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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第九章 パールラクーンを巡る戦い

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襲撃

 兵士達は休憩しながら時を待つ。援軍が駆けつけて来るか、敵が攻めて来るか……その緊張感が戦場を包み込んでいる。

 まだ上空は青い色をたたえていた。山脈の向こうに沈もうとする日の光が、遠くの空の色を薄紅色に染めようという時刻。

 防衛陣地に角笛が鳴り響いた。

「なんだとっ⁉」

 敵襲の合図。

「奴ら、こちらの仲間がそろう前に攻め込んで来るつもりか……!」

 とことん予測を外してきやがる……!


 天幕テントを出ると前線に向かう。

 すでに多くの兵士は塹壕ざんごうの手前に陣取り、敵の襲撃に備えていた。

 左右の森からどっと押し寄せて来る犬亜人ババルドの波に向かって、投石機から放たれた岩が奴らを押し潰す。

 広野に押し寄せる敵の姿がはっきりと視認できる。

 ぞろぞろと黒い影が固まりとなって攻め込んで来た。

 恐れ知らずの突撃。

 奴らはまた無造作に襲い掛かって来る。

 半日前の戦闘の事を忘れてしまったかのように。


 左右から迫って来た犬亜人の群れを、塹壕を前にして待ち構えていた猫獣人フェリエスの戦士や、フォロスハートの兵士達が迎え撃つ。

 俺は戦列の中央に位置する場所でそれを見ていた。

 遠く離れた場所で戦いが始まる。

 その戦いを視界のすみで見守っていると、左右の戦線からほとんど同時に魔法剣の攻撃が放たれた。


 カーリアか。それともダリア、フレジアの攻撃か……

 激しく火を噴き上げる攻撃と、嵐の様な風を生み出した破壊の衝撃と斬撃。

 どちらも凄まじい威力で敵を吹き飛ばしただろう。

 こちらもいよいよ敵が迫って来た。

 洞穴のある北から押し寄せた敵の波。

 土塁どるいの上を越えて来る犬亜人や、土塁の間を抜けて来る犬亜人にまぎれて、戦狗バルガンが姿を現す。俺は土塁の間に立ち、敵が押し寄せて来るのを待っていた。


「くらえぇっ!」

 振り上げた魔剣に気を流し、前方一直線に撃ち出す斬破を繰り出す。

 空気を引き裂く一撃。

 自分でもびっくりしてしまうくらいの大きな金属音に似た、空気を裂く衝撃波が発生し、斬撃に巻き込まれた犬亜人と戦狗が、腕や胴体を引きちぎられるみたいに引き裂かれ、血煙を上げながら倒れていく。

 押し寄せて来る敵の波を──俺と戦士達が叩き伏せる。

 カムイは土嚢を越え、掘を飛び越えて来た敵を狙って次々に切り裂くと、周囲の猫獣人と共に敵の死体を堀の中へと叩き落とす。




 俺達の抵抗はかなり長く続いた。

 空が段々と薄暗い群青色に染め上げられる頃になると、敵の動きにも変化が現れた。

 ──敵の波が引き、広野の向こうへと逃げて行ったのだ。


(どうする──こちらから追撃するのか?)


 俺はナンティルらの指示が鳴るのを待った。


「パパパパ──ン、パパパパ──ン」


 軽快な角笛が鳴らされた。

 一休みしつつ回復薬などを口にしていた兵士らも、その合図を聞くと武器を手にし、広野へ進軍を開始する。

 ゆっくり、ゆっくりと戦列を維持して敵に迫る。

 すると──敵陣の中に犬狼の王(バロンレガルム)の姿が確認できた。

 奴は俺の進む先で待ち構えるみたいに、最前線に姿をさらしている。

 投石機はすでに弾が切れ、援護は期待できない。

 パールラクーン防衛隊と犬亜人の軍勢が、離れた場所で戦列を整え──睨み合う。

 突撃の合図がどちらから鳴らされるだろうと考えていた時。山脈の陰に日が沈み、広野に山脈の影が落とされた。


「ぐググルルるルぅぐグゥウうぅゥ……‼」

 犬亜人の群れから、一様に気味の悪いうめき声が広がっていく。

 それと同時に奴らの気配が──不穏なものを含み始めた。

「まさか──ッ!」

 後方の離れた場所から、アディーディンクの声が聞こえてきた。

 そうか。この気配……!

 それは俺にも見覚えのある感じだ。その異様な気配は──

「「「ごあアあァアぁァアッ‼」」」

 ついに奴らは本性を現したようだ。


 犬狼の王を中心に黒い波動が解き放たれ、影の中で不気味に光る黒色の極光気オーラがゆらゆらと燃え広がり、犬亜人の戦列を包み込んだ。

 凄まじい怒号と共に奴らは変形を遂げた。

 遠目からでも分かる異様な変身の様は──

 さなぎからちょうが誕生するのとは違う、まったく不快で不気味な、不調和の──混沌こんとんの誕生を見るような光景だった。


 小さな犬亜人の肉体が膨れ上がり、その全てが戦狗となって黒い極光気を放ちながら、暗くなった空を見上げて一斉に吠え猛る。

 山脈の間を埋め尽くす獣の咆哮ほうこう

 心の弱い者なら足がすくみ、思わず後退あとずさりしてしまっただろう。

 俺やリゼミラ、カムイなどは一斉に気迫のもった声を上げ、剣を振り上げて戦列の中で戦いへの意志を示す。

 すると周囲の戦士達も大きな声を上げ、闘志の気を燃え上がらせながら、大きなときの声を戦場にとどろかせたのである。


「見ろ! 奴らは戦狗になったかもしれない。しかし奴らは裸だ! 鎧を身にまとった戦狗ではない! そんな相手など恐れる事はない!」

 俺は仲間を振り返り、大声で呼び掛けた。

「おぉおおおおっ‼」

 戦士らは怯えを消し去って、戦場に向かう闘志を燃やす。

 恐怖を勇気で焼き尽くし、敵を排除する戦闘へと己を駆り立て、この戦いに──侵略者の蛮族共に止めを刺す為に。

 全身全霊をもって戦いに勝利をもたらす。


「パールラクーンとフォロスハートに勝利を‼」

 俺はそう叫びながら敵陣へと走り出す。

 敵陣も大きな咆哮を上げながらこちらに突撃を開始した。

 それは大きなうねりとなって──双方から荒れ狂う波が押し寄せるみたいに、広野のど真ん中で激しくぶつかり合うのだった。

残り三話。

十月九日に第九章は完結します。(週二回投稿)

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