敵陣への猛攻
仲間の奮闘もありパールラクーン防衛隊(いま命名した)は敵を撃破し、山脈の間に敷かれた奴らの防衛拠点まで一気に肉薄する。
しかし俺達の体力は限界に達していた。敵の防衛拠点は石を積み上げて造った壁に泥を塗り込んだ雑な建造物だったが、幅が広く山間部に広がる広野への入り口を塞ぐ形で建てられていた。
そこを突破するのが思いのほか難しく、仲間達の疲れもあり、ここを越える事が出来ずに膠着状態に陥ってしまう。
「くそっ……! もう少しというところで……」
俺は歯噛みして敵の防衛線を睨みつける。
しかし体力の回復を待たねばならないだろう。
そんな時、敵の群れの中に見慣れぬ奴が姿を見せた。──あれが「犬狼の王」か? 望遠鏡を覗いていたが、周りの犬亜人達がひれ伏すような行動をとらなければ他の犬亜人と区別がつかなかったかもしれない。
大きさとしては犬亜人より少し大きい程度の──人間と変わらぬ大きさの犬亜人らしい。遠目でよく見えないが頭というか、上半身が下半身に比べて大きく、肩幅が広く見える。それは肩当ての入った毛皮のようだ。
「まさか中身は人間なんて言わないだろうな」
数百メートル先の敵に向かって悪態を吐くと、まさか聞こえたはずはないと思うが──犬狼の王がこちらを見たような気がした。
互いに消耗している所為かいきなり攻めてくるような事はなかったが、着実に石と泥の壁の向こうでは応戦体勢を固めている。
──こちらも急いで戦列を立て直し、各兵士の体調をなんとか戦えるくらいにまで回復しようと、治癒師達が全力で回復させながら戦列を移動している。
ナンティルも戦列の確認をしながら指示を出していた。
「いいかッ! いま後方から投石機を移動させているところにゃ! 投石機であの汚らしい壁を破壊し、さらに敵の陣地に爆破弾を浴びせ掛けるにゃ! 敵がこちらに向かって来たら、私達も打って出る! それまで気力を回復させておくにゃ!」
後ろを振り返ると、まだまだ後方にある投石機がゆっくりと山脈側に近づいて来るのが見える。アディーが後方で休んでいるのを見て、その疲れ切った表情から、今日はこれ以上アディーに負担は掛けられないなと思った。
魔力を回復したとしても、精神力が限界を迎えては魔法どころではない。
そんな風に思っていると──なんとした事か。犬亜人が打って出て来たのだ。
「なにぃっ⁉」
奴らもこちらの攻撃に圧倒され、這々の体で逃げ帰ったはず。──なのに、戦狗を従えた犬狼の王が先頭に立ち、まっすぐ俺の方に向かって来るではないか!
「敵が動いたにゃ!」
「配置につけ!」
「迎え撃つにゃ!」
そんな感じで慌ただしく仲間同士声を掛けて鼓舞し合う。多くの戦士は疲れて体を休めていたところだが──、敵はそれを見逃してはくれない。
山脈側からは犬亜人の吠え声が地鳴りみたいに響いてきて、暗い夜空の下に恐怖の波となって押し寄せて来る。
俺は真っ先に犬狼の王の正体を探ろうと考えて最前線に立つ。──体力的には厳しいが、気合いで立ち向かう。
それにしてもあの犬狼の王は真っ直ぐにこちらへ向かって来ている。
まるで俺が目的であるかのように。
「望むところだが」
疲れ果てていても戦うとなったら、全力で立ち向かうだけだ。
「『戦神の剣盾』!」
後方からアディーが数十人に魔法を掛けた。
それが合図となって他の魔法使い達も前衛に防御力強化魔法と、攻撃力強化魔法を掛けて援護する。
敵の先方は犬亜人の雑兵で、その後方から戦狗を従えた犬狼の王の姿が見えた。やはり違和感を覚える姿だ。まるで着ぐるみの様に見えるのだが……
「グォァアッ!」
粗末な幅広の剣で斬り掛かってきた犬亜人を一撃で打ち倒す。
猫獣人の戦士達も懸命に戦い、次々に敵を倒していく。
「ぉおおぉオッ!」
迫り来る犬亜人を倒し、大きな戦狗が突撃して来るのを待ち構える。
俺達は全力でぶつかり合った。
交差する武器と武器。
互いの身体の位置が入れ替わり、敵の波と味方の波がぶつかり合って激しい音を響かせた。
剣戟に混じる怒号と咆哮。息吹と鬨の声。
荒々しい戦いの中に交わされる命の遣り取り。
仲間が倒され、敵が倒され。
接近して来た戦狗と犬狼の王から同時に攻撃を受けた俺は、渾身の力で振り下ろされた剣を打ち払い、戦狗の持っていた大剣をへし折りながら、犬狼の王の幅広剣を豪快に薙ぎ払う。
「ガギィィイィンッ!」
鉄を弾き、叩き折る音。
強引に振るわれた剣で攻撃を弾かれた犬狼の王は横に跳び、自分から距離を取った。
剣を折られた戦狗に向かって、勇敢な一人の猫獣人が剣を持って立ち向かい、腹部を貫通する突きを見舞ってそれを打ち倒す。
「いいぞ!」
俺は声を掛けながら、よろけた敵の首領に躍り掛かる。
斬破を撃ち出す一撃を繰り出したが、背後に控えていたもう一体の戦狗に防がれてしまう。
「くそったれッ!」
びゅんっ、と剣を薙ぎ払う敵の王は、間近で見るとやはり、人間が獣の毛皮を被っているものだと思えた。
「グルルルルウゥゥ……」という唸り声は、奴の横に立った戦狗から聞こえるものだろう。
目の前に居る狼からは何も聞こえてこない。──その息づかいすらも。
そこへ猫獣人が斬り掛かったが、戦狗の一撃を受けて弾き飛ばされてしまう。
こちらも応戦したが籠手や鎧に阻まれて、戦狗に止めを刺す事が出来ない。
「なら私達が!」
不意に敵の側面に回り込んだエアネルとレンネルの二人が、戦狗を相手に善戦し、俺と犬狼の王から引き離してくれた。
周囲では犬亜人と猫獣人の乱戦が始まり、いよいよこの戦いの趨勢が定まろうとしているようだ。
「いくぞ!」
俺は魔剣を構えて、奇妙な構えを取る犬狼の王に立ち向かっていった。
犬亜人との決着へ向けていよいよ敵のボスらしい相手と対峙する。




