのではないか。

 奴は「わからない」まま、ナンティルの刃によって消滅したのだ。

 混沌が俺に接触し、人間存在を理解しようとしたか。あるいはナンティルから神々の情報を得ようと俺を利用し、次にナンティルを捕らえようとしていたのかもしれない。

 ……まあ、推測に過ぎないが。


 ともかく俺は俺だとしか言いようがなく、女神アヴロラのお陰で一命を取り留めたのだ。


「女神にお礼を言わなくちゃな……あ、そうだ」

 俺は寝台ベッドに腰掛けたまま、膝に乗ってきたライムを撫でる。

「ナンティルがここに来た時に、責めたりはしなかっただろうな? あいつの暴走には理由があって、あいつが悪い訳じゃないからな」

「分かっていますわ。その辺の話も神官から聞きましたわ。彼女が混沌に接触すると、彼女の中の女神の力が暴走してしまうのでしょう?」


 ナンティルは酷く弱っていたらしい。いつもの元気はおろか、覇気がまるで感じられない表情をしていたという。


「悪いが、神殿の方に手紙を出してくれるか。俺が意識を取り戻したとナンティルにも知らせておきたい。あと──風呂に入りたいな」

 そう話していると、ドアをカリカリと引っ掻く音が聞こえてきた。

 何かと思っているとドアが開き、エウラが部屋に入って来た。


「レーチェさん、交代しま……! オーディスワイアさん!」

 彼女は俺の顔を見ると大きな声を上げて、小声で「よかった」とつぶやく。

 彼女の足下から子猫達が駆け寄って来て、寝台ベッドの上に飛び乗った。一月ひとつきほどの間で、随分ずいぶんと大きくなった子猫達。

 俺の側に来ると足に頭を押し付けたり、太股の上に乗って来た。

 三匹の子猫達はミィミィ、ニャァニャァと鳴きながら俺に甘えてくる。

 それぞれの猫を撫でてやりながらエウラにお風呂の準備をお願いすると、「もうすでにお湯が張ってありますよ」という返事だった。訓練を終えた団員が汗を流しているらしい。


「それにしても一月で子猫達は大きくなったな」

「そうですわね。それと……管理局の──メリッサさんがあなたの様子を見に来た時に、子猫達は正式にここで育てる事に決まりましたわ」

「え、そうなのか」

「子猫にえさをあげていた面々が願い出たのですわ。このまま宿舎で飼ってもいいかと。──それを受けてメリッサさんが手続きを済ませてくれたのです」

 その面々というのはメイやユナの事だろう。


 どうやら子猫以外についても、俺が寝ている間に色々な変化があったようだ。──当然だ。何しろ正月に当たる日をまたいだのだから。




「春迎祭儀」が行われ、改めてエウシュマージアをフォロスハートに迎え入れる儀式が恙無つつがなり行われたとエウラが説明してくれた。

「西海の大地で儀式をしたんです」

 ただ、大蟹おおがにの姿をしたエウシュアットアは見たが、肝心の蛇型のエウシュマージアの姿は無かったらしい。

「蛇が苦手な人も居るので、その配慮だと思いますわ」とレーチェが補う(フォローする)


「それで、大地の神様の力が回復した影響で、新たな大地への転移の門を開いたんですよ。西海の大地に」

「へえ」

 俺は子猫を代わる代わる撫でながら、エウラ達の話を聞く体勢に入った。

「あ、その話の前にお風呂に入りたいですよね? ユナ達にも声を掛けておきますね」

 エウラはこちらの気持ちを理解せず、さっさと部屋を出て行ってしまう。

「あ、おい……」

「まあまあ、神様の話は後にして、先にさっぱりしてくるといいですわ」

「ま、そうだな。──世話になったな、俺が寝ている時」

 そう言って立ち上がると、レーチェは困ったような、何か言いたそうな顔をして、足下に来たライムを抱き上げた。

「その話も後で」

 と彼女は呟くと、ライムを抱いたまま部屋を出て行った。

死亡した肉体を復元した時に、精神や魂といったものも同時に再生され、それは今までのオーディスワイアと違いはあるか。いわゆるスワンプマンとは違い、混沌の影響で失われた部分はないか、といった事が主な理由。

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