決戦を前にして
通信機を通じて、東西にある犬亜人生息域を制圧しながら進行する部隊が、明日には集合地点である山脈の谷間に来られるという報告がきた。
彼らは山を越えながら犬亜人の巣穴や拠点を潰していたが、そのほとんどは敵の数が少なく、逃げ出した後だったらしい。
きっとこちらを迎え撃つ為に中央に集められているのだ。
「おそらく明日には味方が集結するはずにゃ」とナンティルが話し、敵がその前に攻めてこなければ、決戦は明後日になると説明する。
「どうかな。今夜にでも攻めてくる可能性が高いと思うんだが」
混沌が指揮しているとするなら、それくらいはしてくるだろう。こちらの数が集まる前に、本陣である俺達の居る部隊を先に攻略する程度の知恵は持っているはずだ。
「もちろん犬狼の王が洞穴の中でどうしているか分からない以上、そうした事も考えて、今は戦士達に交代で休養を取ってもらってるにゃ」
そこへ、不穏な情報が管理局から齎される。
なんでも犬狼の王が身を潜めた洞穴から、森に向かって多くの犬亜人が入り込んだのだと言う。
森の中に兵士を潜ませるつもりなのだ。
「おそらく数は七百くらいかと……」
「東西からも犬亜人の生き残りが集まりはじめています」
二人の職員はそう報告し、俺やナンティルは深い溜め息を吐く。
「どうやらオーディスの言ったとおり、今日中にも攻めてきそうな感じにゃ……」
「防衛の準備は整っているが、こちらから攻めていく準備もしなくてはな。投石機がまだ来てないようだが」
「今まさに後方からこちらに運んでいる最中にゃ。一旦ばらして、こちらまで運んで組み立てるようにしたのにゃ」
ただ、撃ち出す石などは運ぶのが大変なので、そんなに球数は増やせないと言う。
「仕方ないさ。ともかく相手も全力で抵抗してくるはずだ。気持ちで負けないよう、戦士達に言っておけ。ここが正念場だと」
俺はそう言い残して指揮所の天幕を出た。
決戦間近だと感じ、気合いが入る。
前線に敷かれた塹壕の手前に戦士が集まり、戦列の組み方や、敵が攻めて来た時の対応について説明している。
そこにはカムイやエウラ、カーリアなど、うちの旅団員も参加していた。
ダリアらも一緒に戦場での戦い方を学んでいるようだ。──しかし、彼女らは三人で多くの危険な戦いに打ち勝ち、ここに居るのだ。彼女らは単独行動で敵に突っ込みそうな気がする……
しかも三人全員が俺が作製した魔法の武器を手にしている。相当な戦力になるはずだ。
どこかの副司令みたいに「勝ったな」と呟いてみたい。
けど俺は、この戦場が初めての戦場なのだ。
冒険者になり立ての頃のあの慎重さが戻ってきている。慎重に、臆病に。勝利を取り零さないよう注意しながら戦う。
誰一人死なせる訳にはいかない。
その為に俺はこの戦場に参加したのだから。
例え勝利が見えたとしても、最後の最後まで油断せず、相手が投了するまで考え抜く棋士の様に。冷静に敵を追い詰める。
俺は後方から戦場での戦い方について説明しているのを見て、実際に体験した戦場での戦い方に何か、新しい手法が加えられないかと考える。
やはり魔法剣の使いどころだろうか。
強力な破壊を前方に撃ち出す攻撃。特にカーリアのような臆病な性格の冒険者でも、一撃で多くの敵を倒せるのだ。
魔法剣を魔力が枯渇する寸前まで使って、後方に下がり、魔力の回復を行い、また前線に立つ。
これが一番単純で、効率的な魔法剣の戦い方になるだろう。
しかし魔力回復薬を使っても、そう簡単に魔力が回復する訳ではなく、一定量の回復と、その後の回復速度を少し引き上げてくれるくらいでしかない。
何より精神力の問題が大きい。
複雑な魔法を操るほどに魔法使いの精神は疲弊し、魔法の連続使用は危険になるのだ。それは魔法剣を使用した場合も同じだ。
魔法の武器にそれぞれの属性力に応じた魔法の刃を生み出すだけだが、少なからず魔力を消耗し、精神的にも疲弊する。
リゼミラほど強靭な肉体と精神を持っていても、あれほどの数で迫って来る敵の波を跳ね返すには、相当の意志が必要だ。
カーリアには無茶はさせたくない。
戦場に出る前にちょっと話しておかなければな……
そう考えていると、戦場での戦い方の講義が終了した。
「カーリア」
戦い方について学んでいた少女に呼び掛ける。
周りに居たカムイやエウラ、ダリアにフレジア達もこちらに近づいて来た。
「なに? 団長」
「戦いに参加してくれるのはありがたいが、無茶はするなよ。魔力を消耗したと感じたら後方に下がるように」
「わかってるよ」
魔法剣の使用については彼女も「よくわかっている」という返事。
「心配してくれてありがとう。けど私も戦えるから。魔法の剣の扱いだって、ずいぶん慣れたんだよ」
「ああ、それは聞いている。──だが、戦場は初めてだろう? 周囲の仲間との位置を確認しながら戦うんだぞ。退却の合図が聞こえたら、ゆっくりと下がりながら戦うんだ」
俺の言葉に少女は「うん」と素直に返事をする。
フレジアも真剣な表情で頷いていた。──思えば彼女は、強力な個性と力を持つ二人の冒険者と組んで、この若さでは考えられないような危険な敵とも戦い、勝利してきたのだ。こんなに頼もしい仲間もない。
「俺の仲間を頼むな」
「うん。──任せて、ください」
彼女は返事をしながらも、どこか辿々しい感じで答えた。
この温和しそうなフレジアが戦闘になると、二本の手斧を振り回して戦う、恐ろしい戦士へと変貌するというのだ。
(少し見てみたいかも……)
そう思っていたのだが、ダリアやラピスと共にカーリアとフレジアは、俺やカムイの入る戦列とは別の部隊に参加する事になったのであった。
頼もしい仲間との距離は離れてしまいそうだが、魔法剣を使う仲間は密集して戦うよりも、個人の力で戦い抜く方が戦いやすいだろう。
そう考えながら時を待つ事にした……
九章も残り四話となります。
次話は金曜日、その次は日曜日と、週二回投稿していきます。
というのも次の章を時間を掛けて執筆したいので、次章の投稿は来年になるかもしれません……
他の作品も投稿再開しないといけないので。
そして次章でこの物語も完結予定!
勉強しながらの執筆なので時間がかかるのです~ご理解のほどよろしくお願いします。




