織田西家の墓前から、懐かしい風景まで
お待たせしました。
第十章「愛する者のために」開幕です(このタイトル変更するかも……)。
第九章のラストで仲間であるはずのナンティルの暴走によって胸を貫かれてしまったオーディスワイア。第十章の始まりは、そんな彼の「死」から始まる──?
空は曇り、辺りは静寂と暗い空気に包まれている。
虫の音も、風の音も聞こえない。
冷たい静寂がただひっそりと自分の周りを取り囲んでいるみたいに。
そこは墓地だった。
どこか懐かしく、そしてまったく見ず知らずの場所。そんな感じのする墓地に立っていた。
「灰色だ」
そんな言葉が自分の口から漏れ出る。
それは空の色であり、墓石の色でもあった。
一つの墓石の前に数人の男女が立っている。
自分はそれを遠巻きに見守っていた。
顔の見えぬ男女は音もなく立ち去って行く。
その中にはどこか懐かしい人影。
けれどそれが誰かは思い出せない。
人々の去って行った墓石に近寄って行く。
何故かは分からない。
勝手に足が進んで行くのだ。
ええと、自分は何者だったかな?
そんな気すらしてきた。
何かが頭の中で警告を発しているみたいに、遠くて近い場所から自分を呼ぶ声。
それは気の所為かもしれない。
まるで自分が自分でないような感覚。
のろのろと墓石に近づくと、その墓標には名前が刻まれていた。
<織田西家>
ああ、それは俺の名字だ。
この墓石の下には俺の祖父や父が、骨壺という小さな棺桶に入れられているのだ。
その墓石の後ろに卒塔婆が数本立っていて、そこには俺のよく知る名前が書かれていた。
<織田西歩>
それは俺の名前だった。
「おい待てよ」
俺は急に不安になって声を上げた。
自分は生きているじゃないか。
誰だ、勝手に俺を殺して骨壺にしまい込んだ奴は。
……だが待てよ。
俺は果たしてそんな名前だったか?
おれ、俺────俺は……
俺は、織田西なんて名前じゃぁない。
そうだ、今の俺は──
「俺は……オーディスワイアだ」
そう呟くと、場面が変わった。
場所が変わった事など気にもならなかった。
後で「場面が変わった」と気づいたのだ。──この時の俺には、自分がどんな状態にあるかすら分かっていなかったのだから。
* * * * *
今度は道路に立っていた。
アスファルトの道の左右には見覚えのない家と、その家を囲む壁が続いている。
「どこだここは」
まるで霧が充満しているみたいに周囲の様子が見えづらい。
それとも俺の目がどうかしているのだろうか。そんな風に思い、目をこする。
遠くで白い物が動いた気がした。
目を凝らして道路の先を見ると、分かれ道の手前に一匹の白い猫が居た。
それはどこか見覚えのある猫だったが、それがどこで見た猫か、俺には思い出せない。
それどころか自分が何故ここに居るのかすら分からないのだ。
とぼとぼと猫の近くへと歩いて行く。
分かれ道の様子が見えてきた。
片方の道の先に見えるのは、近代的なビルや二階建ての建物などが建ち並んでいる。
もう一方の道の先は──古い建築物。石組みの建物に木造の古びた建物。どこか異なる文化の印象を持った家が建ち並ぶ。
道も土が剥き出した物であり、古い時代に逆行したような感じがする。
「ウニャァ──」
分かれ道の前に居た白猫は鳴き声を上げると、土の道へ駆け出した。
白猫は道の真ん中で立ち止まるとこちらを振り返り、また鳴き声を上げた。まるで「ついてこい」と言っているように。
靄の掛かった視界は、俺自身の思考のように曖昧模糊とし、二つに分かれた道の手前で立ち尽くしてしまった。どちらに行くのが正解なのだろうか?
……白猫はじっとこちらを見つめ、うろうろする事もせず前足を地面にちょこんと立てて、俺が来るのを待っているみたいだ。
猫の居ないアスファルトの道の先には、懐かしい風景がある。──どういう訳かその近代的な高層ビルや、コンクリートの壁で作られた建物などに、異様なほど心が揺さぶられる。
「帰りたい」
そんな声が聞こえた。──自分の口からではない。
俺の後ろから聞こえてきたのだ。
振り向くと──そこには俺が立っていた。
人は夢の中では自分を意識しないのが普通。
けれどまれに睡眠中に見る夢の中でも自分を意識したり、夢から自分の意志で目覚めたりできる場合があります。そんな感じの話。
不定期更新です。
途中でまた更新が止まってしまうかも……応援よろしくお願いしま~す。




