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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第十章 愛する者のために

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長い眠りからの目覚め

ちょこっと小難しいはなしを。

「おはようございます」

 側に立っているレーチェが俺の顔を覗き込みながら言う。

「ああ……おはよう」

 その顔を見れば、相手がどれだけ心配していたのかがうかがわれた。

 彼女の顔を見て安心した俺は、きっと弱々しい笑みを浮かべていたのだろう。レーチェの目に光る物がにじみ始めていた。


「もう目覚めないかと思いましたわ」

「そんなに眠っていたのか」

「もう一月ひとつきになりますわ」

 一ヶ月間も! ──そんなに眠っていたのに、目覚めは全然すっきりしたものではなかった。

 むしろ体中にだるさがのし掛かってきており、自分が改めて死にかけたのを思い出してくる。

 そうだ──俺は、暴走したナンティルに剣で胸を貫かれたのだ……。そうした事も段々と思い出してきた。


「ニャァァ──ン」

 ぐりぐりと頭を押しつけるライムの攻撃が強くなる。

「わ、分かった、分かったから……」

 重い身体を動かして片手を持ち上げ、ライムの背中を撫でてやる。

 するとまた「ごろごろごろ」と喉を鳴らし、満足そうに俺の顔の横に座り込んだ。


「心配をかけたな」

「まったくですわ」

 白猫を撫でながら言うと、レーチェは涙を拭うような仕草をして顔を背ける。

 しばらく二人と一匹の間に沈黙が沈み込んだ。

 何から尋ねればいいものかと考えながら、ぼやけた頭を使って先ほどの声を思い出す。

 レーチェは猫が苦手だったはずだが。


「レーチェ、ライムに触れるようになったのか」

 そう言うと、彼女はキラキラと光る薄紫色の瞳をこちらに向け、静かにうなずいた。

「ええ、ここのところずっとあなたの看病を私達はしていたのですが、その間ずっと、この猫もあなたの側にくっついて離れなかったのですわ。あなたを心配しているその姿を見ているうちに、なんだかこの子とは友達にでもなれたように感じましたの」

 レーチェがそう言うと、ライムが「ウニャァ──」と返事をした。

 ライムは身体を横たえると、かゆい所を押しつけるみたいに、俺の顔に背中を擦り付けてくる。

 俺がそのお腹を撫でてやると、ライムは俺の指を甘噛みし、両手両足でがっちりと俺の手をつかんだ。


 もふもふした猫のお腹を撫でながら、先ほどの気味の悪い夢について考える。

 夢の記憶はいつもならすぐに忘れてしまったり、部分部分が抜け落ちてしまったりするものだが、今回見た夢は割と鮮明に覚えていた。

 混沌こんとんは俺の中から消え去ったはずだ。──でなければ、俺はこうして息を吹き返す事もなかっただろう。

 夢の中で混沌は、何を訴えたかったのか。

 本当に人間を知るのが目的だとしても、それはいったい何故だろうか。

 ただの物体とは違い、様々な異なる思想や価値観を持った人間に興味を抱いたとでも?


 ──だが、奴には人間の事など到底理解できまい。……それは人間である俺にとってもそうなのだから。

 人間はそれほど多様な精神性を持った生き物だ。

 個人個人がその精神性と向き合い、自分を肯定したり否定したりしながら成長し、人格というものを獲得していく。

 誰も自分から逃れられないにもかかわらず、多くの人は、自分の本質に目を向けようとはしない。──この矛盾した生き方こそ、人間そのものだ。

 個人が集団の中で生活し、その中で協調や軋轢あつれきを感じながらも、自身を変化させたり、時にぶつかりあったりしながら生きている。

 そうして俺達は何かを得、何かを失いながら──成長や、時に妥協や順応を手に入れる。


 今までの世界(地球)ではそうだった。


 だが──ここ、フォロスハートで生きる俺は、以前のようには生きていない。

 周囲の不本意な協調を受け入れたり、あるいは望んだりもしない。

 今の俺はかつてないほどに、自由に不自由を満喫しているのだ。日々の生活という不自由を。

 過酷な戦いや死の一歩手前まで経験する事にもなったが、こちらの世界に来られて良かったと心から思う。


「ゥニャ、ゥニャ」

 甘噛みしながら鳴き声を上げるライム。

 俺の心配をしてくれたレーチェや仲間達。

 この世界には、俺を心配してくれる皆が居る。

 それは俺に──例え苦痛や恐怖のただ中にあっても、勇気や幸福感を与えてくれるのだ。


「とにかく、あなたが目覚めた事を皆に伝えなくては」

 レーチェはそう言って、立てるかと聞いてきた。

「ああ……たぶん」

 上半身をなんとか起こすと、体中の筋肉がぎしぎしと突っ張るような感覚を覚えた。

「うぐっ……、全身、筋肉痛みたいだ」

「たぶん、()()()()()()()のようなものなのでしょう」

「なに?」

 俺は寝台ベッドから足を下ろすと、彼女の言葉に首を傾げながら、その言葉の意味を尋ねる。


「……()()()()()()()()()のですわ」

 彼女は俺を見下ろしながら言った。

「どういう事だ?」

「心臓を貫かれたあなたは胸から大量の血を噴き出し、倒れたのだそうです。傷は早めに処置して、なんとか出血を止めた頃には──あなたの心臓は、もう……」

「なら、なぜ俺は生きているんだ?」

「それは……パールラクーンの女神アヴロラ様が、あなたの命をよみがえらせたからですわ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 待ってました! [一言] たまに確認して更新に今日気付きました。 今後の展開も楽しみにしています。
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