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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第二章 集いし者達

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折れた魔剣の修復②

「大丈夫ですの? 随分ずいぶんと根を詰めていらっしゃるようですけれど」

 心配になって見に来たというレーチェ、ここ数日は食事や睡眠についての記憶が曖昧あいまいだった。

「ああ、……すまないな。旅団の方を任せっぱなしで」


 彼女に聞いた話では、団員の皆は自主的に冒険に出て旅団宿舎の倉庫に素材を溜め込み、旅団で使える錬成素材などを揃えているのだと話す。

「それにあなた、少し臭いましてよ」

「それを言うな、公衆浴場へ行こうと思っていたところだ」

「あら、それでしたら団員宿舎にお風呂場を造りましたのよ。そちらを利用されるとよろしいでしょう」


 このお嬢様は団員宿舎を「お貴族仕様」に造り替えるつもりらしい。いつの間にそんな物を造らせたのかと尋ねると、ついこの前出来たばかりだと言って彼女はこう言った。

「ですが、まきを使って火をこさないとお湯が使えないので不便でして、何か錬金鍛冶で造って頂けません?」

「水をお湯に変えるのは可能だと思うが──機構を考えるのは面倒だな」

「面倒と言わずにお願い致しますわ」


 こんな話をして、一旦鍛冶場を離れて団員宿舎に向かう事にした。風呂場は広い物ではなかったが、ちゃんと造られていた。排水溝も設置され、近くの排水路に流れて行くように溝を掘り、上の部分に石の蓋まで造ってあった。


「お湯ならもう張ってありますわ。今朝方に沸かしたものですが、火を入れれば温かくなるでしょう」

「ほう、レーチェの入った残り湯か──」

「ちょっと! な、何を考えているのですか⁉ この変態!」

 彼女はそう言って顔を赤くしながら、両手で身体を隠す仕草をする。

「おまっ、人を変態扱いするな! この露出性癖!」

「だっ、誰が露出性癖ですか‼」


 こんなり取りをしていると、宿舎の庭にある小さな畑に水をやっていたユナとメイがやって来て、風呂場の外に設置された小さな炉の中に薪を入れ火を付ける。

 俺は彼女らに礼を述べて風呂場に入り、脱衣所で服を脱ぐと浴場で身体を洗う──湯船は小さいが浴場には三人ほど入れる広さがあった。壁に設置された外にある炉と繋がる台の上に金属の鍋が置かれ、その中に入れた水をお湯に変え、それで身体を洗うようだ──放って置くと熱湯になり水を足さなければならなくなる。


 手桶を使って湯船の中に熱くなったお湯を入れようかと思ったが、炉の熱が湯船のお湯も温められる構造になっていた。

「へえ、なるほどなかなか良くできている……」

 湯船に浸かりながら金色の毛でも落ちていないかと湯船を探してみたが、()()()()は無いようだ……ちっ、──いや、別に期待してた訳じゃないんだぜ?


 そんな一人芝居をしつつ、今度は魔剣の修復について何か取っ掛かりを得られないかと思考してみた。

 折れた部分を接合するのは何とかなる。しかし掛かっていた魔法が、その力を復旧できるかは分からない。魔力を繋ぐ回路が分断されたりしてしまうと、柄側と刀身側でちぐはぐになった力が暴走するかもしれない。


 いや、何だろう。今いい発想を得られそうな感じがした──魔力回路が見えればいいのだ。その為には魔力を流し続け、柄と刀身の回路が繋がった所を打ち直していけば、修復する事が可能になるのでは? そうだ、それにはあの異界の魔力結晶を使って行えば可能になるはず──!


 俺は風呂場を出て脱衣所に置かれた綿織物タオルを使って濡れた身体を拭くと、着替えてレーチェらに、すぐに鍛冶場に戻ると声を掛けて駆け出した。これなら魔剣を修復できるはずだ!

 鍛冶場の前にはエウラが立っていた。彼女に思いついた事があるので協力して欲しいと告げると、彼女は黙って頷く。


 炉に火を入れて燃結晶と魔剣と同じ異界の魔石を投入する──そして、魔力結晶を剣の柄を握る手の中に入れて、折れた剣と合わせて魔力を流してみる──刀身を裏返すと柄から流れる魔力が刀身と繋がって、わずかに流れて行く手応えを感じる。


 エウラに魔力結晶を握りながら柄を持ち続ける様に言って、異界の鉱石から取り出した金属片を溶かして、折れた部分の結合に入る──もちろん、刀身と柄側の折れた部分も熱して溶かすのだが、燃結晶を三個も投入した凄まじい高熱の炉の中に剣を突っ込むだけで、火傷を覚悟しなくてはならなかった。常に肌に水を掛けるよう指示し、次に剣の柄を持たせて剣の接合を開始する。


 一瞬の勝負だった。ふいごで炉の火力を維持しながら、金床の上では剣を金鎚で打ち続ける。金属片の新しい金属を加える時に、魔力結晶も砕いて加えながら魔剣を修復する──。このやり方はこちらの魔法が掛かった剣の修復方法と同じ手法だが、問題ないはずだ。魔力回路の結合さえ見えていれば、その他の理論に違いは無いはず。


 俺はひたすらに剣を炉に投入しては、すぐに金鎚で叩き、奇妙な色の──紫や蒼い色の──火花を散らしながら魔剣の接合を続けた……


 全身から汗が吹き出る。エウラはそれを手拭いで拭いながら、俺の身体に水を掛け続けた──

 それから数分後、魔剣は完全に元の姿を取り戻した。後は刃の部分を研ぎ、表面の汚れやあらを取り除いて全体を研磨するだけだ。


 炉の火を落として、それらの作業に黙々と取り組み続けた。

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