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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第九章 パールラクーンを巡る戦い

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混沌対人類

 戦狗バルガンに変身した犬亜人ババルドの軍勢と激突した。

 敵の多くは鎧も身に着けず、武器すら手にしていない者がほとんどだ。

 犬狼の王(バロンレガルム)は最前列に姿を見せていたはずだが、突撃して来た群れの中には居なかった。


「オオオオオッ!」

 扇爪斬破を使って敵を薙ぎ払う。

 突進して来た七体の戦狗を打ち倒すと、それが戦狗に似て異なる──異様な存在だと理解した。

 それはもはや獣でも、亜人でもなかった。

 毛皮だと思われた体表には、まるで木の皮の様な固い皮膚に、獣の毛と山嵐らしの針状の剛毛が混じったみたいな、黒い外殻を身に付けていた。

 出来損ないの甲殻類みたいな連中だ。──俺は不気味な顔をした獣の頭部を見る。


 犬に似てはいるが、やはりそれは獣と言うよりも──混沌こんとんの化け物に近い存在だった。

 横に裂けた口から尖った牙が覗き、潰れた鼻先は犬というよりは牛を思わせる。

 頭からは角が生え、中にはあごから大きな牙が突き出ている者も居た。

(完全に混沌の魔物だな)

 もはや犬亜人ではない。

 この敵は転移門先に現れる混沌の軍勢と同じだ。


 立て続けに迫って来る敵を斬り裂きながら、仲間の様子をうかがう。

 猫獣人フェリエスの戦士とフォロスハートの冒険者が隊列を組み、敵の攻撃を防ぎながら──懸命に戦っている。

 大きな敵を相手にして苦戦しているが、後方から魔法の支援を受けつつ、彼らは戦狗を一体一体、確実に仕止めていく。

 だが──これだけの数の戦狗を相手に俺達の戦列は崩れ、徐々に後退を始めた。

 離れた場所に居たリゼミラも、今ではこちらに近い場所で戦わされていた。──外側から押し込まれる形で、中央に人が集まり始めたのだ。


「押し返せえぇえぇっ‼」

 俺は叫びながら連続で斬破と破砕撃を打ち出し、次々に戦狗を倒して前に出る。

 当然、俺は敵の真っただ中に飛び込む格好になり、敵に囲まれてしまう。


「グルルラァアァァッ!」

 吠えながら俺に食らいつこうとする戦狗。

 その場で腰を落とすと、俺は魔剣を横に構えて背中側に回し、周囲を斬り裂く円陣斬を放つ。

「ズヴァウゥッ!」

 空気を裂く刃が俺の周囲から円形状に飛び、周りに集まって来た戦狗の胴体を引き裂いて打ち倒した。

 一撃で五体の戦狗が戦場に倒れると、兵士達から大きな歓声が上がり、彼らの士気も回復したようだ。




 一進一退の攻防が続いていた。

 気づけば敵の数もだいぶ減り、このまま押し切れるかと期待したが──

「くっ……! 援護が──!」

 見れば周囲に立っている猫獣人の戦士やフォロスハートの兵士は、数えるほどしか居ない。

 後方の魔法使いも魔力切れを起こし、治癒師も倒れた戦士達を介抱するのに掛かり切りだ。

 剣を握る握力はまだ残されているが、肩や背中の筋肉が強張こわばっているのを感じる。

 まだ敵の戦力は後方に控えているのが確認できた。奴らは第二陣を温存しており、そこには犬狼の王の姿もある。


「くそったれ……! まずいぞ、これは……」

 近くまで来ていたリゼミラが、回復薬を口にしながら目で何かを訴えている。──俺達の後方には傷つき倒れた兵士達が地面に座り込み、治癒師による回復を待っている状態だった。

(ここから下がる訳にはいかない……!)

 リゼミラは飲み終えた小瓶を敵に向かって投げつけると、仲間の兵士を守る為に突撃し、二体の戦狗に立ち向かって行った。

 周囲の戦士達も敗色が濃厚だと考えているだろう。だが──その感情に飲まれれば、勝てるものも勝てなくなるのだ。


「オーディスワイアさん」

 と、そばに居た猫獣人の男が話し掛けてきた。

 前線で戦いながら、敵に視線を向けたまま、彼はこう口にした。

「我々は最後まで戦います。しかし、あ(にゃ)たは怪我をした仲間達と共に、砦まで下がってくださいにゃ」

 続けて反対側に居る猫獣人も声を上げた。

「そうですにゃ。あ(にゃ)たたちはフォロスハートの人ですにゃ。ここで我々と共に倒れてもらう(にゃ)んて、とてもできませんにゃ!」

 満身創痍まんしんそういの仲間を助ける為に、自ら壁になろうと言うのだ。


 俺は歯噛みした。

 確かにこのままでは敵の物量に押し潰され、後方に居る怪我人達も巻き込まれて死んでいくだろう。

 ────しかし俺はあきらめていない。いや、俺だけではない。俺の仲間達もまだ、前線での戦いを続ける気迫を持って戦っている。

 仲間達が懸命に戦っているのに、俺が後退の指示を出すなど──いや。出すべきなのかもしれないというのは分かっている。

 それでもなお、俺は彼らの言葉に首を横に振った。


「いいや、俺は──俺達はまだまだ戦える。そしてお前らもな! まだこれからだ! 泣き言など口にしないぞ、俺は! いいか! 俺につづけぇえぇぇっ‼」

 後ろに控えている戦士達に声を掛けながら剣を振り上げ、敵に突撃を開始する。

「ウオオオオオォッ‼」

 後方に居たフォロスハートの冒険者や兵士。猫獣人の戦士達も、俺の声に同調して闘志を燃やす。


 俺が前方に居る混沌こんとんの化け物に剣を振り下ろし、連続攻撃を浴びせてこれを打ち倒すと、仲間達も一斉に敵に突き掛かり、再び激しい剣戟が辺りに響き渡る。

 暗くなった山間部を照らす篝火かがりびけられ、広野の戦場を照らし出した。

 突出していた敵の多くを打ち倒し、徐々にこちらが敵を押し返し始めると、敵陣の後方に居た犬狼の王を含めた最後の部隊が、ゆっくりとこちらに向かって進軍してきた。


「ここが正念場ってやつだ!」

 覚悟を決めろ! そう叫びながら一体の敵を斬り裂く。

 それに呼応する様に戦列を組んで敵に対峙たいじする仲間達。

 リゼミラも俺から少し離れた場所に立ち、敵を迎え撃っている。

「オーディスさん!」

 後方からアディーの声。

 敵がこちらに駆け出して来た。

 どどどどどっ、という凄まじい音。


 陸地に押し寄せる津波の様に迫って来る敵の波。

 全身全霊でこの敵の波を押さえてみせる。

 俺の中にある戦士の魂がめらめらと闘志を燃え上がらせる。

「うおぉおおっ!」

 パールラクーンとフォロスハートの勇士達が、己の魂から燃え上がらせるようなときの声を上げた瞬間。俺達は大きな──別の場所から沸き上がり

響いてくる──別の鬨の声を耳にした。

押し寄せる敵の波に立ち向かうオーディスワイアの耳に聞こえた鬨の声は──?

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